13 遠駆け③
飛び降りた勢いのまま攻撃するAsahiをなんとか受け止め、押し返す。このまま放り出されたら馬のスピードには追いつけない。別に殺す必要はないのだ。退けられればそれでいい。しかし彼女は私たちの馬の手綱を左手で掴み引っ張った。
「操作しにくい……!」
「頑張って、ケイン!」
薙刀を短く持ち、Asahiに向かって振るう。何回か打ち合った後、彼女は不意に武器をしまう。
「捕まえた」
薙刀を掴まれ、私は馬から引きずり下ろされる。そしてそのまま地面に叩きつけられて、一瞬行動不能になる。その隙に彼女は私を抱きかかえ、いつの間にか呼んでいた馬に二人乗りする。
「くそっ、夜霧を返せ!」
ケインが矢で応戦するが全て斬られてしまい、彼女も私も傷つけることはなかった。
「いつまでそうしているの? 手、貸すけど」
「……お言葉に甘えて」
Asahiの肩を掴んで支えにしながらきちんと馬に乗る。彼女も馬の扱いが上手く、私が動いている最中でもほとんど揺れなかった。
「援護射撃なら戦いの最中じゃないと。夜霧に当てそうだからって尻込みしていては駄目だね」
彼女は「弓はこうやって扱うんだよ」と言って、弓を射る。予備動作はほとんどなかった。
「危ない!」
狙いは眉間。この場で殺されたら城下町まで逆戻りだ、移動にさらに時間がかかってしまう。
「「え?」」
彼に当たる寸前で矢がほぼ直角に曲がった。驚いた私たちの顔がよほど面白かったのか、Asahiは大笑いしている。
「これは弓限定の『軌道修正』っていう能力。面白いでしょ、ふふっ」
「剣士じゃなくて弓使いなんですね。それって元寇イベントの武器だろ?」
ケインが不機嫌になりつつ聞く。Asahiはもう殺すつもりはないようで武器をしまっていた。
「あーこれは奪ったやつ。自力取得した弓がダサかったから押し付けたんだ」
「へー弓も貰えるんですね」
「……それ、イベントの武器別三位に入賞したら貰える報酬でしょ?」
「そうだね」
彼女は平然としていた。私が「それって凄い?」とケインに聞くと、「メイン武器じゃないのにこのゲームで三番目になっているんですよ?」と返された。確かに凄い。ここ二、三週間で出会った弓使いは十人以上居たが、全体で見るともっといるだろう。
「元寇イベントは二ヶ月に一度で、土日開催だから三人かける二回のチャンスがあるわけだから意外といると思うけど。あとな、何でも良いから欲しい時は不人気武器を使うのがおすすめ。あと、戦場に馬を連れて行くのはおすすめしない」
「せんぱーい、刀はどうなんすかー」
「人気武器で上位メンバーほぼ固定。だからいらない刀をそこら辺に置いておくと大乱闘起こるから楽しい」
「三日前のあれ、お前の仕業かっ!」
「ははっ」
「うっわ。駄目っすよ、こんなやつ! クズですクズ! フレンド解除しましょう、今すぐ! 女性キャラだからって騙されちゃ駄目です、こいつの名前に見覚えあると思ったら、わりと有名なPKプレイヤーじゃないっすか! しかも男っすよ! 騙されないでください!」
なんだかんだケインとAsahiは仲良くなっていた。Asahiは聞かれなかったから言わなかっただけで性別は隠していなかったらしく「ネカマくらいどこにでもいる」と言っていた。




