第114話
教会の庭先ではテオドールさんやリルさんが鉄板やらお肉やら野菜やらを準備していた。
「――これは、素敵になりましたね!」
私たちに気付いたテオドールさんが手を止めて、焚き木を運んでいたノアくんとガイくんの首を掴んでこちらへ向けた。
「ほら! ノアたち! マナが素敵になりましたよ!」
ノアくんたちは口をぽかんとしてマナちゃんを見る。
――しばらくの沈黙の後、ノアくんがぼそっと呟いた。
「……本当に女だったんだな……」
「――!」
マナちゃんはぴくっと耳を動かしてから、ささっと私の後ろに隠れてしまった。
ノアくん、その発言はちょっと……。そう思ったところで、ガイくんがノアくんを肘で小突いた。
「マナは初めから女の子だよ! お前の言い方で傷ついただろ!」
「――何だよ、ガイ! 俺の後ろに隠れてた弱虫が、小突いてんじゃねぇよ」
「――――っ、確かに、そうだけど――、それとこれじゃ話が違う!」
あああ、言い争いが始まってしまいました……。
と私がわたわたしていたら、ナターシャさんが2人の襟首を持ち上げて怒った。
「二人とも騒がしいよ。手伝うなら、ちゃんと手伝って」
「「はーい」」と獣人の男の子二人は声を合わせた。
「あたしも手伝う」
マナちゃんも私の背後から出て、二人と一緒に物を運び始める。
――この教会に来て数日ですけど、二人とも馴染んでるみたいで良かったです……。
そう思っていると、「ただいまー」と耳慣れた声が聞こえた。
私はくるっと振り返って、瞳を輝かせた。
「ステファン! ライガ! お帰りなさい!」
王都で入院を終えた二人が出発したという連絡は、3日前にサミュエルさんから水晶を通じてリルさんに連絡があったって聞いていたから、そろそろ帰ってくるかなとは思ってたけど。
「宿屋に戻ったら、こっちでみんな集まってるってレイラの伝言があったから来てみたけど、間に合って良かったよ」
ステファンはそういつも通りにこやかに笑った。
私は少し黙り込む。――あの時、あの場で唯一冷静だったステファンは、私の真っ赤になってた瞳を見ていたはずだ。――どう思ってるんだろう。ライガをあんな風にステファンに襲い掛からせるような状態にしちゃったのは、たぶん、私の力だって気づいてるかな?
――ステファンのことだから、気づいてるよね、たぶん。
「レイラ?」
ステファンは首を傾げた。私は顔を上げると、笑顔を作って聞いた。
「――二人とも、身体は何ともない?」
「元通りだぜ! ぜんぜん問題なし」
ぐるぐる腕を回しながらライガが元気良く答えた。
「あら、二人とも間に合って良かったわぁ」
「王都で入院してたって言うから心配してたけど、いつも通りじゃねぇか」
リルさんとサムさんがこちらに手を振って歩いて来る。
その後ろからエイダン様とハンナ様、それからソーニャとジャンさんも来た。
***
火をつけた鉄板を囲んで、リルさんがお酒を入れたグラスを指で弾いた。
チンチンっと音が響いて、皆リルさんに視線を向ける。
「ノアくんが無事で何より! ナターシャ、テオドール、ステファン、ライガ、レイラ、お疲れ様ぁ」
「お疲れ様!」と声が響いて、皆が飲み物を口に運んだ。
――私は林檎ジュースだけど……。ちなみにライガも。
私とステファンとライガが鉄板でお肉を焼いていると、どこからかお酒を片手にエイダン様がずずいっと間に入って来た。――ついてにハンナ様もくっついて来てる。
「――いやぁ、お前たちが留守の間、すごいことがあったんだ。何と、僕は寄生茸を倒したんだ!」
「そうか、それはすごいな。――ほら、レイラ、これ焼けたみたいだから食え」
ライガが私のお皿によく焼けたお肉を乗せてくれる。
聞いたことのない魔物の名前に、私は首を傾げて聞いた。
「寄生茸って何ですか?」
「よくぞ聞いてくれた、レイラ。寄生茸というのは、大きい歩くキノコなんだ」
「――きのこ……」
私は鉄板の上で焼かれている茸を見つめる。茸の魔物? それって強いの?
ステファンが補足してくれる。
「キノコというと弱そうだけどね、珍しいし、危険な魔物なんだ。周囲の魔物に胞子で取り付いて、身体を乗っ取ってしまう。そんなのが出たのか?」
「そうなんだ! 最初、僕とソーニャとジャンは小鬼退治ってことで行ったんだがな、巣に行ってみると小鬼の様子がおかしい。ふわふわした胞子に包まれて、丸まっている。小鬼の身体からは糸みたいなのが出ていて、木みたいな大きさの二本足の茸に繋がっていたんだ!」
そういえば、私たちがいない間、エイダン様はソーニャとジャンさんとパーティーを組んでいたんでしたっけ。
「きゃあ、怖い!」とハンナ様が小さく声を出した。
今の話……怖いかなあ。
「僕らに気付いた小鬼たちが一斉に襲い掛かってきて、ソーニャたちは大混乱で、その大きな茸に攻撃したんだが――全然効果がなくてね。僕は冷静に言ったんだ『本体は、そっちじゃない。小鬼のどれかだ』ってね」
「さすがですわ、エイダン様」
ハンナ様が惚けたような顔をして言う。ステファンがてきぱきと焼けた野菜を私とライガのお皿に乗せて、次の野菜を鉄板に乗せながら、また補足した。
「――大きい茸が本体に思われがちだけど、それは目を欺くためなんだ。本体は操っている魔物の方に移動するから、そっちを叩かないと意味がないんだよ」
私は「はぁー」と感心の声を上げた。
そんな魔物がいるんですね。さすがにステファンはよく知ってますね。
「僕の冷静な一言のおかげで、ソーニャたちも落ち着きを取り戻してね。高ランク冒険者の案件の寄生茸を倒したんだ!」
エイダン様がそう言ったところで、ソーニャの鋭い声が飛んできた。
「全部ステファンのノートのお陰でしょう。それに小鬼を焼き払ったのは私の魔法ですからね。全く、何を全部自分の手柄のような言い方してるのかしら?」
エイダン様は珍しくしゅんと肩をすくませた。
「――ソーニャ、お前……もう少し、柔らかい物言いにできないのか? ――ハンナのように相手をいたわるようにしないと、嫁の貰い手がないぞ?」
「余計なお世話よ! 『ハンナみたいな態度』っていうのは『猫かぶり』っていうのよ。その子、私やジャンに対する反応、貴方とぜんぜん違うんですからね! 見せてやりたいわ」
「――ひどいっ。エイダン様、この女、私にひどいこと言いましたわ!」
「ソーニャ、俺は君のそういうはっきり言うところが、頼り甲斐があって、その、素敵だと思うよ」
どこから来たのか、いつの間にかジャンさんまで私たちの周りに加わった。
「何よ、事実じゃない! 貴女、人によって態度変えすぎなのよ」
「――聞いてる? ソーニャ……」
「ひどいわ……。エイダン様ぁ……」
ステファンがお酒を一口飲んで、ため息をついた。
「賑やかだな……」
――本当に、そうですね。
私は同意して頷く。
「『騒がしい』の間違いだろ」
ライガは鼻先に皺を寄せて訂正すると、「これも焼けてるから食え」と私のお皿にお肉を載せた。結局日が暮れるまで飲み食いをして、私たちは宿屋への帰路についた。




