第1話
「僕はハンナと結婚する。レイラ、お前みたいな親もわからない身分の低いガキが王妃になれるわけないだろう。――お前との婚約は破棄する!!」
大神殿の祈りの間に急にやってきた私の婚約者の王太子エイダン様は、そう言ってずびしっと私を指差しました。
彼の隣にいるのは――ハンナ様という、確か公爵令嬢のお嬢様です。
教会の式典の時かなんかに、顔だけみたことある気がします。
きれいなドレスを着てたから、いいなぁ、可愛いなぁ、似合ってるなあって思ったんだった。――だって私は、いっつも聖女の白い地味な修道服しか着れないんだもん。
今日も、ハンナ様は金髪の髪に似合うオレンジの綺麗なドレスを着ています。
いいなあ―――。
「ちょっと、貴女! 聞いてるの?」
うっとり見てたらハンナ様が怒った。
「あ、えっと、婚約破棄でしたか? わかりました」
私はうんうん、とうなずく。
エイダン様が言ってるのもその通りといえばその通り。
私は自分の親の顔がわからない。物心ついた時にはここ、キアーラ王国の大神殿にいた。
私の親は私を育てられなかったみたいで、神殿に捨てていったそうだ。
私を育ててくれたのは大司教様とシスターたち。
私には強い魔力があるとかで、親に捨てられても育ててもらえた幸運に感謝してその魔力を使って国のために祈りなさいと言われて、大司教様の見様見真似で祈っていたら、いつの間にか聖女様とか言われるようになって――大司教様が王太子のエイダン様との婚約を決めてしまった。
まあ、確かに育ててもらった恩はあるので、特に意見はしなかったけど、
私が王妃なんて恐れ多いよね。
「わかりましたって……そんな簡単に言ったら、私がこの子に譲られたみたいじゃない……」
ハンナ様はさらに怒ったような顔になった。
何で怒るんだろう……。
「エイダン様っ! 私、この子に、嫌がらせされたんです。神殿に行ったときに、階段から突き落とされたり……」
えっ、それは身に覚えがないんですけど……。
「そんなことをしたのか!? レイラ!!!」
「それは、覚えがないです……」
私はぶんぶん首を振る。
でもエイダン様はハンナ様の言うことしか聞こえてないみたい。
「元が貧しい人間は性根も悪いのだな。よくそれで聖女が務まる!」
エイダン様はハンナ様を抱きしめて、また私を指差します。
「だいたい聖女といったって、お前の祈りが何か国の役に立っているのか! この金食い虫め!!」
私はう、と言葉に詰まる。
確かに、小さいころから毎日言われたとおりに祈ってるけど、それで何かが起こってる気はしなかった。
それでも、毎日毎日朝から晩まで祈りの間でずっと祈って頑張ってるのに……。
聖女だからお肉食べちゃダメとか、自分の物を持っちゃダメとかいろいろ言われて頑張ってたのに……。
それ全否定されるとさすがに悲しいんですけど!!!
エイダン様はまた私を指差した。
「図星か! 性根が腐った役立たずの聖女なんていらん! 僕の国から出ていけ!!」
私はぱっと顔を上げた。
「出て行って……、いいんですか?」
「「え?」」
思わぬ返答だったのか、二人は顔を見合わせた。