6 地下牢
「ここで一度反省することだ」
私が暴れた屋敷から出ると牢屋の前にいて、その中に物のように放り込まれた。足元を見ると足枷が嵌められていて、そのせいで移動速度減少の効果が付いている。血で汚れた衣服が綺麗になっていたのはありがたい。捕まったことはないから、冤罪で入れたのは逆に嬉しいと喜んでおこう。
「こんにちは、であってる?」
肩を叩きながら男性が私に声をかけてきた。振り返ると、そこにはショートカットの少女がいた。
「俺はみぞれ煮。見ての通り犯罪者の先輩だ! そっちは何の罪? 俺は、んー、色々!」
「夜霧です。私は冤罪ですが、殺人罪だと思います」
「殺人? 一般人でも殺ったの? というか冤罪って?」
「六波羅探題の任務として謀反を起こそうとしている武士を殺しただけなので……」
みぞれ煮さんは大して興味がなさそうに「なんでだろうねー」と顎に手を当てながら言った。
「ねぇ、一緒に脱獄しよ?」
「脱獄……?」
「そう。俺、慣れてるから足手まといが増えても平気だよ」
彼の目から本気だと分かる。冤罪なのに脱獄なんて罪を増やしたくない。私は勢いよく首を振った。
「そっか、残念! さようなら!」
顔を上げるとそこにみぞれ煮さんはいなかった。いつの間に……。
十分ほどの事情聴取で私の疑いが晴れ、牢から出してもらえるようになった。嵌めていたのは少しの間だったが、足枷を外すと開放感があった。
「……すまなかったな。だが、気をつけるように」
少し呆れた様子でゴロウさん――私を牢に連れてきた武士――が私に注意する。
「もう仲間だ。気になることがあれば我を頼るが良い」
ゴロウさんは優秀な武士だそうで、とても頼りになる。気になることがあればとのことだから、牢で出会ったみぞれ煮さんのことを聞いてみる。
「なに、それは本当か! ……そうか、奴は地下牢でも足りぬか」
聞けば、彼は盗人として捕らえられた罪人で元は地上にある軽犯罪者用の牢に入れられていたそうだ。しかし、何度捕らえても脱獄されてしまうらしく、遂に危険人物を隔離するための地下牢に放り込まれたのだという。確かに彼はまるで手品のように私の前から消えた。ならば脱獄など容易だろう。牢に配置されている武士はあまり多くなさそうだし。というか、私は危険人物扱いされてたの!? ……って冷静に考えると当たり前だ。何人もの武士の死体の中にいた血塗れの人間は危険人物でしかない。客観視って大事……。




