表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!  作者: 夏灯みかん
【5章】元聖女は自分のことを知る決心をしました。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/217

第109話(ライガ視点)

 ノアの発言に、周囲からは嘲笑の笑い声が起こった。


「この『兎』、魔法使いに飼われる『冒険者』になるんだとよ! だったらここで()っとかねぇとな!」


 ノアに殴り飛ばされた15・6くらいの年のガキの獣人を、そいつと同じグループっぽい男が受け止めて、壇上に投げ返した。そのガキは、口から血を吐き出してふらりと立ち上がると、再びノアに向かって身構えた。


 俺は周囲でノア相手の喧嘩の順番待ちをしている獣人を見回した。

 どいつも10代中ごろくらいまでのガキばっかりだ。

 

 そう、これは――、通過儀礼だ。


 『兎』と称して連れてきた素人を、新人のガキどもが殺せるか殺せないかを見物する、悪趣味な見世物。

 それを通して、こいつらの上役は、ガキが使い物になるかどうかを判断する。

 ここで怖気づくようでは、下働きの捨て駒として使い捨てられるだけだ。だから、今ノアに向かっているやつは、もう一回けしかけられた。ここでまたやられれば、こいつは捨て駒確定。逆に相手を倒すような『兎』は、『獣』として自分たちの身内に引き入れるんだろう。


 ――ノアの相手も必死だ。今後の自分のチーム内での生き死にがかかってるんだから。

 

 俺は階段をゆっくり下るナターシャの方を見た。


 ――ここは任せとくべきか。ノアが危なくなるようならナターシャがすぐに止めに入るだろうが――


「何回来ようが同じだっつーんだ!」


 ノアは震えて丸くなったもう一人の『兎』役を背中にかばったまま低く身構えると、相手のパンチをかわし、横から再び場外へとそいつを殴り飛ばした。周囲からどよめきが起こる。飛ばされたそいつは階段に頭をぶつけて、そのまま転げ落ちた。


「――次は俺だ」


 次の相手がノアの前に躍り出る。ノアはそいつも、あっという間に外に蹴り出した。


 ――あいつ、動きが良いな。


 俺は思わず唸った。半分人間のくせに動きのキレが良い。

 

 ノアの動きに驚いているのは周りも同じだったようで、ノアが攻撃を決めるたび、歓声の野次があがった。――俺たちが出る必要がない。

 

 そんな調子でノアが3人ほど倒したところで、ぱんぱんっと手を叩く音が響いた。


「良い戦いっぷりじゃねぇか、坊主。お前は立派な『獣』だ」


 取り巻きの中から階段をゆっくり下って出てきたのは、大柄な、茶色いぼさっとした髪の――獣の耳が生えていない、人間の男だった。よく鍛えられた上半身は裸で、だぼっとしたズボンを履いている。


 ――人間?


 俺は首を傾げる。この集会には俺たちが交ざったグループのリーダーみたいに、人間も参加はしている。だけど――人間は基本的に、闘技会自体に口出しはしてこないはずだ。ここは獣同士で争う場なんだから。


「なんだよ、次はお前がやるのか!」


 ノアはそいつに向かって身構えたが、腰が引けてるのがわかった。

 さっきまで相手をしていたガキどもとは相手が違う。その男には相対すると腰が引けるような凄味があった。


「おう、威勢が良くて結構――、しかし、お前の後ろにいる『兎』はだめだな」


 その男は、一歩ずつノアたちに近づく。ノアは爪を光らせて、男を威嚇したが、男は歩みを止めない。男はゴミを見るような目でノアの後ろに隠れたガキを睨んだ。


「まったく、震えて、隠れてみっともない」


 さっきまで囃子(はやし)声を上げていた周囲はしん、と静まった。


 ――この雰囲気、あいつ、主催のやつじゃねぇか。


 俺が視線を流すと、視界の隅でナターシャが頷いた。


「近寄るんじゃねえ!」


 ノアは男に飛び掛かったが、そいつはそれをひょいっと軽く除け、ノアの後ろで震えていた、もう一人の『兎』役の子どもの頭を掴んで持ち上げた。


「――戦わないのなら、その牙も爪もいらんだろう。――俺が抜いてやろう」


 男は震える子どもの口に手を伸ばした。――次の瞬間、ナターシャの姿が消えた。


「っつ!?」


 男の声にならない声とともに空中に血が舞う。男の手は深く裂け、だらだらと血が流れていた。その手に捕まれていた子どもの姿はなく、ノアの姿もなくなっていた。広場の隅、テオドールとレイラがいる近くに、ナターシャがノアともう一人を片手ずつで抱えて立っていた。


「――なんだ、お前は?」


「アンタ――この会の、主催だね? アタシの子らに手ぇ出してんじゃないよ」


 ナターシャは二人をテオドールの方へ押しやると、低く身構えて、そのまま男に向かって滑走した。

 

 俺は嫌な予感がして、そちらへ走り出した。

 あの男、耳が生えてないってことは――、たぶん俺と同じ獣憑き――、普段は人間で、完全獣化するタイプだ! 


「ナターシャ、ちょっと、ま!」


 駆けながらそこまで叫んだところで、俺の脇をナターシャの身体が飛んだ。


「て……」


「ナターシャ!」


 振り返ると、テオドールが飛んできたナターシャをキャッチして、尻餅をついていた。


「――そのガキの親か。よくもまぁ、ここまで来たもんだ」


 男の呆れたような声が聞こえる。

 向き直ると、そいつは全身が茶色い毛に覆われた、でかい獣の姿になっていた。

 茶色い毛に丸い耳。――熊憑き。

 そいつは俺をじっと見て、大きい口でにっと笑った。


「よぉ――お前、さっき威勢よく暴れてた狼男――、やっぱり、ライガじゃねぇか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ