7 決闘②
「外野は黙れ」
彼女が低い声で脅すように言うと客席は静まり返った。静まった客席をちらりと見てから、彼女は私に向かって微笑んだ。と、同時に地面を蹴る。彼女は一寸の迷いもなく、刀を振った。
一歩下がりながら柄で刃を受け止める。力任せに跳ね除けようと力を込めた瞬間、彼女は力を抜いた。急な変化に追いつけず、私は大きく隙を見せてしまう。そこに彼女蹴りが襲いかかる。痛みを感じる間もなく、私は空中に放り出された。普通、人間の体は蹴られた程度では舞わない。やはり仮想現実は面白い。
なんとか受け身を取って着地する。蹴られた痛みと回転による酔いで少しふらふらするが、それを悟られないように構える。
彼女はおそらくVR慣れをしているタイプだな。このゲームの仕様や自分を操作する方法を知っているため、無茶苦茶に見えるが強い。先ほどの蹴りだって私ならしなかった、現実に囚われていたからだ。
距離を取りつつ相手の出方を伺ううちにある程度回復してきた。今度はこちらから仕掛けよう。いつまでも受け身では彼女に攻撃は届かない。
Asahiが距離を詰めると同時に一歩引き、リーチを活かして一撃を入れる。深く斬りつけたつもりだったが彼女の反応が早く掠るだけにとどまった。反撃される前に攻撃を続け、近寄る隙を与えない。互いに攻撃が入らない。一度、勝負に出る必要がありそうだ。
「……やるね」
「ありがとうございます」
「リアルでやってる?」
「分かるものなんですね」
「動きが違う。リアルの経験者の方が動きに不自然さがないんだ。……だからとってもやりやすい」
彼女はにやりと笑って刀を握り直し、軽く地面を蹴った。
「消えっ……くっ……」
突然消えたから焦ったが、攻撃されそうな場所を一点読みしてなんとか凌ぐ。彼女は舌打ちしつつ、苛立ちをぶつけるかのように刀を振るった。受け流して肩の方から斬りつける。追撃は防がれるが、初めて良い攻撃が入った。この傷なら治るまでに時間がかかる上、動きにくくなっているはずだ。
良い攻撃が入ったからか、客席が騒がしくなった。……誰かが「金返せ!」と叫んでいるが、私たちの決闘で他人が賭けているのは少し嫌だな。
「リアルでやっている人間はだいたいゲームならではの動きに対応できないんだけど」
「勘です」
「勘かあ……。あいつも勘でやってるのに強いからなあ……」
少し遠い目をしながら彼女は呟いた。
このまま傷が治るまで会話で時間を潰そうとしているのかと思っていると、彼女は地面を蹴り上げ砂を舞わせた。正々堂々と戦おうとしていた彼女からは予想できなかったことだったが。
「予習済みっ!」
オフライン版で卑怯な戦術ばかりを使う敵がいたため、鍛えられていた。騙し討ちへの対処はとても苦手だったため、何回も受けているから、多少視界が悪いくらいは問題にならない。有効な攻撃をしたいなら、ここだ。私は一点狙いで斬り上げた。