第196話(ステファン視点)
持ち帰った骨を辺境民へ返したり、宿営地の荷物をまとめたりして、翌日、一部の団員を残して僕らは屋敷の方へと帰路についた。
「アイザック! 皆さんお帰りなさい!!」
屋敷につくと、ヴィクトリアがアイザックを目掛けて一直線に駆けてきた。
……本当に文字通り一直線に。
抱きつかれたアイザックは、ぎこちなく彼女の肩に手を回した。
おい……顔が赤くなってないか、あいつ。
僕はフィオナと視線を合わせて苦笑する。『ヴィクトリアが好きなのはずっとお前だよ』と言った宿営地での会話の影響を受けてるんだろうか。
「……ヴィクトリア様、ただいま戻りました。心配をおかけして申し訳ありません。兄上たちの協力のおかげで鬼どもは一掃できました。」
「そうなのね……! お疲れ様……!」
「これから、王都へは使いを走らせます。避難させていた使用人や領民にも戻らせますので、あなたに今までのような不便はさせません」
「――不便だなんて、そんなことはいいのよ! とにかく、まずはお休みになって。……それに、お義父様が目を覚まされたのよ」
「――父上が!?」
……そんなすぐに目を覚ますか、普通?
相変わらず体力というか生命力が半端ないな、父さん……。
嬉しいというか何というか、少し呆れたような気持ちでそう思った。
***
「父上!! お目覚めになりましたか!!」
アイザックが父さんの寝室にどたどたと足音を立てて駆け込む。
そこには、魔法陣の上のベッドで横たわる父さんと、その手を握る母さんがいた。
父さんは重ねた枕で少しだけ身体を起こしていた。
乾いた唇を動かし、掠れた声を出す。
「あ、アイザッ……クか、何度も……昔殺した鬼に四肢を砕かれる……夢を見ていた。お前が……、あいつらを退治してくれたのか……、さすが、私の息子……」
……寝込んでいたくせに、状況は把握していたのかな。
母さんが話したんだろうか。
「違いますよ、父上、僕だけではない。兄上が戻ってきて、協力してくれたからです」
アイザックが父さんの手を取りながら声をかける。
「兄……、あの怠け者の出来損ないか……、今、どこで生きているかもわからん……」
父さんはうわごとのように呟いた。
ライガが僕の肩を叩く。目が「気にするなよ」と言っている気がする。
もう慣れてるから、気にもしないけどさ。
「――あなた、ステファンは生きてますよ。戻って来たって言ったじゃないですか。そこにいるでしょう」
母さんが僕の手を引っ張って、父さんの前に出した。
「――……ステファンか?」
父さんは僕を見ると、目を大きく見開いた。
「……久しぶりです。生きてますよ、この通り」
苦笑しながら答えると、父さんはしばらく言葉を失ったように口をぱくぱくさせた。
父さん、本当に身体がでかいだけの骸骨みたいになってるな。
昔の迫力が嘘みたいだ。
僕は苦笑した。何でこの人の評価だけをあんなに気にしていたんだろうか、僕は。
「目を覚ましてくれて何よりです。母さんもアイザックもフィオナも、あなたのことをとても心配していましたから」
そう言うと、父さんは呟いた。
「……生きていたなら、それで良い。何の音沙汰もないからどこかで死んだものかと思っていた。お前は、弱かったから、すぐ死ぬんじゃないかと、気にしていた」
気にしてたのか。
いや、そんなにすぐ死なないって。
この人の世間の認識は、たぶん、前の家族が魔物に殺された修羅の状態で止まってるんだろうな。そう思うと、少しは気の毒な気はする。
もしかしたら倒れる前からずっと鬼たちの呪いにかかってたのかも。
「父さん、他の地域はこの辺りみたいに、魔物だらけじゃないんですよ」
僕は苦笑した。
「僕でも、それなりに冒険者としては優秀なんです。あなたに鍛えられたせいで、たいていのことはなんとかなってますよ、まぁ、感謝はしてないですけど」
「兄上! 父さんは病み上がりなんですよ!」
アイザックが困惑したように僕の肩を押さえた。
「口だけは、他の二人より達者だな……」
父さんは苦笑しながら、咳き込んだ。
「ステファンもアイザックもフィオナも、私たちの子どもはみんな元気ですよ、レオン。みんなで協力して、鬼を倒してきてくれました」
母さんがそう言うと、父さんは「そうか」とだけ答えて、ばたりと布団に倒れ込んだ。




