第198話
翌日、朝ごはんを食べに食堂に行くと、「「おはようございます」」と、アイザックさんとヴィクトリアさんが声を揃えて挨拶してくれました。声が重なって、二人は「あ」と言うと、目を合わせてくすりと笑います。
……何だか、すごく仲良くなったみたいですね!
お二人とステファンとフィオナさん、それからエドラさんはもう席についています。
「――ライガは、一緒ではないのですか」
アイザックさんが私に声をかけました。
ライガのことを気にしてるみたいですね。
「ライガはジェフさんのところで先に食べてると思います」
『気を遣うから、おっちゃんのところで食べる』って言ってました。
「後でお茶に誘ってみましょう」
ヴィクトリアさんがアイザックさんに声をかけます。
和やかな空気の中、今日もジェフさんが作ってくれた美味しい朝ごはんを……と思っていると、ガタンっと扉が開いて、イザベラさんが車椅子を押して部屋に入ってきました。
ぴりっとした緊張感が食卓に走ります。
車椅子に座っていたのは、ステファンのお父さんのレオンさんです。
「食事を摂れそうだから、一緒に、と思って」
イザベラさんが私たちを見回して微笑みます。
「――家族全員でこうやって食卓にそろうのは何年ぶりでしょうね、レオン」
「――そうだな」
レオンさんは小さい声で呻くように呟くと、イザベラさんにすくってもらったスープを少しずつ食べます。
「――父さん、食事もとれるようになったみたいで良かったです」
食事が終わるころに、ステファンが話を切り出した。
「僕がこの屋敷に戻って来た件で、お願いがあります」
「――エルフの里への立ち合いを頼みたい、ということだろう」
そう言うと、レオンさんは机の上に青色の石を出しました。
何だか傷がたくさんある青色の石……。
「これは、昔、俺がこの土地の鬼討伐を行ったとき、エルフの里に呼ばれ……その時にエルフの里の族長からもらったものだ。『この度は鬼討伐ご苦労だった』とか何とか言ってな……。自分たちも助かったから、何かあればこれを持ってエルフの里を訪ねれば力を貸そう、だとか何とか言っていた」
エドラさんが手を伸ばして、卓上の青い石を見る。
「これは、刻まれているのはエルフ文字……、森を訪れた時に、森を守る空間魔法を通過させるための呪文が刻まれているな」
「それを持って行け……。アイザック、お前が騎士団を連れて同行してやれ」
アイザックさんは「はい」と元気よく返事する。
「――もちろん、そのつもりです」
「――ありがとうございます」
ステファンはお父さんに頭を下げた。
私も「ありがとうございます!」と一緒にお辞儀をしました。
皆さん、協力してくれて、本当に有難いです。
……ついに、エルフの里に行けるんですね!
私は胸を押さえて、それから「あれ?」と思ってエドラさんが持っている、その青い石を見つめた。……あれ、私が持っている緑の石と似ていませんか。
私は食卓を立つときに、じゃらりと胸に下げた緑の傷だらけの石を取り出した。
あの青い石もただ傷が入っているようにしか見えませんけど、エドラさんは「エルフ文字」って言っていましたよね。――もしかして、これも?
私は部屋に戻る途中のエドラさんに話しかけた。
「エドラさん、これ……って何だかわかりますか?」
私が緑の石を渡すと、エドラさんは顔をしかめた。
「――エルフ文字、ではないな。形は似ているが……? これはどこで手に入れたものだ?」
「――お父さんが置いて行ったものだと思います。唯一、私がキアーラに引き取られたときに持っていたもののようなんですが」
エドラさんは考え深げな顔をしてから、真剣な顔で私を見た。
「――――何か、魔法効果がありそうだ。悪いが私には呪文の解読ができないが……エルフの里に行っても、うかつにそれを表に出さない方が良い」
私は「はい」とうなずいて、慌ててペンダントを首にかけて、服の中に隠した。
食事の後は、客間に行ってみんなでお茶を飲みました。
「ライガ呼んでくるよ」
と言って、ステファンがライガを呼びに行って、連れてきます。
「はよー、親父さん飯食べられたんだって? 良かったなあ。おっちゃんが泣いて喜んでたぜ」
頭を掻きながらやってきたライガは、アイザックさんと見つめ合うと、しばらく沈黙しました。最初に口を開いたのはライガでした。
「——今日は、いい天気だな、若旦那様」
「そうだな。いい天気だな。——アイザックでいいよ」
「いや、おっちゃんにもちゃんと呼べって言われてるからさ」
ジェフさんの言うことは、聞くんですよね、ライガ。
でも、ライガとアイザックさんが二人でお話したの、こちらに帰ってきてから初めてじゃないでしょうか。
アイザックさんは心なしか嬉しそうな顔をしていました。




