第15話
私……人間じゃない可能性、あるの……?
「人間だとずっと思ってきましたけど……」
私は頭を抱えてつぶやいた。
「人間以外だと……、どんなものがいるんですか、この世界には……」
今まで人間以外のものって見たことがなかった。
「例えば、亜人、動物のような特徴がある人間とか――、ライガみたいな狼男もそうだけど」
ステファンは意外そうな顔をした。
「人間以外を見たことがないの? ライガを見ても驚いてなかったみたいだから、そうは思わなかったけど」
「たいていの人間は悲鳴を上げるんだよな、俺を見ると」
ライガはけっと舌打ちをする。それから首を傾げた。
「確かに、お前は特に驚いてなかったな」
「そんなに驚かなかったですよ。そんなことより、私、人間以外だとどんな可能性があるんでしょうか……」
自分が人間なのかそうじゃないのかは、かなり重要な問題だ。
「幼く見えるなら――大きな小人族とか――? ライガ、匂いでわからない?」
ライガは鼻を鳴らした。
「人間、だと思うけどな。こんなでかい小人族いるか? それに魔法を使うんだろ。それに聖職者だ。――光神教だっけ? 信じてるのは人間くらいだろ」
光神様は、私たちの神殿が祀る最高神の女神様だ。
私は顔をしかめた。
「そういう言い方は、しないで。光の女神さまはすべての人を平等に見守っていてくれています」
「すべての『人』だろ。お前、人じゃなかったらどうするんだ。信じてた神様に見捨てられるな」
ライガはくっくと笑った。
本当に可愛くない狼!
私はうつむいた。私は一体何なんだろう。何だか悲しくなってくる。
「そんなに落ち込むなよ」
ライガは焦ったように私の顔をのぞきこんだ。
「そうだ、耳、耳見せてみろ。小人族はちょっと尖ってるんだ」
そして、耳を隠すように左右で二つに編んである私の髪を耳にかけた。
「きゃぁぁぁ」
私は叫んで耳を押さえる。私の耳の形はちょっとおかしい。他の人みたいに丸くなってなくて、半分切れたみたいな変な形をしていてコンプレックスだった。
「ライガ、女の子に勝手に触るんじゃない」
「悪い悪い悪い」
ライガはおろおろと、また四足になったり二足で立ち上がったりを繰り返した。
私は覚悟を決めて耳を出した。
「いいんです。騒いですいません。昔から耳の形が変なの、ちょっとコンプレックスで……、この耳、小人族ですか?」
「……」
耳をじっくり見て、二人は顔を見合わせた。
「わかんない。尖ってる気もする」
ライガが言う。ステファンが呟いた。
「人間と小人のハーフとか……?」
「聞いた事ねぇよ」
私はまた頭を抱えた。
私は一体何なんだろう……。
でも、
「人間と小人のハーフって言ったら、冒険者ギルドに登録できますかね」
「種族も年齢も結局自己申告だし――問題ないと思う――けどね」
ステファンは「うーん」と困ったように笑った。
「冒険者は危ない仕事も多いし、教会が嫌なら、どこか住み込みで働けそうなところとか、探すのは手伝えるよ」
「住み込み……ってどんな仕事があるんでしょうか」
「宿屋とか、レストランとか……?」
レストランっていうのはなかなか魅力的ですけど。
おいしいものたくさん食べれそうだし。――でも。
「私、せっかくなので、いろんな町とか、いろんなところに行ってみたいんです。せっかく自由になったので!『冒険者』っていろんなところに行ったりしそうですよね」
「まぁ、いろんな所には行くよな」
ライガの言葉に、私は立ち上がった。
「じゃあ、『冒険者』登録したいです。聖職者なら、お仕事ありますよね!」
それから、ステファンに聞いた。
「私、『人間』って言ったら登録できないでしょうかね」
「――君の場合は「人間」て申告すると、『もう何年かしてから来てね』って言われるとは思うよ」
ステファンは少し困ったような表情で言った。
私は「うん」とうなずいた。
「じゃあ、『人間と小人のハーフ』ってことでいいです」
「それでいいのか……」
ライガが呆れたように肩を持ち上げて呟いた。
まぁ、これからの生活がかかってるので、人間じゃないならそれでもいいです。