第17話
マルコフ王国に入るための門のところには、甲冑姿の兵士さんが立っていて、数人の旅人っぽい人たちが並んでいた。
私たちもその列に並ぶ。そこでステファンが私に「レイラは何も言わず黙っててね」と唇に人差し指を立てて囁いた。
……どういうこと?
首を傾げている間に、私たちの番になった。
「通行証または冒険者証、商業許可証を」
兵士さんがそう言うと、ステファンとライガはさっと首に下げた札を出した。
何ですか、その札!?
私は混乱して、あわあわとした。
そんな私の横で、兵士さんは馬に縛り付けられたおじさんを見て目を丸くして、それからどうしてよいかわからずきょろきょろしている私を見つめた。
「この縛られている男は布の行商人か? 何で縛られてるんだ。 それにそこの女の子は通行証がないのか?」
「わ、私は、キアーラ王国で」
聖女をしていたんですが出て行けと言われてと、また二人にしたのと同じ説明を言おうとしたら、横からライガが私の口をふさいだので後半はもごもごした音だけが響いた。
ステファンが兵士さんに流暢に答える。
「すいません、まだ怯えてるみたいで。僕たちは、この行商人に護衛としてルシドドで雇われたんですが、道中、彼が竜の卵の密輸と、この小人族と人間のハーフの少女を荷馬車に隠して違法魔物取引と人身売買をしようとしていることを発見しまして、捕まえました」
(人身売買?)
私は顔を青くした。物騒な言葉だ。
ふと見ると、馬に乗せられたおじさんが青い顔で縛られた口元をカタカタ鳴らしている。
「小人と人間のハーフ……」
兵士さんは私の顔を覗き込んだ。
ライガが口から手を外すと、「合わせろ」と口の形で指示を出す。
「……そ、そうなんです。私、こう見えて16歳なんですけど」
私は左右の編み込みを耳にかけた。
「――確かに、耳が少し尖っているような――? 初めて見るな……、珍しい」
兵士さんはじろじろと私の耳を見た。
恥ずかしい――。なにこれ。なんでこんな嘘。
「B級冒険者――」
兵士さんは二人の持っている銀色の金属片をじっくり見ると敬礼した。
「お疲れ様です。ギルドへの報告よろしくお願いします」
「こちらこそ、お疲れ様です」
ステファンはにっこり笑うと、そのまま馬を引いて壁内に入った。
「――どうして、そんな嘘つくんですか」
私は小声で彼に聞く。
「キアーラ王国で聖女やってたなんて、あんまりでかい声で口外しない方がいいぜ」
ライガが先に耳打ちしてきた。
「あの国、冒険者ギルドも魔術師ギルドも入れてないし、秘密主義でみんな興味を持っている。光神教の神殿が内部を仕切ってて、すごい金を持ってるって噂だしな。そこの聖女様だと知れたら、誘拐されて何されるかわかんないぞ」
「そ、そうなのっ?」
私は思わず大きな声を出した。
そんなこと全然知らなかった……。
兵士さんたちにここまで送ってもらってたらどうなってたのかな。
すんなり入れてくれたのかな。
「ごめんね、事前にきちんと説明しなかった僕が悪い」
ステファンは頭を掻いて、「さて」とまだブルブル震えているおじさんを睨んだ。
「人身売買までプラスしたら、魔術師ギルドに引き渡されて人体実験コースでしょうけど……、どうしますか? 竜の卵の取引相手を言ってくれれば、そのへん調整しますけど」
おじさんは口をぱくぱく動かしていた。
ステファンは剣を抜くと、剣先で口輪を切った。
「言う、言う」とおじさんは青ざめた顔で何度も繰り返した。