第191話
翌日、私たちはエドラさん、アイザックさん、フィオナさんたちと一緒にもう一度、屋敷の裏山に行きました。
ステファンが地図を見ながら指示を出してくれる。
「アイザックとレイラは、こことあそこで、爆発魔法で地面を崩してくれるかな。フィオナとエドラヒルさんは、土魔法で後を整えてください」
掘られていた洞窟を埋めるんですよね……。
言われた場所に立ったアイザックさんが剣先を空に向けて掲げる。
火の精霊の足音が剣の周りに大量に集まって、剣全体にぼわっと火が灯った。
……アイザックさんには、剣が杖代わりなんですね……。
そのまま、アイザックさんは剣を地面に突き立てた。
ボンっという爆発音がして、土ぼこりが舞い上がる。どどどと音を立てて、地面が崩れて、下の洞窟に流れ込んだ。フィオナさんが何か唱えながら杖を掲げると、落ちた土がうねうね動いて、傾斜を作って固まる。
私も同じように地面を爆発で崩した。エドラさんがそれを均してくれる。
ステファンは地図に×を描き込むと、「次はこっちだ」と私たちを手招きした。
「おー、すげぇな。俺、することねえな」
ライガは感心したようにつぶやくと「俺は、夕飯捕ってくるわ」と森の中に消えて行った。
***
「よし、これで全部埋めたはず……」
ステファンは×がたくさんついた地図を見ながらうなずいた。
「――こんなに洞窟が伸びていると思わなかったな……」
アイザックさんは土埃で汚れた上着をはたきながら呟くと、ステファンを見た。
「兄上……山全体はフィオナの使い魔や兵士の使い魔で見張っていましたが、洞窟内からは……考えていませんでした……」
「――役に立てたなら、良かったよ」
ステファンは苦笑して肩をすくめると、険しい顔をした。
「でも、これで解決したわけじゃない。鬼を倒さないことには……。アイザック、辺境騎士団で巣を叩けば、鬼を全滅できそうか?」
「蹴散らすことはできるでしょうが、全滅は難しいかもしれません。逃がさず、全匹仕留めるのは……」
アイザックさんも同じように険しい顔をする。
――同じ表情をすると、この二人、やっぱり似てますね。
アイザックさんの方が身体も大きいし、年上に見えるので、お兄さんみたいですけど。
「――全滅させないで、逃がしてしまうと、またどこかのタイミングで、父さんに恨みを抱いた個体が増えるな……」
ステファンはふと私を見て、それから考え込むように顎に手を置いた。
……何でしょう。
「――――レイラには、相手の攻撃性を高める力がある。――鎮静化の祈りと反対の効果の……」
ステファンの呟きにアイザックさんとフィオナさんが驚いた顔で私を見た。
「はい、ありますけど……」
私の答えは聞こえないみたいに、独り言のように言葉を続ける。
「辺境地のテントを襲ってきた鬼は僕に異様に攻撃的な反応をしたんだ。たぶん、父さんへの恨みを思い出したんだろうな。あいつらは見た目や匂いや魔力で、相手を認識してるから。僕と父さんが親子だっていうのがわかったのかな。見た目はあんまり似てないんだけどなあ」
「お兄様、何が言いたいの?」
ステファンはようやく私たちを見た。
「レイラの力で、鬼の意識を僕に向けさせたら、全員釣れないかと思って」
「――囮、というわけですか?」
アイザックさんはぴくりと眉を動かした。
「兄上、あなたは鬼一体に死にかけていたじゃないですか! 何を言っているんです」
「――――僕も逃げるだけならできるよ。馬の全力疾走の方が、鬼より速い。――遠距離攻撃は、精霊の加護魔法で防げますよね」
話を振られたエドラさんは眉間に皺を寄せる。
「ある程度は、できるが……しかし」
「僕が巣から興奮状態の鬼を連れて走る。アイザックたちが、それをまとめて叩いてくれれば……、そうだな、事前に落とし穴でも掘っておいて、上から魔法で叩けば、いけるんじゃないか?」
「――――しかし、父上の息子ということに、過剰に反応するのであれば、僕がやっても同じではないでしょうか。兄上がやらなくても……」
「お前に鬼が過剰に反応したことはあるか?」
「――わかりませんね。こちらに向かってきた鬼は、その場で切り捨てていますから」
辺境民の人たちを襲った鬼も真っ二つにしましたもんね、アイザックさん。
「お前にも反応するかもしれないけど、鬼は襲って勝てそうな相手の方が、安心して襲い掛かってくると思うよ。——何か言い方が変だけど、僕の方が襲うのにいい獲物だろうし」
ステファンはぽんぽんとアイザックさんの肩を叩いた。
「辺境騎士団の指揮はお前がいないとできないだろ、アイザック。彼らはお前を信頼してるんだよ」
それから、ふっと笑った。
「それに、馬の扱いだけは僕の方がお前より上手かっただろ」
「しかし……兄上に何かあったら困ります」
困り果てた表情で俯いてしまったアイザックさんに、ステファンも困ったように笑って言った。
「僕はお前の一応、兄なんだから、一回くらい頼ってくれよ」
アイザックさんは唸って黙ってしまいました。
そこで、エドラさんが少し大きめの声で言います。
「……加護魔法による援護は任せろ。私は、エルフの中でも魔法が得意だ。あとは、死んでいなければ大体は治療もできる。私は生命魔法の専門家だ」
……エドラさん、アイザックさんを安心させようとしてますよね、これは。
私もステファンが危ないのは嫌ですけど、皆で援護すれば大丈夫な気もします。
「私も、……頑張りますよ」
いざとなれば守りの祈りとか、できますし。
「――ステファンお兄様に、やってもらったら?」
フィオナさんの声が後押しになったのか、アイザックさんは頷いた。
「――では、兄上、その案でお願いさせていただきたいです」
「うん。そしたら、詳しく計画を立てよう」
ステファンはアイザックさんに初めて困り顔じゃなく笑いかけました。




