第11話
日が西に傾いてくるころ、私たちは足を止めた。
「今日はあのへんで野宿だね」
ステファンが街道外れの、旅人の野宿用なのか、空の馬宿と井戸と石畳がある場所を指差した。
そこへ移動して、ようやくライガの背中から降ろしてもらえて、私は伸びをした。
「ここまでありがとう。……その、重かったでしょ」
何時間も人1人担いで歩き続けるなんて、狼男ってすごい体力だなぁ。
ライガはじろりと私を睨んだ。
「いや――軽すぎる」
「え?」
「骨と皮じゃねえか、お前、ちゃんと食べてるのか?」
彼は眉間に皺を寄せたまま私をのぞきこんだ。
恥ずかしくて顔が熱くなる。――確かに、私はガリガリだ。
だって最低限の食事しかしてないし。
でも人にそれを言われると恥ずかしい。
「あんまり――お肉とか食べちゃだめだったの、今まで」
「えっ、肉駄目なのか?」
「うん。肉食は聖魔法の力を弱めてしまうからって――」
「可哀そうだな」
ライガは心底同情するように呟いた。私はまた顔が熱くなって黙り込んだ。
同情されると辛い……。
そうだよね、しっかり食べられないなんて可哀そうだよね。
私だって好きなものたくさん食べたかった。
何で今まで我慢してたんだろう。
――だって、親が捨ててったのに、育ててもらったし……。
――やっぱり、そういう恩は返さないとでしょ……。
いろいろ考えてたら涙が出てきた。
「うぅ……」
「えええええ、何で泣いてるんだよ!」
ライガは手を地面について四つ足になったり立ち上がったり、面白いほど狼狽えている。
「好きなもの……食べたかった、ほんとはぁ……、ドレスだって、ハンナ様みたいな、かわいいの着たかったし、お茶会とか、私も出てみたかったぁ……、ううぁぁぁ」
「そうか、そうか、よく分かんないけどさ、大変だったんだな」
狼男はふさふさした手でぽんぽんと私の頭を叩いた。
……あれ?
私はふっと真顔になると黙り込んだ。
……なんか、このふさふさしたのが頭に触れる感じ、前にもどっかで、あったような?
「ライガ、何してるんだ?」
私が首を傾げていると、馬を小屋につないでたステファンが呼びかけた。
「何でもねぇよ!!」
ライガは急に黙った私を訝し気に見ながら、ステファンに大声を返す。
「今日の夕食は豪華にしようぜ!」
***
パチパチと燃える薪の上には鍋が煮立っている。
中でお肉とかキノコとか野菜とかがぐつぐつと踊っていた。
私はそれを一口食べて、絶句した。
「……表現する言葉が見つかりません」
神殿で食べていたスープとは味の深さが段違いだった。
あのスープが一階建てだとしたら、このスープは空まで届いてしまうかもしれないくらいいろんな味がする。
「こんなに美味しいスープ、初めて食べました」
「そんな風に言ってもらえると嬉しいな」
ステファンは満面の笑顔だ。
――食事の準備は全部彼がやってくれた。
私とライガは枝を拾ってきて焚火を起こしたくらい。
「そんなにおいしいか? 俺は肉が入ってればなんでもいいけどな」
お肉ばっかりお椀にすくってライガは言う。
「こいつはいっつもこんな感想だからね。作り甲斐がないよ。――おい、ライガ、野菜も食べろ」
ステファンは野菜をすくってライガのお椀に盛った。