第30話
「今日はどれを着ようかな……」
私はキアーラの大神殿にいた時と同じく、朝日が昇る前に起きると、宿屋の部屋にある備え付けのクローゼットを開けていろんな色のワンピースを取り出した。
……こんなにたくさんある……。
自然に頬が緩んでしまって、その洋服を抱きしめた。
全部、ステファンが作ろうって言ってくれて、仕立て屋のおばあさんが作ってくれたものだ。
私のサイズにピッタリ合って、とっても着心地が良い。
ステファンって本当に良い人だよね……。
こんなにいろいろしてもらって良いのかな。
目移りしてしまって選べないので、私は目をつむって、今日の一着を選んだ。
目を開けてみると、手に取ったのは青い布地に水色のリボンのついたワンピースだった。
「今日はこれにしよう」
るんるんしながら着替えると、髪を編み込んで部屋を出た。
隣と向かいの部屋にそれぞれ泊まっている(というより、住んでいる)ステファンとライガはまだ寝てるはずだ。
そっと階段を下りると、1階の受付のところで、この宿屋の女将さんが「おはよう」とあいさつしてくれた。
「おはようございます」
「おはよう、レイラちゃん。今日も早起きで偉いねえ。ほら、サンドウィッチ用意しておいたよ」
女将さんが私に袋を手渡してくれる。
「ありがとうございます!」
私はそれを受け取って、宿屋を出た。
***
この街――、マルコフ王国の西端の街に滞在して、あっという間に日が経った。
ステファンとライガはここ2年くらいはこの街の冒険者ギルドを拠点に仕事をしているらしくて、宿屋にも実質住んでいるようなもので、二人の部屋には物がいっぱいあるみたい。
街にも知り合いがたくさんいて、二人と一緒にいると私にも挨拶してくれるし、いろいろ物をくれたりする。
みんないい人ばっかりで、とっても楽しい。
神殿を出て、少し離れただけのところに、こんなに素敵な場所があるなんて、ずっと知らなかった。
もっと早く、外に出てれば良かったのかな。
うーん、でもそうしたら二人に会えなかったし……、会えなかったら、街の中にも入れずに行き倒れてたりして……。
そんなことを考えながら、私は朝のまだ人気のない道を進んで、冒険者ギルドについた。
「レイラ、おはようございます」
ギルドに入ると、私が前着ていた白いのとは違う、黒い修道服の男の人が挨拶をした。
この人はテオドールさん。この街の教会の神官さんだ。
テオドールさんの他には、朝から魔物退治の仕事に出発するらしい、武器を抱えた冒険者パーティーの人たちが並んでいる。
「じゃあ、彼らの無事を祈って退魔の祈りをしましょう」
テオドールさんが手を組んで祈りの言葉を呟く。
「万の精霊神よ、彼ら人のために自らの危険を顧みず困難に挑みし者に加護を……」
私もテオドールさんに続いて「光の女神様」と呟き始めた。
祈りの言葉が違うのは最初びっくりしたけど、私が教わった神様の話と、テオドールさんの言っている神様はちょっと違うみたい(テオドールさんは光の女神様も神様のひとりですって言ってたけど、大司教様は神様は光の女神様がひとりだけって言ってた)
でも、効果は同じらしいし、まあ、いっか。
冒険者ギルドに冒険者として登録してる神官は、こうやって魔物退治なんかの危険な仕事に出かける他の冒険者の人に祈ってあげるのも、お仕事みたい。私もただステファンやライガにおんぶにだっこでお世話になってるばっかりじゃいけないから、自分にできる仕事を始めたんです。




