3 弓使い
「うおおおお! モブ男の敵ぃ!」
チュートリアルは終わっていなかったのか。モブ男はいくらなんでも可哀想な名前だと思いつつ対峙するやけに野太い声の女性の名前を確認した。……モブ子だった。
最小の動きで刀を躱し、薙ぎ払う。道の真ん中では目立ちすぎるため移動させようとしたら頬に矢が掠った。新手か、厄介な。矢に当たらないようにモブ子で斜線を切る。
「隙あr……ぎゃあああ!」
弓使いはモブ子の味方ではなかったようで、彼女の頭に矢が刺さっていた。あの距離で正確に当てるとは……手練だな。私はモブ子の回収を諦め、民家の影に隠れる。
この町はストーリーモードの鎌倉の町と配置ほぼ同じだから、どう歩くべきかはなんとなく分かるからこそ分かる。弓使いの位置取りがとても上手い。斜線を切りながら向かうのは不可能だ。必ずどこかで体を晒さなければならない。
「……面白い」
おそらく弓使いがチュートリアルのボス。これくらいの逆境を跳ね除けるようなプレイヤーでなければオンラインをプレイする資格はないということ。私を舐めないでもらおうか!
敵の元へ辿り着くために考えられる道は三つ。一つは最短距離で矢を斬りながらの正面突破、一つは斜線を切りつつ町を行く道、一つは森へ迂回して背後から行く道だ。まず迂回はない。時間がかかり過ぎる。時間をかけてしまえば増援を呼ばれる可能性がある。弓使いが他の武士と組むのは厄介だ。とはいえ早く着けるといっても正面突破は無理だ、距離が長すぎる。やはり町を通るのが最善策だろう。
必ず生まれてしまう体を露出させる場所をどこにするかも重要だ。大通りで人混みに紛れながら近づくのが一番楽だが、味方も撃ち殺してしまうような者なら通行人も容赦なく射抜くだろう。無関係の人間を巻き込みたくはない。
人通りのない道をいくつか横切るルートに決める。比較的狭い道を通るつもりだから注意しておけば当たらないようにできるはず。敵の位置を確認しながら慎重に、素早く近づこう。
「覚悟!」
「はあっ!? いつの間に……!」
敵は咄嗟に矢を番える。狙っているのは――心臓だ。この距離では避けられない。致命傷を避けるため体を捻りつつ敵を刺す。
ゲームだから良かったが、かなり深い傷を負ってしまった。オフライン版と同じ仕様であれば、十分は安静にしていないと治らない傷だ。敵が動かないことを確認した後、私は人目を避けるように移動した。ログイン時にいる場所はログアウトした場所になるようだから、位置は慎重に決めなければならない。姿を隠せそうな場所を選んでログアウトした。