第211話
『石は入口を示す』……?
私は族長さんの言葉を繰り返して、首に下がった傷だらけの緑の石を見つめた。
入口って何の入口ですか?
「――魔族どもが隠れた里への入り口、魔族の石はその手掛かりのはずだ」
リンドールさんを操っている族長さんは私に向かって手を伸ばしました。
シュルシュル! と音を立てて、勢いよく周囲から蔦が私を捕まえようと伸びてきます。
「レイラ!」
後ろにいたステファンが剣で蔦を切り裂くと、私の体を引っ張りました。
切られた蔦の後ろからまた新しい蔦が伸びてきます。
私は火の精霊の気配を集めて爆発させました。
ぼん! という爆発音とともに、蔦が飛び散ります。
「反抗したところで無駄だ! お前たちはこの森から出られない!」
怒りに満ちた声で族長さんが怒鳴ります。
「石を渡せ! さもないと父親が苦しむぞ」
族長さんは絶叫するとお父さんに向かって風の魔法を唱えました。
「ぐぁああああああ」
お父さんの叫び声が響いて、木のようなお父さんの体を削って空中で血に変わって四散しました。
「お父さん!!」
「レイラ……俺のことはもういい……、お前に一目会えたから……、このまま里を抜けて人里へ戻れ!」
お父さんは顔を歪めながら叫びました。
「その石のことは……、ユリアの形見としか思っていなかった! 隠れ里への入り口を示すとは……!」
私は族長さんとお父さん、それからエドラさん、ステファンやライガを見比べました。
お父さんをこのまま置いていくことはできませんし……、そもそも、族長さんをどうにかしないと、このエルフの里から出ることはできないんじゃないでしょうか……。
それから首に下げた緑の石を見つめます。
この医師が魔族の里への入り口を示すんですか?
それを族長さんへ渡して、困ることはありますか?
お父さんが痛い思いをしなくて済むならあげてしまってもいいんじゃないでしょうか。
私は首からペンダントを外すと、族長さんの方へそれを掲げました。
「わかりました。この石が欲しいならあげます。でも先に、お父さんを離してください」
「レイラ、だめだ。魔族の隠れ里が開けば……争いが……」
族長さんの足元に転がったままのお父さんが私に訴えるように言いました。
争い? ……そうですね、族長さんは魔族を滅ぼしたいんですもんね……。
入口が開いたらそこにいる魔族の人たちをリンドールさんやエルフの里の人たちを使って襲おうとする……?
そうしたら、リンドールさんたちまで巻き込まれて傷ついてしまうかも……?
私はペンダントを掲げた手を下げました。
それからまた皆を見回します。
どうしたら……いいんでしょう?
「はやく、それをよこせ。父親は解放してやろう。しかし、渡さぬのなら、徐々に体を削ってやろう」
族長さんが蔦を操って、お父さんを私の方へ近づけました。
樹木のような体の表面は、さっきの風の魔法のせいで削れてしまっていて、そこから赤い血が滴っています。……せっかく会えたのに。族長さん——やってること、どちらが魔族ですか!
お父さんの表情は読み取れませんが、苦しそうな気がします。
――せっかく会えたのに、これ以上、苦しい思いはしてほしくないです!
私は緑の石を握った手を、再び族長さんの方へ掲げました。
「先にお父さんを解放してください」
「――物分かりがいい」
お父さんの体や首に巻き付いた蔦がシュルシュルと解けていきます。
代わりに私の手の方へ伸びてきた蔦が石のペンダントを絡めとりました。
ステファンが解放されてうめき声をあげたお父さんのもとに駆け寄ると、急いで回復魔法を唱えてくれます。
――そして、緑の石は族長さんの手元へ渡ってしまいました。
「ははっ、これで魔族どものいる場所がわかる! これで、長年の恨みをはらせる!」
リンドールさんの姿を借りた族長さんの乾いた笑い声が暗闇の中に響きました。
――そして、族長さんが何か呪文のようなものを唱えると、傷だらけの緑の石から光が四方八方に伸びました。
「――古代エルフ語」
後ろでエドラさんがつぶやきます。
「昔魔族はエルフと同じ種族だった。その時に使われていた言葉だ。――今は、族長くらいしか使えないと、思う」
それで、魔族の隠れ里への入り口が開いたんですか?
緑の石から四方八方へ広がった光の中心が歪み始めて、空間が割れていきました。
そして歪みの奥には――石だらけの暗い空間が広がっているのが見えました。




