5 真実
また襲われることを視野に入れつつログインすると、女性と目が合った。
「ラッキー!」
彼女は私の首を斬ろうとしているところだった。左手で刀を掴んで止め、右手に薙刀を出現させて首元に突きつける。刀を離して逃げられてもそれで良かったが、彼女は手を離さなかったためそのまま貫く。
手のひらから血が出てしまったがこれくらいならすぐに治るから、昨日手に入れた傷薬を使うまでもない。
「ひっ」
視線を感じ、振り返ると怯えたような顔をする女性がいた。ログイン時に襲ってきた人もだが、見た目は女性なのに声が明らかに男性だ。この名前は……明らかにプレイヤーだな。
「仕事辞めたいさん?」
「ひっ! な、なんでしょうか!?」
「声って……」
「へっ? 声? ……ああ、単純にネカマというかなんというか」
彼曰く、キャラの性別によって性能差が少しあるらしい。男性は力が強く、女性は不意打ち時にダメージが少し増えるらしい。女性の効果の方が対人戦においては強いから女性にしているプレイヤーが多いと教えてもらった。不意打ちのボーナスがどれほどかは分からないが、先ほどの戦闘で刀を掴んで止められたのは同じ女性キャラで力の強さが同じだったからだろう。男性と戦う際は注意しなければ。
彼と同じく声に違和感があったモブ子さんはプレイヤーだろう。すると……モブ男もプレイヤーだったのでは?
「もう一つ聞きたいんですけど……チュートリアルってありますか?」
「ないっす!」
……どうしよう、プレイヤーから装備を剥ぎ取ってしまったかもしれない。返した方が良いか? 良いよなあ……。お気に入りの装備かもしれない。
仕事辞めたいさんに剥ぎ取ってしまった彼の行方を聞いてみた。幸運なことに、彼らは知り合いだったようだ。
「復讐っすか? へへ、密告しましょうか?」
「違いますよ! 装備を剥ぎ取ったので、返した方が良いのかと……」
相談してみたら勘違いされてしまった。私はオフライン版でもよく襲われていたから慣れてしまったが、冷静に考えてみればログイン直後に突然襲いかかったら復讐されてもおかしくない。
ちなみに回答は「そういうゲームだから気にするな」だった。これは返さなくても良いかもしれないが、やはり気になるから今度からは装備全てを剥ぎ取るのは控えておこう。
「ありがとうございました」
「良い子だ……良い子か……? 剥ぎ取っている時点でこちら側では……?」
仕事辞めたいさんに挨拶をして、彼はぶつぶつ言っているが気にせず立ち去る。彼の気が変わってしまったら親切に答えてくれた彼を斬らなければいけないから、移動を急ぐに越したことはない。