第105話
――王都を出発して3日後、私とテオドールさんは他の3人と分かれて、闘技会の会場を目指して王都とホッブズさんの西の領地の間にある森へ向かっていた。
「ここですね」
山林に入る道の手前にある森番の人がいる家の前で、テオドールさんが立ち止まった。
王都の教会のマットさんが、闘技会に参加するためにはまず、ここに寄れって言ってたんです。
「――あんた、何しに来た?」
家の庭で切り株に座って煙草を吸っていたおじさんが私たちに声をかける。
「こんにちは。私たちは、王都の教会の神官です。マットという者が来る予定でしたが――、彼は体調を崩してしまいましてね。我々が代わりに」
「――その子どももか?」
おじさんは煙草を地面に捨てて踏みつぶすと、じろりと私を見た。
私は思わずびくっとする。
「見習い神官です。神官にはこういった仕事もあるという実地見学をさせようと思いまして。幼いですが、聖魔法は十分使えるんですよ」
テオドールさんが「はは」っと笑いながら私の肩を叩いたので「そうなんです……」とぺこりと頭を下げた。そうしたらおじさんはもう一度私を見てから「まぁ、いい」と呟いて、それから「家の中に入れ」と玄関の扉を開けた。
家の中はカーテンが全部閉められてるせいで暗くて、部屋の真ん中の机の上でぼんやりと白く光る大きな水晶玉だけが目立っていた。広いリビングには何人か人がいて、そのうちのほとんどは、頭から耳が生えてたり、腕が毛皮だったり、尻尾があったりする獣人の人だった。
「マットの代わりだって?」
獣人じゃない、人間の男の人が私たちに近づく。
「はい。一応、手紙も預かってます」
テオドールさんは懐からマットさんに書かせた「自分が行けないので代わりにこの二人を送ります」という手紙を出した。男の人はそれを受け取ると、見ずに放り投げた。
「まぁ、いい。魔法の鎮静化さえできりゃ。やってみてくれ」
男の人は水晶の前にテオドールさんを立たせた。
あの水晶は魔法の力で光ってるのかな。
祈りによる聖魔法は、魔力を鎮めるから神官が祈るとあの光は小さくなるはずだ。
テオドールさんは手を組むと、祈りの言葉を呟いた。
水晶の光はぼんやりと消えて行って、やがて完全に消えた。部屋はもっと暗くなる。
男の人は「よし」と頷くと、水晶に手をかざした。光が消えた玉はまたゆっくり光り出す。この人が魔力を送ってるのかな。
「一応、お前もやれ」
その人は、私を手招きした。
一応……、そうですね、見習いということですからね。
私はその玉に近づくと、胸の前で手を組んで目を瞑った。
ここにいる人たち、何だかみんな人相が悪いっていうか……、嫌な感じです。
ノアくん、こんな人たちのところにいたら怖いだろうな。
早く助けてあげなきゃ……!
そう思って祈って、目を開けると、水晶の光は完全に消えていた。
——良かった。前に魔力測定したときみたいに、ひび割れるようなことになってなくて。
「魔力の効果を打ち消せるかどうかだけを測るものですからね。光が消えれば大丈夫ですよ」
テオドールさんが耳打ちした。
「よし。じゃあ、連れてってやれ」
男は獣人の1人にそう命じた。
黒い耳の生えた獣人の男の人が頷いて、私たちに手でついてくるように示した。
私とテオドールさんはそれに従った。
「――やることは、わかってるよな」
森の中を歩きながら、その獣人の男の人は私たちに聞いた。
「はい。闘技会に出る方に魔法除去の祈りをします」
テオドールさんのその答えに私はうん、と頷く。
そうだった。身体を強くしたりだとか、そういう魔法で不正するのを防ぐのが私たちの役目だって話でしたね。
「それだけわかってりゃいい。あと、治癒魔法は俺が使えってときだけ使え。基本的に怪我は各チームの自己責任で処理するからな」
「わかってますよ」
テオドールさんは苦笑した。
私たちは森をどんどん進んで行く。そのうち、開けたところに出た。
そこは――、遺跡跡ってテオドールさんが言っていたとおりに、苔むした石畳が敷いてあって、ところどころに柱や建物の跡みたいな四角い人工的な石が転がっていた。
その中央には、石で段々になった下り坂があって、下った先には丸く広く石が敷かれた広場みたいなのがあった。
――舞台みたい。
時刻はもう夕暮れで、薄暗くなったそこには、獣人がたくさん集まっていた。
森の中なのにたくさん人がいて変な感じだ。
でも薄暗い自然の中に、ふわふわした耳の生えた人たちはよく馴染んで見えた。
ステファンとライガとナターシャさんはどこかなぁ……。
私はぐるりと回りを見回した。




