第204話
リンドールさんの話を聞いて、私は彼を見つめて強く言った。
「――私は、大樹の森、というところに行きたです」
そこにお父さんがいるなら、行くしかないです。
そうじゃないと、ここまで来た意味がないですもん。
「……そう言うだろうと思った」
リンドールさんは深いため息を吐いて、私たちを見回した。
「大樹の森に案内しよう」
私は思わず飛び跳ねると、頭を下げた。
会った時は嫌な人かと思いましたけど、親切にしてくれるじゃないですか……。
「ありがとうございます!」
弾んだ私の声と反対に、後ろからステファンが静かな声で聞いた。
「族長殿の意思に反して、いいのですか? もちろん、案内して頂けるのは有難いのですが、その大樹の森に、僕たちが足を踏み入れて、問題は起きませんか? 例えば……先ほどのように、何かが攻撃してくるようなことはありませんか?」
……そうでした。さっき、族長さんと話をさせてもらった時は、尖った葉っぱが飛んできたりとか、こちらを傷つける気満々でしたもんね。森に入って、あんなのを四方八方からやられたらきついです……。
「大樹の森の木々は、族長のいる悠久の大樹とつながっている。私たちが森に入れば、森は怒りを示すだろう」
エドラさんも重ねるよう言いました。
——やっぱり、そんな感じですよねえ。族長さんが認めないと、また葉っぱが飛んでくる感じですよねえ。
リンドールさんは、頷いてから、重々しく言った。
「――その通りだ。だから、我々がアイグノール様をしばらくの間、封じさせてもらう。その間にマイグリンを見つけて欲しい」
「封じる……? 族長に反するということか」
エドラさんが驚いたように、声を大きくした。
今までの話だと、エルフは族長さんの意思が全体の意思ってお話でしたもんね。
族長さんの考えに反するようなことをして、大丈夫なんでしょうか。
また深いため息を吐いて、リンドールさんはうつむき加減に言った。
「マイグリンが戻って来てから……アイグノール様は心を乱されてしまった。実の息子と同じように育てた子どもが、魔族の側について自分を裏切ったことに、冷静な心を失くしてしまったのだと思う。――しかも、実のご子息は死んでしまったことは、確実な事実だと知って」
話の途中で、部屋の上の方から声がした。
「リンディ……、アイグノール様を封じるって……、本気なの?」
顔を上げると、金髪の髪を綺麗に編み込んだエルフの女の人が階段の上から私たちを覗いていた。手に小さい赤ちゃんを抱いている。
女のエルフの人を見るの初めてですね……。
華奢で透き通るような雰囲気で、綺麗な人です。こうやって見てみると、やっぱり男のエルフの人とは違いますね。
「エゼル、その通りだ。皆を集めてもらえるか」
その女の人にそう声をかけてから、リンドールさんは私たちを見回して、「妻のエゼルミアと娘だ」と二人を紹介して話を続けた。
「アイグノール様はマイグリンが里に戻って以来、また魔族の討伐部隊を――相手を攻撃し、制圧する魔法を訓練した精鋭部隊を、用意するように命じられた。私たちは本来、森に宿る生命を守り育むために精霊の力を使い、こちらから命を奪うために力を使わない。しかし、アイグノール様の命令に従うのであれば、若者や子どもたちに、相手の命を奪うような訓練をしなければならない……だから」
リンドールさんは奥さんと子どもを見上げた。
「エゼルとの間にようやくできたあの子に、そんなことは、させたくはない」
その話を聞いていたエぜルミアさんは頷いた。
「リンディ、わかったわ。皆に声をかけます」
その答えを聞いて、リンドールさんは私たちに向かって初めて表情を崩して言った。
「準備ができたら声をかける。それまで、しばらく私の家の周辺にいてくれ。――人間の食べるようなものはこの里にはないが、私たちの食べ物で良ければ出そう」
「――適当に、何か捕まえて食うから、気にしないでくれ」
ライガがそう手を挙げて言うと、リンドールさんはきっと視線を鋭くした。
「里では肉食は禁止だ。臭いで気持ちが悪くなる者が出る。ただでさえ、お前たちは臭う」
「そんなこと、エドラさんも言っていましたね……」
思い出して、ちょっと悲しくなった。
――臭うって言われると、傷つきますよね……。
リンドールさんはふと、急に表情を崩した。
「悪食をエドラと呼ぶんだな。私たちは、家族の間でしか名前を省略しない」
それは、初耳です。そういえば、リンドールさんたち夫婦もお互いに「リンディ」「エゼル」って呼び合ってましたね。
「肉が食いたいと里を出て行ったはみ出し者の青二才が、異種族をぞろぞろ引き連れて戻ってくるとは感慨深い」
リンドールさんの言葉に、ライガがエドラさんを小突いた。
「エドラ……すごい言われようだな」
エドラさんでも青二才って言われちゃうんですね。
エルフの方たちって、大人はみんな、ステファンくらいに見えるから、誰が年が上で誰が年が下なのか、ぜんぜんわからないです。
エぜルさんの抱いている赤ちゃんって、あれで何歳なんでしょうか。
そこで、私は「あ」とエドラさんを見た。
「エドラさん、エドラヒルさんって呼んだ方が良いですか?」
オリヴァーさんが呼んでいたのにつられて省略しちゃっていましたけど、失礼でしたかね。一応、確認すると、エドラさんは「そのままで構わん」とぶんぶん首を振った。




