第113話
「マナちゃん、そうそう、上手です!」
あれから何日かして、西端の街に戻って来た私は、テオドールさんの教会で、ノアくんが助けた黒狼の獣人のマナちゃんに髪の結い方を教えてあげていた。
マナちゃんと、ノアくんと捕まっていたもう一人の男の子……ガイくんはナターシャさんたちが引き取ることになった。
マナちゃんとガイくん――二人は王都でスリなんかで生活してた、同じ獣人の子どものグループにいたみたい。
――他に何人かいたはずの、そのグループのリーダーをはじめとした子供たちは見つかっていないそうだ。ベルリクさんたちのグループは、マナちゃんたちのグループに目をつけて、順番に攫っていたみたいだ。彼らはマナちゃんを助けたノアくんもそのグループの一員だと思って連れ去ったんじゃないか、ってナターシャさんは言っていた。
マナちゃんは髪の毛の量が多いから、編み込まないとぼさっとしてしまう。だからナターシャさんに「教えてあげてくれる?」って言われたんです。
マナちゃんはじぃっと鏡の中の、私と同じように二つに編み込んだ髪型の自分を見つめている。ズボンから先っぽが出た黒い尻尾が少し左右にふわふわ揺れている。
――かわいい……。いつも思いますけど、獣人さんの尻尾と耳のかわいさは反則じゃないですか?
私は持って来た鞄から、仕立て屋さんで作ってもらった水色のワンピースを出した。
似合うと思って持って来たんです。
マナちゃんは私より少しだけ小柄だけど、リボンで調整できるからサイズ合うはず!!
ずっとだぼっとしたズボンとシャツ姿で、男の子みたいだから、これ着たら見違えるはずです!
「マナちゃん! これ、これ着てみましょう!」
マナちゃんは「え?」となんとも言えない顔をしたけど、尻尾は揺れてるから喜んでるはず!私はワンピースを黒狼の女の子に被せた。
「おぉ……、可愛いねえ」
部屋に入って来たナターシャさんはワンピース姿で髪を結ったマナちゃんを見て、目をぱちぱちさせた。マナちゃんは恥ずかしそうに私の後ろに隠れた。
「レイラ、ありがとね。ほら、ちびっこならいいんだけど、そのくらいの年の女の子だと、テオが髪結ってやるのも何か微妙だしさ。アタシ不器用だし」
ナターシャさんは短い自分の髪の毛を触って苦笑いした。
「いいんです! いつでもやりますよ!!」
私はこくこくと頷いた。
「そのワンピース、レイラのだろ? いいの?」
「よく似合ってるので、あげます」
私がそう言うと、マナちゃんの耳がぴくっと揺れた。
「ありがとね。マナも、お姉さんにお礼言ってね」
「――ありがと」
マナちゃんは小さい声でそう呟いた。ナターシャさんは「庭に出てるね」と手を振って部屋を出て行った。――今日は、『ノアくんが無事で良かったねお祝い会』ということで、教会の庭で冒険者ギルドの人なんかが集まって、バーベキューをやることになっているんです。
「――お前、『お姉さん』なの? いくつ?」
マナちゃんが小首を傾げて私を見た。
ああ、まあ確かに、マナちゃんから見たら自分とあんまり年の変わらないのが何やら大人ぶってて、変な感じがするかもしれませんね。
「そうですよー。こう見えて16歳ですよ」
私がそう言うとマナちゃんは目をぱちぱちさせた。
「――姉ちゃん、人間じゃない? 小人?」
「そうですねえ」
私は言葉を濁して笑った。――『魔族です』とは、答えられません。
――あの時、ステファンの剣に映った自分の赤い瞳を見て、私は自分が魔族だということに、自分自身の中で確信が持てた。
――うん、私、確実に『魔族』だと思います。
私たちは、あの後、王都の方に戻った。ベルリクさんはサミュエルさんたち、王都の魔術師ギルドに身柄を引き渡された。――レイヴィス商会っていう、お尋ね者の人たちの場所を知ってそうだからって、魔術師ギルドで尋問するらしい。
ライガは結局王都に着いた頃に目を覚ましたけど、途中から何にも覚えてないらしく、「我忘れてたわ。ごめん」とステファンに謝ってて、そこはそこで完結して、結局――ライガの暴走は、昔の知り合いとの殴り合いで我を忘れたからってことになったけど。
ライガやあの場の空気をおかしくしたのは、間違いなく私の力だと思う。
ライガとステファンはそれぞれ思いのほか負傷してたので、回復魔法で閉じた傷口が開かないようにしばらく安静にということで、王都の治療院に入院になった。私たちは二人を王都に置いて、ノアくんも連れて一足先に西端の街に戻って来た。
「……外に出ましょうか」
私はマナちゃんを連れて庭に出た。




