第二話 狂った獣
私はひどく驚き、話しかけてきた彼の方を見た。が、すぐに返事をすることはできなかった。
それはペイルの方も、まったくもって同じであった。彼も神を連れていた。すると、また彼が話し始めた。
「急に話しかけてすまない。俺の名前はネイデル・ロック。今日は役所に用があって今ここにいる。いや、だって初めて自分と同じ境遇の人を見つけちまったからよ。こりゃあもう話しかけるしかないなと思って。俺の後ろにいるのが神のロイだ。破壊を司っているんだよな。ほら、ロイ。挨拶して。」
どうやら私がまともなものを司る神に会えるのはまだまだ先らしい。
しかし、破壊を司って いるわりには、自信のないようなしゃべり方だった。
「あー。えーと、お久しぶりですね、ペイルさん。お元気そうでなによりです。えーと、リアンさん、ですね。初めまして、よろしくね。」
目的地が偶然にも一緒であったため、ネイデルと色々と話しながら歩いて行った。
その中で、新たに知ることが沢山あった。神のいる天界では上下関係があるとか、ネイデルは軍隊へ入ろうとしていることや、ロイは一度、ぺイルに一時打ちを申し出て、ボコボコにやられたことがあるなど、どれも面白いものばかりであった。
お互い目的を果たし、役所を出ると話が盛り上がってきた。
「はっはっは!だから最初会ったとき縮こまってたのか。ごめんなーうちの神ダサくて。」
ネイデルからとんでもないパスを受け取ってしまった。普通そんなストレートに言う!?
私は破壊神にダサいと言えるほどキモは座ってない。やべぇ大ピンチだ。くそ、なんてことしやがる!
「相手がこの私。ペイルだったのが悪かっただけですよ。ロイがダサいわけじゃない。私がかっこいいんです!あと、ロイは特別弱いわけじゃないですよ。」
「お、俺もそう思う。」
ペイルが俺に向かってウインクして見せた。
うまく凌いだでしょ♪ と言う意味合いだのだろうが、別にうまいわけじゃないぞ、あれは。
「ペイルさん、リアンさん。必死なフォローありがとうございます。でも事実は事実なので。どうせ私なんか、ミジンコと同等ですから。」
「いやいや!そんなことないと思いますよ!とっても勇ましい姿なのできっとお強いんだろなーと俺は思いますけどね!」
「リアンさんは優しいのですね。私なんかのために。」
おいおい!ペイル。いったいお前は何をしたんだ?いや本当に何をしたら神がこんなネガティブになるんだ?
流石に気になったので小声で聞いてみた。
「おいペイル!お前一体何をしたんだ!?ロイに。」
「えー、それ聞いちゃいます?」
「あぁ聞くさ。てかなんだその反応。よっぽど酷いことしたんか?」
「酷いことっていうか、うん、なんだろう、まぁそれが私の神力だから、ロイも覚悟の上だったし・・・」
「おい!言い訳を自分に聞かせてないで早く言えよ。」
「はい。えーと、私、痛みを司ってるじゃないですか。だから全世界の痛みをロイに集中させて一度ロイの体がグシャグシャに・・・」
12時を伝える鐘がなった。
うん。鐘。ナイスタイミング。
もうこれ以上聞きたくない。
ロイが可哀想でならない。
「スンマセン」
「俺に言われても」
さて、気を取り直してと。
そういえば、私はまだ昼飯を食べてなかった。
私は金を持っていない。するとネイデルが鐘の音を聞き終わり次第、
「飯食いにいこうぜ!」
といってくれた。しかしお金がない。みじめではあるが、その旨を伝えると、彼は
「いいよ。おごってやるから。じゃあ、どんな店に行くか。まあ貴族が行くような店は勘弁してくれよな。」
と、笑顔で言ってくれたれた。本当に会えて良かった、ネイデルに。
しかし、今の餓えを凌いでも、私には大きな問題があった。
いい仕事が見つからなかったことである。
目的を果たした、とは言ったものの、仕事がないことがわかった。という成果を得ただけである。
そうこう考えているうちに、ネイデルおすすめの肉料理店に到着した。
久しぶりのしっかりとした飯だったので、とんでもなくうまい。私が頼んだのが味の濃いハンバーグだったのもあり、なおさらである。
私は一瞬にしてハンバーグを食べ終えた後、まだまだ気になることが沢山あったので、ネイデルと山ほどしゃべった。
そして私は、人と神をつなぐ鎖がネイデルとロイにもあることを知り、詳しく聞いてみることにした。
「ネイデルさんとロイも鎖でつながっているんですね。この鎖って破壊神のロイさんですら壊せないんですか。」
するとペイルが少し食い気味でいった。
「私が壊せないのだからロイが壊せるわけがないの。というかこの鎖は壊したらいけないの。言ったでしょ、これが無かったら神が好き放題あばれて地球の生命が終了しちゃうどころじゃすまないって。ねーロイ。」
急に話を振られてロイは少しびくっとしていたが、話し始めた。
「は、はい。ペイルさんのおっしゃる通りです。ペイルさんでも成せないことが、私にできるなどありえません。あと、鎖が外れるタイミングは、リアンさんの死まで3秒を切った時です。ペイルさんほどの神なら、2秒間で一国を滅ぼして、残りの1秒で媒体・・・・・おっと失礼、リアンさんを命の危機から教うことも容易ですよ。」
一瞬、ロイの本性が垣間見えたように感じたが何かあっても怖いので、そのことについては触れるのをやめよう。
でも、せめて個体名で認識してほしかったな。なんて言えない。
で、もうひとつネイデルに聞きたいことを聞いた。
「ネイデルさん。俺、結局いい仕事が見つかんなかったんだけどさ、何か知っていたらぜひ教えてほしいです。」
そう私が聞くとネイデルは少し考え込み、良い仕事を教えてくれた。
「オオカミ狩りとかどう?。丁度いま王国が戦争中だから戦える人手がないんよ。だから報酬もかなりの量を見込めるらしい。何人か討依頼を受けて、森にいったヤツらがいるらしいが、五体満足で帰ってきたヤツは一人もいなかったとか。でもリアンがその仕事うけるってんなら俺もやるぜ。」
「今増えてるんですか?オオカミ。」
「らしいよ。だから最近人が襲われたりして大変なんだって。」
「その報酬、何日ぐらい生活費として持ちそう?」
「うーん、うまくいけば、節約しまくって2週間?ぐらい。いや、そんな長くないか。まぁぶっ倒した頭数によるからな。」
「よし、俺はやる!」
仕事を受ける旨を 伝えるとネイデルが役所で仕事の申請をしてくれるとのことなので、後は明日、オオカミを 狩り殺して持ち帰るだけである。
おっと待てよ、リアン。あと一つ忘れてはいけないことがあったな。
「そういえば、ロイさんも人間の姿になれるの?」
ペイルが、はっとしたような表情をして私の策略に気づく。味方が増えた。
「ロイも私みたいに人間になればいいじゃん。いいこといっぱいあるよ〜。でも男になるのはちょっと生意気なんじゃない?私を落とそうったってそうはいかないぜ。」
おい!まだロイは何も言ってないだろうが!バカか!
焦りすぎた。もっとこう、自然に女性の姿に誘導できないのか!
「ペイルさんが言うのであればそうなんでしょう。じゃあちょっと待っててください。」
おい、こっちを「ほーれ見たことか」みたいな顔でみるんじゃない!ペイル。これは相手がロイだったから、たまたま成功しただけだろうがよ。
「できました。こんな感じでしょうか?」
素晴らしい。
吸い込まれそうな程美しい黒の髪がショートカットで整えられている。この見た目から、誰か破壊神を想像できよう。服は相変わらずキトンらしい。見た目が清楚で器量よしときた。もう完璧だ。
「おー可愛いな!オリジナルの見た目がやばすぎただけに緩急すげーよ。ずっとその姿の方がいんじゃね!」
「わかりました。じゃあそうします。」
ネイデルもご満悦だ。ちょっと言わんでもいいこと言うけど。
やるべきことを全て終えた。
今日の宿泊場所はネイデルの部屋だ。またお世話になってしまったが、その恩は明日必ず返す。と心にきめて寝た。
出発は深夜であった。それを知っていれば寝なかったのに、と少し不満を感じたがそんなこ と言えるわけがなく、ネイデルについて行った。
途中で役所が用意した馬車を使い 40分ほど進んだ。私が都市に初めて入ったときとは反対に位置する関所を、見張りの兵士たちに見送られ、通りぬけた。
その後、もう少し行った場所にある森で降ろされた。
仕事が終わり次第、ここに戻ってきて、我々を回収するというシステムらしい。
あかりは一本のたいまつだけである。
森の中を進んでいくにつれ、少し不安になってきた。
「ネイデルさん、これ大丈夫なんですかね。」
「まあまあ、俺たちにはペイルやロイがバックに居るから大丈夫っしょ。あ、そうだ。お互いもう名前言らときは呼び捨てにしようぜ。もうこんだけ打ち解けたんだし。敬語もいらんよ。」
「じゃあそうしよう。」
なんかすごく照れくさい気持ちになってしまった。
深夜の場所もよく分からない森で。
その心を読んだペイルはとてもにやにやした顔でこちらをみている。
俺のこといじってるんだろうけどかわいいな。その顔。しかし、すぐそのかわいい笑みが消えた。
「囲まれてるかも」
ペイルのその一言でみな凍りついた。瞬時に戦闘態勢に入ったのはネイデルだった。
私は特に、こちらから攻めるわけではないので、ファイティングポーズとかないのだ。
戦闘態勢にはいった、かっこいいネイデルを見て、自分にもなんかこう、かっこいいポーズがほしいな、と思った。
沈黙の時間が続き、たいまつの袋が風にゆられてゴウっとうなる。その中で微かに聞こえる「グルルルル」という声。
痺れるような緊張感がこの空間を支配している。
一匹のオオカミの遠吠えを合図に、命の奪い合いが始まった。
私には3匹、ネイデルには5匹襲いかかった。
「ネイデル!俺とは10メートル以上離れてれくれ。絶対だぞ!」
「よく分からんが、よく分かった!」
ネイデルがみるみる離れていく。
環境は整った。
私は右手にナイフを持ち、自分の腹部に突き立てた。
オオカミたちが直進してくる中、カウントを刻む。
「3、2、1」
1と唱えた後、私はおもいっきりナイフを腹に刺した。オオカミたちは体を大きく内側に縮こめて、勢いそのまま私にぶつかってきた。
失血が激しいなかで、吹っとばされたから、なかなか立つことができない。
回復は進んでいるが、おもいっきり刺したのですぐには治らないようだ。回復を待っているとペイルから泣きたくなるような報告をうける。
「リアン!まずいぞ、オオカミたちが逃げてく!」
「くっそっ。おもいっきり腹を刺したんだぞ!なんで動けるんだよ。」
重くて、ふらつく体を何とか制御してオオカミを追いかける。ヤツらの足取りもおそい。
オオカミを10メートル以内に捉えると、またナイフを腹に突き立てる。
「これで終わってくれ!ごふ!」
刺したと同時に、オオカミの「キャン」という鳴き声が響いた。
さすがのヤツらもこれがとど めになったらしい。三匹が地面に横たわった。
「こっちは終わったぞ、ネイデル」
まずい、意識を保てない。落ち・・・る。
「ヘイ!ロイ!あと何頭だ!?」
「そんなの数えればわかるじゃないですか。3頭ですよ。」
くっそ、リアンは大丈夫なんだろうな。離れろって言われたから離れたけど、まさかの死んでたりしたらやばいよな。
「それはないですよ。だってペイルさんがバックにいるんですよ。」
「まぁそうだよな!というか本当にロイの神力は使いづらいな。」
「ひどい!なんでそんなこと言うんです!?他の神力と使い比べてるわけでもないのに!」
これはマジの本音だ。ロイから授かった神力は、打撃威力倍増というものだった。
内容はいたって単純。打撃の回数を増やせば増やすほど威力が倍になるというものだ。
だが考えてみろよ。最初の一撃はただのパンチだぜ。
相手がどんな武器を持ってても、俺は一度、丸腰でなんの変哲のないパンチを相手に喰らわせなきゃいけない。
そうロイにいってみたらこんな回答が返ってきたんだ。
「自分の両拳を胸の前で叩き合わせたらいんじゃないですか///」
確かに理にかなった良い方法だ。だがなんでそんなに興奮しているのかは最近になってようやくわかった。
そう。やつは変態なんだ。ロイはどうやら破壊的な行動をみると興奮するらしい。頭いかれてんだろ。
俺に伝授したこの方法は、ロイが違う世界にいた時に、21歳の男が拳で戦うと決意したときにやっていたことらしい。
それをどうしても俺にやって欲しいと、熱っぽくおねがいされたのをいまでも覚えている。
「ごらぁ!どりゃ!おら!威力あがってきたーー!あと二匹!」
まぁ威力が上がれば問題はないんだけどな。あ、でもある程度原型を留めさせないと報酬もらえなそうだな。体だけ飛ばして首だけ持って帰るか。
「ふん!!」
「ドッッグシャ!」
「な、なななんてステキな音♡ハァ//ハァー//」
「お前本当に頭大丈夫か?やべーぞ。リアンとかに引かれたら、承知しねーからな!」
「えぇ//だってぇ//これの為にこの世界に来てるんだよ♡」
「くっそ、話通じないな。こっち片付いたからリアン探すぞ!」
「おーい!リアーン!どこだー?」
ん?、、この声は、ネイデル!はっ、私はどれくらい気を失っていたのだろうか。
「おーい俺だ!リアンだ!ここにいるぞ!」
なんとか立ち上がることはできたが足に力が入らない。まずい、また倒れる!
「っと、あぶない、あぶない。大丈夫か、リアン。俺とロイは無事だ。リアンは、、満身創痍だな。はっはっは。よし!このまま支えてってやるから回収地点までいくぞ。」
「ありがとう、ネイデル。」
こうして私たちは、計8頭のオオカミを狩ることに成功した。
回収地点になんとか戻ると、もう太陽が顔を出していた。待っていた馬車の運転手が、私達の帰還に、咥えていたタバコを落として驚いた。
「あんたら、昨日依頼を受けて森に潜った人たちだよな。初めて人が帰ってきた。よく頑張ったな、お前たち。おっと、すまん。ちょっと嬉しくなっちまってな。」
彼は涙を流していた。帰りの道で聞いた話だが、今まで彼がこの森へ送ってきた討伐者は、全員帰ってくることはなかったのだという。彼はそれに罪悪感を強く感じていたそうだ。
誰も乗っていない馬車を時間通りに出発させてきた運転手は、5体満足で帰ってきた私たちを見て本当に嬉しく思っているのだろう。
朝日を浴びながら馬車に乗ること30分程度。知らないところに降ろされた。ネイデルが礼を言う
「ありがとな、おっさん!」
「あいよ。あんたらも俺に元気をくれてありがとうな。」
「いえいえ、とっても助かりました!」
そして馬車は戻って行った。で、ここはどこだ?
「よーし、リアン!ギルドへいくぞ!」
「え、あ、うん。」
え、ギルド?なんで。ってもしかしてこの依頼って、ギルドから出されてたやつなの!?だからハイリスクハイリターンだったのか。マジか気づかなかった。
いや、あんなむさ苦しい所正直入りたくねー。マジで。でもしょうがねーか。
そうこう考えているうちにギルドについた。ネイデルが扉のノブを掴み、思いっきり扉を開く。
「ウィース!帰ったぜ!」
おい!ネイデルそんな入り方すんなよ、恥ずかしい//
とてつもない入り方をしたネイデルはそのまま報酬を貰いに行ってくれた。
「リアンさんがこんなことしたら、たぶん私笑い死んじゃうとおもうなー。なのでやってみてくださいよww。」
「おまえ、ったく、調子乗んなよペイル!」
「わあー!ちょっ待って、ほっぺたひっぱんないで!せっかくのシルク肌が荒れる!ねーえ!リアンさん!」
「おーい。リアンにペイル。なーにいちゃついてんだ。ほれ、報酬だ!」
「ん、ちょっと待って。これ俺とネイデルの報酬の金額一緒じゃん!俺3頭しか倒してないから、こんなにいただけないよ。」
「いーの!気にすんな。俺は軍に入るまでの3日間の生活費さえあればいいから。」
「いいの!?ありがとう!この恩はいつか必ず返すよ!今ここで誓う!」
「いいよ、そんな。堅苦しいじゃねーか。そしたら、なんかまた困った時はお互い助け会おうや!じゃあな。」
ネイデルとの別れは、とてもあっさりとしたものであった。
本当はもっとずっと一緒に居たかっだけど。まぁ、あれだけいい人を独り占めしちゃ、バチが当たるよな。
ネイデルを見送った後、特に行きたい所もなかったので、今日はこのギルドで1日を過ごそうと決めた。ここは飯も食えるしな。
そして夕方
「ちょっとリアンさん!いつまでここにいるつもりですか。いくら朝飯と昼飯頼んだからってこんな居座る客は迷惑ですよ。」
「んー?ふぁーあ。寝てた人を起こしてまで言うことがそれか。まぁ夕飯食ったら帰るから。飯時になったら起こしてー。」
「まったく、ずっと隣で座って待ってる身にもなってください!あ、暇だからいい男釣って遊びに行っちゃおうかなー。って寝るのはや!」
何か騒がしい、あと体をすごく揺さぶられているような、、、
「兄ちゃん起きろ!緊急で外の人だかりに集まれだとよ!」
まさか知らないおっさんに、このような形で起こされるとは思いもしなかった。
重たい瞼を擦り、安定しない足取りでギルドを出ると、その近くにとんでもない人だかりが、何かを囲むようにできている。
その中央から怒鳴り声が聞こえる。
「もっとだ!もっと人を集めろ!そして聞け!我ら、ローザルト帝国の神聖なる王子を攫ったこの鬼畜ども!早く我らの帝国の王子を我らの元に返せ!!王子を救うまでは、女、子供も関係なく粛正してやる!こんなふうになぁ!!」
「ぎゃーーーー!」
甲高い悲鳴が響き渡る。何が起きているんだ!?
私は人混みを割いて悲鳴が上がった方に進んでいった。
見えた先には、5人の男がいた。そのうちの4人は右手にナイフ、左手に人質を掴んでいた。
残りの1人は、血が根本の方まで付いているナイフを握り締めていた。傍には、紅く染まった地面に倒れ込んでいる人がいる。
その男たちは皆、目が血走っており、顔や体にビキビキと血管が浮き出ている。
極度の興奮状態とその見た目から、私は彼らを人間だとは思えなかった。
彼らに最も近しい言葉は「狂った獣」だろうか
左手の空いた男がまた新たな人質を捕えるべく、こっちに向かってくる。人だかりが彼から逃れるように動くと、また怒号がとんだ。
「動くなぁ!!動いたらコイツらぶっ殺すぞ!!」
くぎを刺されたため人々は動けなくなった。
「ペイル。もしもの時は頼むぞ。あの5人だけ殺そう。」
「はい。頼まれました。お任せあれ♪」
いきなり後ろの誰かが私の背中を強く押してきた。すると、立て続けに色々な人が私を人だかりの中央へと押していく。歩みよってくる彼との距離がどんどん縮まる。
まずい、ペイルとの会話で目立ったからか!
よく考えれば、私は生け贄にしやすい子供であった。私が声を上げてしまったことで皆の注目を集めてしまったらしい。
私はグイグイと中心部へ押されていき、ペイルとの距離が離れていく。するとペイルが
「何かされても、回復しなくて大丈夫ですよ。」
と、とても落ち着いた声でいった。
ついに一番内側まで押されてくると、男にしっかりと捕まり、服の襟を強く掴まれ、人混みから引っこ抜かれた。そして私は人質となった。
しかし私は今、大きな期待感に包まれている。もし私が殺されかけた時、ペイルは一体どのようにして私を救い出してくれるのだろうか?
私はペイルの力をいち早く、特等席で観たかったため、狂気に堕ちた獣を挑発した。
「お前らのような白痴で下品な者どもの上に立つ王子が神聖だと?蛮族が口を開けば笑えない冗談がこぼれるのは世の常だが、お前らは度がすぎるぞ。」
「ふざげるなぁ!ゴラァ!」
ものすごい勢いで蹴り飛ばされ、地面に倒れた。
今ここで神力を使うと集められた人達にも背中に激痛が走ってしまうので使えない。
すかさず私は彼の顔を睨み返した。心の中で叫ぶ。さぁこい。やってみろ。やれるもんならな。
すると、彼の様子がおかしくなった。涙をボロボロと流し膝から崩れ堕ちた。こっちに両手を差し伸べながら近づいてくる。
状況が全く掴めない。何が起こっているんだ?
今起こっていることよりも「カオス」という言葉が当てはまる時は今が最初で最後だろう。
「死ねえぇぇ!!」
忘れていたがここには5人いたんだ、泣き崩れたのとは別の者が突っ込んでくる。
ぺイル。お前の力を見せてくれ。
私は両腕を広げる。
「グシャ」
痛みは感じないとはいえ、少し怖かったので目をつぶっていた。そこで聞こえた「グシャ」という音。悲鳴とドタバタと沢山の人がここから離れる音もする。
目を開けると前には、小さい箱に無理やり押し込めたような形をしている元人間の姿があった。人の形をとどめていない。
そのような肉の塊が5個完成した。
「手錠が外れたのでたのでやりました。これロイにもやったヤツですね。神経にキャパオーバーの痛みの信号を流して筋肉を暴走させるっていう。」
一瞬だった。
それはまるで、人に踏み潰される蟻のようであった。
蟻一匹が人間1人に敵わないように、人間もまた神という存在には敵わないのだ。
「逃げよう。」
それしか言えなかった。私はその場から逃げたいと同時に、このどうしようもなく理不尽な世界からも逃げたいと、そう強く思った。
しかし、みぞおちを中心としてじわじわと体へ暖かく染み込んでいくような強い安堵感もその瞬間芽生えた。
遠くにこっちへと走ってくる兵隊が見える。
私たちはその場を急いで走り去った。
まだ続きます




