23 町歩き①
いつまでも初期服は嫌だと思い、服を手に入れる方法がないか調べたところ、仕立屋イベントというものがあると知った。このイベントをこなすことでオリジナルの服を作ってもらえるようになるらしい。私の狙いはイベント終了時にランダムで貰える装備だ。悲しいかな、服を作ってもらうほどの金はない。
おおよその流れを頭に入れてからログイン。今日は見覚えのない人によく襲われる上に、珍しく雨が降っているから余計に気分が沈む。返り討ちにしつつイベントの場所に向かう。
「誰の許可を得て商売してんだ? ああ?」
イベント場所に着いたらしい。ガラの悪い男――悪役のNPC武士が女性に絡んでいる。女性は涙目になりながらも、決意を決めたような表情をしていた。手には短いが刃物を持っている。男は少し脅すだけのつもりだろうが、刃を向けられれば殺す気で反撃するだろう。放っておくと殺人現場が出来上がりそうだ。イベントのためにも見逃すという選択肢はないのだが。
「そこの方。武士の端くれとしてその態度は見逃せません」
少々芝居がかった声で乱入する。二人が私の方を向いた。男は不機嫌そうに私を睨んだ。
「おいおい。武士だって言うんなら、もちろん俺のことも知っているよなあ?」
「いえ。無知でして」
「は? 馬鹿にしてんのか? 殺してやる!」
余計な感情を入れずに言った言葉が煽りとなり、それが戦闘開始の合図となった。悪役武士はこちらに駆け寄りながら刀を抜く。彼が女性に絡んでいたのは人目を避けるためか路地だったため薙刀が振りにくい。薙刀をあまり使わずに勝てると良いが。
白刃取りを狙うのは少しリスキーか。敵の攻撃を少し大きめに避ける。そのまま地面を蹴って急接近。驚く男を殴る。
「決闘中に殴る? お前こそ武士に相応しくねえ」
彼は殴られた場所を手で押さえながら負け惜しみをした。「こんなもの決闘ではありません」と言い返すと舌打ちをして捨て台詞を吐いて逃げていった。
「ありがとうございます」
彼女は少しだけ不服そうに言った。落ち着きのありそうな見た目と職業の割に血気盛んな性格らしい。
彼女はお礼を言い終わるとすぐに帰ってしまった。この仕立屋イベントは一度ここでフラグを立てるとその後、町中で仕立て屋の子が様々なトラブルに巻き込まれるようになる。それを助け続けることで仕立て屋に招待してくれるイベントに発展するらしい。
仕立て屋の子を助けられるように注意深く探索しつつ、いつも通りに町を歩くことにしよう。




