第106話(ライガ視点)
レイラとテオドールと分かれて、俺とステファン、ナターシャは目的地に向かう道すがら、闘技会に参加するグループを探していた。
闘技会っていうのは、グループ参加が基本だ。
闘技会は何ていうか、獣人を中心にした反社会的な団体の集会的なもので、それぞれのグループの沽券を示す場っていう意味もある。
それに交ざるためには、参加グループに混ざらないといけないわけで……。
森に入って行くのに一番無難な林道で、俺たちは5人の獣人と人間のグループを見つけた。
「おぉ、発見」
俺は獣化すると、手をぱきぱきと鳴らした。
レイラと行動するようになってから、街からあまり離れずに地味な魔物退治ばっかやってきたから身体がなまってる。人相手にしっかり喧嘩していいってことでテンションが上がる。
「なぁ、ステファン! ナターシャ! あいつらでいいよなっ」
「いいんじゃない。見た感じ、弱そうだし」
ナターシャも伸びをして、左右に身体をひねった。
だいたいこういう歩きやすい普通の道を選ぶのは弱いグループだ。
「行ってこいよ」
ステファンはひらひらと手を振った。
***
「よお」
俺は林道の脇を抜けて団体さんの前に出ると、片手を上げて挨拶した。後ろにナターシャが腰を低くして構えているのが見える。
「何だ? お前は?」
人間の男が俺を睨みながら手を上げた。周りにいる獣人たち4人が身構える。
狼系が2人、ナターシャみたいな猫系の獣人が2人。まあ、喧嘩好きな肉食系の獣人は狼っぽいのか猫っぽいのが多いから、無難な構成だ。たまに蛇とか珍しい動物の特性持った獣人がいると、変な技があったりして面倒なんだけど、これだったら全然問題なくやれそうだぜ。
――あの人間が主人か。
俺は獣人たちに守られるように囲まれた人間の男を睨んで、鼻先に皺を寄せた。
飼われてるみたいでみっともねぇな。
獣人は人間より身体能力はだいたい高いからか、だいたいが農場なんかで労働者として使われることが多い。だけど、肉食系の動物の特徴を持つ獣人は、特に力が強くて喧嘩っ早いのが多いから、窃盗とかそういうことする集団で実行部隊や護衛として使われることがよくある。
――どっちにしろ、上役の人間に使われてることが多い。
「お前ら、これから遺跡跡の闘技会行くんだろ? 俺も行きたいから、お前らの仲間にしてくれねぇか?」
単刀直入に、要件を伝えてみた。
まぁ、これで「はい」って言ってくれれば話は早いんだけどさ。
「は? お前、どこのモンだ?」
人間の男は眉間に皺を寄せて俺を睨んだ。
「別にどこのモンでもねぇよ。闘技会に参加したいんだ。だからお前らの仲間ってことにしてほしい。どうだ? お前らより強いぜ」
腕を組んでそう言うと、狼系の獣人のやつらが唸った。煽られてる、煽られてる。
そいつらは人間に狼の耳が生えて、腕に毛皮があるだけだ。
全身獣化できる狼男の俺から見れば、人間が狼のコスプレしてるだけだな。
獣人の世界では、獣の特徴が強ければ強いほど、それに比例して力も強いってされるから、肉食系の獣人界隈では、より獣っぽい方が立場が上だ。
だからか知らないけど、完全獣化できる狼男を狼系の獣人は「あいつらはただの魔物だ」とか言って勝手に敵対心持ってくるやつも多い。知らねぇよ、って感じだけどさ。
「――鬱陶しいな。お前ら、やれ」
男は手をくいっと動かした。
――同時に、4人が一斉に俺に向かって飛び掛かって来た。
一気に頭に血が昇って、吠え声を上げると腕を前に出して身構える。
すっと低い位置から猫系の獣人の男が飛び掛かってくるのをかわして飛びあがると、太い木の枝を掴んでぐるっと身体を回しながらそいつを蹴り飛ばす。
そのままその枝をへし折って、最初の猫男の後ろから来た狼の頭に叩きつけた。
そいつはそのまま土に頭を埋めて動かなくなった。
最初に蹴り飛ばされた猫男が受け身からぐるんっと回転して、そのまま爪を出して飛び掛かってくる。
頭に血が昇ってんのか直線的なうえにのろい。これだったらノアのが速いって。
俺は今度はまた上に飛ぶと見せかけて、いったん小さく跳ねてから、素早く身をかがめた。そいつはつられて上に飛んだので、それを下から拳で突き上げる。
ばきばきっと上に飛んだそいつの身体で枝が折れる音が響いた。
「な……なんなんだ……」
他の2人の獣人は小さくそう呟いて数歩後ろに下がった。
俺はぽきっと指を鳴らして吠えた。
準備運動にもならない。早くかかってこいよ。
――そのとき、ナターシャの声が響いた。
「――動くと首かっ切るよ」
後ろからこいつらの主人らしい人間の男を押さえて、首元に爪を立てている。
そいつの口から「ひぃ」と、さっきまでの偉そうな態度はどこへやらという情けないうめき声が漏れた。
「アタシたちを仲間に入れてくれればそれでいいから、わかった?」
ナターシャは男の耳に囁きながら、ぎぃっと首を少し爪で引っ掻いた。
「……わか、わかりましたから、仲間、仲間に入れればいい……んですね」
「そうだよ。それでいい」
ナターシャがぱっと手を離すと、男は首からたらりと血を流して林道にへたりこんだ。
「ステファン! こいつら歩けるくらいに回復してやってくれ!」
俺はずっと後ろで手持ち無沙汰で立っているステファンに手を振った。
俺とやりあった二人はすっかり地面にのびている。置いてくわけにもいかないし、担いで森の中歩くのは疲れるから嫌だ。




