幕間 紫戦争①
大規模な初心者狩りが行われたHaruto事件の一週間後、この事態を重く見た運営はリスポーン地点やPVPに関するアップデートを行った。以下はその内容である。
リスポーン地点の候補は複数用意され、その中から死ぬ原因となったものに一番近い地点を除いた場所から抽選で選ばれる。また候補地は定期的に予告なしで変更される。
宿にリスポーン機能を追加し、また戦闘禁止エリアに設定する。また、町に宿を追加するためのイベントを追加する。
プレイヤーによる土地の所有を可能にする。土地には様々な施設を建てることができ、所有者以外にも任意のプレイヤーに使わせることが可能。
しかし、これらの平和な鎌倉を実現するための対策は皮肉にも紫戦争の最後の一押しになってしまった。
プレイヤーを殺した際に手に入る物はそのプレイヤーが所有するアイテムと僅かな金銭だ。プレイヤーが落とす金はプレイヤーが無駄な殺人を行わないなど善人であればあるほど、殺されたプレイヤーが強者であるほど増えるが、その金は死んだ者の所持金から引かれる訳ではない。つまりこのゲームでは長くプレイすればするほどお金が貯まっていく。
「鎌倉の中心地……そうだな、ここの四つの区画を買い取らせてもらおう」
土地を購入する場――幕府の城では袋に詰められた大量の宋銭を持つ男がいた。彼の名はランランルー。このタイミングでのアップデート、そして所有する土地に建てられるという屋敷。この二つの言葉から彼が導き出した結論は、土地を買えば安全なリスポーン位置を手に入れることができるというものだ。彼らの命を狙うのは始めたてのプレイヤーたちであり、始めたてでこのような施設を手に入れるほどの金額を集められるとは思えない。つまり、この土地は彼にとってのアドバンテージだ。
「いい加減、闇討ちがウザくなって来たよなあ!?」
彼は購入した土地を一つの大きな土地にし、巨大な屋敷を建てた。土地内部では中庭以外での戦闘を禁止し、建てられるだけのあらゆる施設を作り、プレイヤーたちに呼びかけた。
「他のゲームで例えるなら、これはクランやギルドだ! 財力、経験、そして強さ! 全てを持って生意気な奴らを黙らせてやろうぜ!」
元はと言えば初心者狩りをしていた彼らの自業自得なのだが、同じ気持ちを抱いていた多くのプレイヤーは彼に賛同し、巨大な組織を作り上げた。
誰が名付けたのか、彼らは次第に「紅連隊」と名乗るようになり、元初心者たちの勢力は次第に削られていった。
「このままでは駄目だ」
一方で、紅連隊の躍進を望まない者たちがいた。Harutoによって流入した元初心者たちである。彼らはプレイ時間が短く、紅連隊のように拠点を用意できなかった。……一人では。
「今こそ、まとまって巨悪を打ち倒す時!」
彼らはかまくらいふに染まりきっていなかった。そのため、協力という考えが浮かんだのだ。染まってしまったプレイヤーでは、裏切りを恐れて誰か一人に資産を集めるなんてできなかった。紅連隊の設立は、大金をぽんと出せるランランルーの財力のおかげだった。
「あいつらは紅連隊――赤色を名乗っているならば」
「こちらは蒼を名乗りましょう!」
こうして蒼刃隊も生まれ、鎌倉の地は二分されることになった――。
のだが、一ヶ月経っても状況は変わらなかった。それもそのはず、殺しても殺しても安全な場所で復活されてしまうのだ。殺されることを考え、持ち物は最小限にしているため殺しても旨味はなく、人数の多い紅連隊が少し有利な状態で均衡が保たれていた。
こうなると、蚊帳の外にいる人にとっても面白くない。楽しい戦争ゲームが見られると思ったのに、蓋を開けてみれば、永遠と睨み合いが続いているのだ。この時、立ち上がったのがタケシ。かまくらいふをメインとする唯一の動画投稿者だ。彼は炎上を恐れて祭りには不参加であった。
「俺は、紅連隊と蒼刃隊の戦争のゲームマスターをしようと思う。名前は、そうだな……紫陽隊なんてどうだ?」
彼の動画でそう宣言すると、どちらにも参加していなかった数人が彼の元に集まってきた。
「ルールを決めて戦争ごっこを楽しもうじゃないか!」
彼の言葉は紫陽隊を通じて両陣営に拡散される。こうして、本当の紫戦争が始まった。
ルール其の壱、各陣営には大将、副大将が一人ずつ、精鋭、斥候が三人ずついる。
其の弐、大将か副大将はどちらかあるいは両方が本陣に居なければならず、どちらも復活は不可。また、大将と副大将は第三者によって決められる。
其の参、精鋭は各砦に一人ずつ存在し、自身の所属する砦で復活する。取られた場合は復活不可だが、取り返せば復活できる。
其の肆、斥候は所有する砦及び本陣の好きな場所で復活できる。
敗北条件は大将と副大将の死亡であり、一時間手経っても決着がつかない場合は大将が死亡している方が負けとなる。それも同じ場合は砦の取得数が少ない方が負けとなる。
「良いところに砦があるな。砦の見た目が民家だが」
「君と違って色々使っていたからそこまでは手が回らなかったんだよ。砦の位置は諸国戦乱期のプレイヤーのるるが決めてくれたんだ」
「諸国……? ああ、リアルすぎてクソって言われているストラテジーゲームか」
紅連隊の本陣では、紅チームの大将ランランルーと連絡係として派遣されたAsahiが話していた。
「コロシアムwith magicがアップデートしたという話は置いておいて、どんな作戦なんだい?」
「唐突になんだよ……ってウィズマジアップデート!? そっちのが気になる! 大将辞めていい?」
「頑張れ大将」
「ちっ。まー作戦なんて分かりきってるだろ」
彼はにやりと笑って拳を打ちつけた。
「とにかく殺る。それだけだ。俺がミスらなきゃ負けねえ」
「人数はこちらが多いからね。削り合いになれば有利だ。作戦を考えるのなんて面倒なだけにも思えるけど」
ランランルーは図星を突かれて口を閉ざし、そのまま外へ向かった。
「砦ってことは攻城戦だよね? そういうゲームをやったことないのに大将なんて胃が……」
お腹を押さえて不安そうにしている少年が蒼チームの大将Subaru、彼を元気づけようとしているのは副大将のMonaだ。こちらはるるが連絡係として派遣されている。
「Subaruはここにいなさい。大将が死なない限り負けはしないのだから。いやむしろ私はここに縛りつけられたくないからここに居て。奴らはHaruto様の顔に泥を塗ったも同然。私が引導を渡してやるわ」
「……ありがとう? それと、攻める砦を決めたい」
「守るか攻めるか……。難しいわね。奴らはきっと攻めてくるわ。守りが薄くなっては破られてしまう」
「攻めるよ」
彼ははっきりと言い切った。
「相手は人数こそ多いが協力はほぼしないし、大多数はこちらより弱い」
「私レベルが二人がかりで勝てるかどうかのプレイヤー――ランランルーとあっきぃがいるのよ。それに、乱戦となったらギエリの毒は厄介だわ」
Suabruは少し悩んだ様子を見せ、るるに質問した。
「るるさん、あっちの大将と副大将って分かりますか?」
「大将がランランルー、副大将があっきぃ」
「つまり、さっき挙げた強者のうち一人は前線に出ることはできない」
「大将は前線に出ないはず……。あっきぃは乱戦が苦手だから――ええ、それなら大丈夫そうね」
「だから、他二人を避けられそうな場所を選びたいんだ。三分の一だね」
蒼チームも攻める意思を見せ、目的地決めと役職決めに移っていった。
配置が終わり、プレイヤーたちは開始の合図を待っていた。時計を見る、準備をする、心を落ち着かせる、仲間と話す。それぞれの行動に差異あれど、待つものは同じだ。
「開戦!」
本陣及び砦にいる紫陽隊が一斉に開始を宣言する。両陣営は一斉に砦を飛び出し、敵の元へ向かった。




