表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!  作者: 夏灯みかん
【5章】元聖女は自分のことを知る決心をしました。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/217

第115話

「二人とも、病み上がりなんですから、ゆっくり寝てくださいね」


「わかったよ、ありがとう」


「はいはい」


 私の言葉にステファンは笑って、ライガは頭を掻いてそれぞれ部屋に入って行った。


 私は部屋に入ると、窓を開けて闇夜を見ながらため息をついた。

 結局ステファンには……、私の力の影響だって気づいてる? って確認できませんでした……。


 その時、夜風と一緒に羽虫が二匹――小さいのと大きいのが部屋の中に入ってきて、壁に止まった。私はじっと二匹の虫を見つめて、手を胸の前で組むと、ライガに向かって祈ったのと同じように祈った。


 ――小さいほう、大きいのをやっつけちゃって!


 かっと自分の瞳の中に炎が宿るような感覚があった。


 その瞬間、小さい羽虫が羽をばたばたばたっと大きく振動させて、大きい方の羽虫に襲い掛かった。大きい虫の背中にとまると、羽を震わせながら(かじ)りつく。


 私は瞳を閉じると、今度は全て静まりますようにと祈った。


 瞼を開けると、小さい羽虫は何事もなかったかのように、壁を登っていた。一方、齧られた大きい羽虫は、床に落ちて動かなくなっていた。


 ここ何日か、同じように何度か虫や鼠で試してみた。私が「相手をやっつけて」と祈ると、祈った相手が凶暴になって相手に襲い掛かるような効果があるみたいだ。普通の『祈り』の、鎮める力とは正反対の力だ。


 ――やっぱり、私が魔族だからなのかな。


 私はため息をついた。

 この力のことを皆が知ったらどう思うでしょうか……。


 私は正直、二人に会うのが怖かったんです。私のせいであんな目に遭わせてしまったので、申し訳ない気持ちもありましたし、たぶん私が原因だってわかっているはずのステファンは、ライガに話したのかな……とか、考えてしまって。


 ステファンはいつも通りの態度でした……。ライガは聞いてれば、何かしらか言ってくると思いますし、ステファンは優しいから自分の中に留めておいてくれてるんでしょうね。彼のことだから、話してみたら、きっと『そんなこと気にしなくていいよ』みたいに言ってくれるかもしれませんね。


 ――でも、私が気にする。


 これから先、今までと同じようにステファンやライガと冒険者の仕事を続けられると思えなかった。また変なところで、この魔族の力を出しちゃって、今度はライガが本当にステファンを食べちゃうかもしれないですし……。


 ぐっと拳を握る。


 私は、自分のことがもっとよく知りたいです。

 お父さんやお母さんのことや――、やっぱり親も魔族なのかとか――、そもそも、耳は本当に長かったのかとか――。


 ――でも、それは自分自身で調べないと。これ以上、ステファンやライガや皆さんに迷惑はかけられません。


 どうしたらいいだろう。

 まずは――、大司教様に、私がどこからキアーラの大神殿に来たのか、確認しないとですね。大司教様が言ってくれなくても、大神殿には何か手がかりがあるかも。昔の書類とか。わかりませんけど。


 とりあえず、自分のことを知るための手がかりはそれしか思いつかなかった。

 

 私は立ち上がると、荷物をまとめ始めた。

 自分の出自をしっかり確認するために、ここを出ようというのは、街に戻ってきてからずっと考えていたことではあるのです。


 今日のバーベキューを思い出します。とっても楽しくて、美味しかったぁ。 

 二人の元気ないつも通りの姿も確認出来て、よかったです。

 

 ――この街はとても居心地が良くて、皆いい人達です――。

 だからこそ、私のせいでその人たちに何か起こったら、自分自身を許せないと思う。

 周りの好意に甘えずに、自分のことは自分でなんとかしないと。


 本来なら、きちんと皆さんにご挨拶をしてから出て行くのが礼儀だとはわかっています。

 ——でも、皆さん優しいので、たぶん引き留めてくれるでしょうから。

 そうすると、また甘えてしまうので、決心が鈍らないうちに行動をしようと思います。

 

 貴重品を入れた袋をひっくり返した。じゃらじゃらと銀貨や銅貨が机の上に落ちる。それらと一緒に、緑色の傷だらけの石がついたペンダントが出てきた。

 神殿に引き取られたときに持っていたっていうものだ。


 ――これ、お父さんやお母さんに何か関係あるんでしょうか?


 私はそれをぶらぶら揺らして、机の隅に置いた。

 

 それから、お金を種類ごとに分けて数えながら、考えた。


 ――お金――、必要なら大司教様にもらえばいいですかね。

 大司教様、きっとお金たくさん持ってるでしょうし――、私、キアーラの神殿でずっと祈っていた分、何ももらっていませんから、多少はもらってもいいはずです。


 今ある分は、お世話になったぶん、ステファンとライガに残しておきましょう。

 それと――。

 

 私はクローゼットにかけた洋服を見た。

 何着も作ってもらったので、全部は持っていけませんね。

 

 ――サイズを調整すれば着れそうなものは、マナちゃんに着てもらいましょう。


 私は紙を一枚とると、『お金はステファンとライガで使ってください。残りの洋服はマナちゃんにあげてください』と書いた。

 そこで、はたと手を止める。

 これだけじゃ――何のことかわかりませんね。

 ステファンやライガのことだから、勝手に出て行ったら、捜してしまうかもしれませんね。

 直接挨拶できないのなら、せめてきちんと『出て行きます』って手紙くらいは書かないと。


 私はペンを見つめながら文面を考えた。


『ステファン、ライガへ


 見ず知らずの私に、色々と親切にしてくれてありがとう。

 おかげで、とっても楽しかったです。

 私は、自分のことを調べたいと思うので、この街を出ます。突然で驚かせてしまったら、申し訳ありません。

 ナターシャさんやテオドールさん、リルさんやノアくん、サムさんや女将さんや皆さんにも「ありがとうございました」とお伝えください。

 お金はステファンとライガで使ってください。残りの洋服はマナちゃんにあげてください。

 本当にお世話になりました。

 

 レイラ』

 

 どう書いたらいいのかわからず、何回も文章を修正して、ようやく書き上げた。

 ――これで、いいのかは、わかりませんけれど。


 私は立ち上がると、まとめた荷物を背負って、部屋を出た。

 カウンターにいる夜番の人が、受付を離れたタイミングを見計らって外に出る。

 『レイラちゃん、どこ行くんだい』とか聞かれたら、どう答えればいいのかわからないい。


 誰にも見られずに外に出られて、大きく息を吐くと、ローブのポケットから前に大司教様からもらった小さい水晶を出して手に握ると、それに向かって祈った。

 夜闇の中で水晶が小さく光る。しばらくすると、大司教様の声がして、あんまり見たくない顔が映った。


『――レイラじゃないか。こんな夜更けにどうした』


「お久しぶりです。大司教様、以前、私の両親の本当のこと教えてくれると言っていましたよね。それを教えてもらいたいんです」


『――戻ってくる気になったということか?』


 私は苦笑して言った。


「私のことについて教えてくれるなら、いったんは、戻っても良いですという意味です。長居する気はありませんよ」

 

 大司教様は怪訝そうに眉間に皺を寄せてから『まぁいい』と呟いた。


『戻ってくるならすぐに迎えに行ってやろう。マルコフ王国を出て、キアーラに向かう街道で待っていなさい』


 私は首を傾げる。ここを出て、キアーラの端まで少なくとも3日くらい、そこから王都まではさらに何日かかかるはずだ。大司教様は得意げに言う。


『――良い乗り物を手に入れたんでね。すぐに行ってやれるよ』


「乗り物?」


 大司教様が顔をずらす。水晶玉に、真っ赤な鱗に覆われた赤い竜の顔が映った。


 ***


「こんな夜に外に出るのか」という門番さんに、「冒険者の仕事です」と冒険者証を押し付けるように見せて街道に出ると、私は人気のない夜道をてくてくと歩きながら空を見上げた。


 ――竜なんて、大司教様は本当に何を考えてるんでしょうね。


 結局、あの竜の卵を買おうとしてたのって、もしかすると大司教様じゃないんですか?


 そう思いながら空を見ていると、空中に月明かりに照らされた大きな影が現れた。

 ――キアーラを出て、ステファンたちに最初に会った時に見た、火竜(ファイアドラゴン)だった。

 瞬く間に赤い竜は、どすんと街道に着地する。

 その背には得意げな顔の大司教様が乗っていた。


「迎えにきてやったぞ、レイラ」


「――どうも」


 私はぶっきらぼうにそれだけ答えると、竜の背に乗った。

 赤竜は翼をはためかせて、空中に舞い上がる。

 あっという間に街道が遥か下になった。


 私は、ふとポケットに手を入れて「あ」と呟いた。

 あの緑の石のペンダント……宿屋に置いて来ちゃった?


 後でポケットに入れようと思って机の隅に置いておいたのを、忘れてきてしまったみたいだ。


 私は後ろを振り返る。マルコフ王国の西端の街は、どんどん遠ざかって行った。

 夜更けの街は真っ暗で、数時間前まで皆で賑やかに飲み食いしていたのが夢みたいだ。

 ふと、急に瞳が潤むのを感じて、目元を拭った。

 

 ――これは風が目に入るせいです。

  

 そう心の中で言い聞かせて、フードを目深く被って風を受けないように頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ