第188話
「おう、ずいぶんでっかい猪を、獲ってきてくれたなぁ。数日分の食料になるな、これは。でかしたライガ!」
褒められたライガは「だろ!」と小さくジャンプした。
――何だか、ジェフさんの前だと、ライガが子どもみたいですね。
厨房の裏庭で、ジェフさんはライガが獲って来た猪を前に腕まくりをした。
「お疲れさん。後は任せておけ」
そう言ってくれたので、私とライガはお肉をジェフさんに任せて休むことにした。
また泥だらけになったから、お風呂でも入って着替えますかね……。
そう思っていたところ、ローブのポケットから、ライガがくれた小鬼兜虫がごそごそと出てきた。そういえば――入れっぱなしにしてました。
「そうだ。暇だし兜相撲するか」
ライガも自分のポケットから小鬼兜を出して手を叩いた。
「――兜相撲? なんですかそれ」
「捕まえた兜同士を戦わせるんだ」
ライガは「ちょっと待ってろ」と言って、裏庭の薪置き場から丸太を担いできて、どん、と置いた。それから、庭の木になっていたオレンジ色の実をもいで皮を向くと、丸太の真ん中でぐしゃっと潰した。
「お互いの兜を丸太の端に置くんだ。そうすると、餌に向かって行くだろ。で、真ん中で会うと、喧嘩になる。逃げてった方が負けで、残った方が勝ちだ」
「へぇ……」
私はポケットから出した自分の兜をそっと丸太の端に置いた。ライガも同じように反対側の端っこに自分の兜を置く。
「よし、って言ったら手え放せよ」
「わかりました」
「じゃあ、よし!」
手を離すと、兜は一目散に果実の汁がついた丸太の真ん中に向かって走り出した。
――体の大きさは私の兜の方が大きいですね……。
ライガのは、小ぶりです。
そう考えているうちに、兜同士は丸太の真ん中で出会っていた。
がしん! と音がしそうな勢いで、二匹の兜は角と角をぶつける。
「わぁ」
迫力があって、思わずしゃがみ込んで近くでその取っ組み合いを見守った。
がんばれ……私の兜……!
思わず手を組むと、ライガが私を制止した。
「お前、あの変な力使うのはなしだぜ」
——うん、そうですよね。私は組んでいた手を放して、勝負の行方を見守った。
がしん、がしんと角と角をぶつけ合って取っ組み合いが続く。
身体の大きい私の兜に押されて、ライガの兜は丸太の下側に逃げるように移動した。
勝ちますね!
そう拳を握ったその時……、
「やった」
ライガの声とともに、ライガの兜が下から私の兜を角で突き上げた。
じじじと羽音を立てて、私の兜は空に飛び去ってしまう。
「あー……」
それを呆然と見送る私に、ライガが「勝ったぜ」と得意げに声をかけてきた。
何だか、すごく悔しいですね……。
「身体が大きければ強いってわけでもないんだよな」
「……私の兜のが弱いってわかってたみたいですね」
そう言うとライガは「そんなことないぜ」と笑った。
でも、これ――絶対、わかってた顔ですね。
悔しさを感じながら、丸太の上で果実を齧るライガの兜を睨んでいると、後ろから呆れたような声がした。
「ライガ……あなた、全く5年前と変わっていないじゃない……」
振り返ると、腕組みをしたフィオナさんが立っていた。




