第207話
お父さんは人っぽい形をしているけど、見た目は完全に木の幹みたいになっていて、表面は茶色い木の皮のざわざわした節になっています。
「こ、これ……お父さん、戻りますか……?」
恐る恐る聞いた私の言葉に、リンドールさんは安心させるように言い聞かせるような口調で答えてくれました。
「身体が樹化しているだけだ。我々エルフはもともと森の木々の精霊の化身だ。元の姿に戻っているだけだから、時間が経てば元に戻る」
と、とりあえず……元に戻るんですね……。良かった……。
「リン……ドール……、養父は……、アイグノールは……、俺を外に出すことを許したのか……」
父……って……そういえば……お父さんの親は魔族に食べられちゃって、族長さん……アイグノールさんが引き取ったって言ってましたもんね……。
幹の身体の割れ目から洩れる掠れ声にリンドールさんは頭を振った。
「――そんなことはあるわけがない。アイグノール様はお前の娘たちを追い返そうとした。しかし、この娘は諦めなかったよ。お前に会わてくれ、と。人間と里のはぐれ者を連れてやって来た。……魔族の血は確かに感じられるが……、お前の娘は我々が追っていた魔族と違う」
リンドールさんはしゃがみこむと、お父さんの顔っぽいところに自分の顔を近づけた。
「マイグリン、魔族の隠れ里を追った先で何があった。何故、子どもがいたことを黙っていた」
「レイ……ラ………」
問いかけに答える代わりに、お父さんは私の名前を呼んだ。
「はい!」
私は慌てて近くに駆け寄った。
ぎぎぎと音を立てて、手っぽいところろが少し動いた気がした。
その部分に触れると、じんわりと温かい。
「……ユリアに……似てきた……。すまなかった……、お前を置いて……、こんなことになって……」
「いいんですよ! とりあえず、私、元気ですよ!! いろいろあったけど、ステファンとかライガとか……、あ、そこにいる二人です、色んな人にお世話になって、元気です!」
何て返事をしていいのかわからなくて、そうやってまくしててから、はっとする。
「ユリア……」
どこかで聞いたことがあるような名前。もしかして……、
「お前の……お母さんの……、名前だ……」
私を見つめていた緑の目がリンドールさんに向けられた。
「この子の母親は……、魔族の隠れ里の長の娘……、だった。レイラが、成長して、無事なら、全て、話そう」
お父さんの言葉が続きます。
「俺や……、エレクシス……、討伐部隊は、隠れ里の入り口を、見つけて……、戦闘になり……、俺以外が、死んだ。そして、俺は、魔族の里に、連れて行かれた」
「何故、お前だけが生きて連れて行かれた」
「俺は、彼らを、殺せなかったからだ……。1人、捕まえたがトドメをさせなかった……、それが、ユリアだった。魔族は親の敵とずっと言われ続けてきたが……、魔族に襲われた記憶は、俺にはなくて……、実際に、エルフと同じような姿の魔族を見て……、殺せなかった。ユリアが俺の助命を、申し出てくれた。この人は誰も仲間を殺していない、と」
「――――なぜ、助命が聞き入れられた? 魔族はエルフを……他種族を喰らうはずだが」
「隠れ里に、逃れた魔族は、他種族喰らいを止めた、魔族だ」
「――止めた?」
「彼らは、他の種族と争うことを、止めた。隠れ里に籠って、自分たちだけで、生きている。だが、仲間を襲う連中は許さない。だから、エレクシスたちは殺されて、俺だけ生かされた……」
「――自分たちだけで生きている? 他種族を喰らわずにどうやって生きる?」
「魔族の隠れ里は、精霊の世界に近い空間にある。そこで、魔力の強い魔物を喰らって、ユリアたちは生きていた。だが……エルフや人間や――他の知性種族を喰らうことを止めた魔族には、子どもが生まれることがなくなった」
「えっ……」
でも、私……、そのユリアっていう人――お母さん――は魔族、ですよね。
「彼らは、ただそのまま滅びていくのを……受け入れていた――。だから、レイラ、お前ができたと知って、俺とユリアは隠れ里を出た……」
微かに動くお父さんの瞳が私を見つめた。
「お前には、ただ滅びるだけの隠れ里ではなく、外で色々なものを見て、生きて欲しいと、ユリアが言ったから……」




