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婚約破棄の代行はこちらまで 〜店主エレノアは、恋の謎を解き明かす〜  作者: 雨沢雫@3/5「つまらない女」発売
case6.嫉妬と自尊心は身を滅ぼす

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case6ー4.クズ男の経歴


「お姉さま! あのクズ男はぜーったいセレーナと結婚させちゃダメ!!」


 ウェストゲート公爵家から店に戻ると、マリアがものすごい剣幕で言い迫ってきた。どうやら情報収集を済ませてきたらしい。


 眉を吊り上げたマリアの後ろを見ると、ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべたミカエルがいた。しかし、目が全く笑っていない。これはどうやら相当お怒りのようだ。一体どんな情報を手に入れてきたのやら。


「姉さま、おかえりなさい。エイデン・ティンダルに関する調査を終えたので、説明するお時間をいただけますか?」


「ああ、ありがとう」


 三人で応接室に移動した後、双子は調査で得た情報を事細かに教えてくれた。



 エイデン・ティンダル。十九歳。


 実家はこの国でも有数の製薬会社を所有しているティンダル伯爵家。エイデンはそこの次男であり、年の離れた兄と姉がいる。末っ子ということもあり、家族から大層甘やかされて育ってきたようだ。


 そのせいか、貴族学校時代はなかなかの問題児だったらしく、不祥事はすべて親がもみ消している。テストのカンニングから始まり、素行不良、自分より爵位が劣る生徒への暴力など、挙げるとキリが無い。当然ながら、成績は下の方だったようだ。


 そして、昨年貴族学校を卒業したと同時に、帝国軍第一騎士団に入団。第一騎士団はエリートコースなのだが、入団できたのは彼の実力ではない。両親のコネだ。


 タチが悪いのは、コネで入団したくせにそれを自分の実力と勘違いして、周囲に自分の地位を自慢してひけらかしていること。もちろん同僚の騎士団員には白い目で見られているが、本人はそれに気づいていないらしい。何とも残念な男である。


「……なるほど、救えないな」


 エレノアは軽い頭痛を覚え、頭を押さえながら小さく溜息をついた。すると、マリアがさらに残念な情報を教えてくれる。


「でしょう!? しかも、両親のことを今でもパパママって呼んでるんですって。セレーナとの結婚も、パパやママがなんとかしてくれると思っているのかしら。しかも、眠れない時は未だにママに子守唄を歌ってもらっているのよ!? 十九歳で! 信じられる!?」


「マザコンか……なおさらキツい」


 これは何が何でも婚約を白紙に戻さなければと、エレノアは強い使命感に駆られた。セレーナをそんな男と結婚させられない。


(背は高く体格も良い上に、似顔絵からして顔立ちも整っているようだが……肝心の中身がこれでは目も当てられないな)


 調査資料に目を通していると、今度はミカエルがニコニコしながらひとつの提案をしてきた。


「どうしましょう、姉さま。ひとまずボコボコにしてきましょうか。ああいう人生を舐め腐っている輩は、一度痛い目に遭ったほうが良いと思います」


「いいわね、お兄さま! 大賛成!!」


「待て待て待て。早まるな」


 今すぐにでもティンダル伯爵家に乗り込みそうな勢いの二人を、エレノアは全力で止めた。怒ると歯止めが効かなくなるのは昔からだが、本当に困ったものだ。


 エレノアは素早く話題を逸らす。


「それで、セレーナの婚約の件については何かわかったか?」


 そう問われると、ミカエルはスッと真面目な顔に戻り、調査結果を伝えてくる。


「家族には一目惚れと説明しているようです。ですが、両親は結婚に反対しているようですね。ティンダル伯爵は、大事な息子を男爵家の娘などとは結婚させられないと考えているようです」


 無理やり婚約を結ばせたのはエイデンだというのに、全く勝手な話だ。


 しかし、両親が反対しているということは、今回の婚約騒動はエイデンが一人で勝手に取った行動、ということになる。ただの阿呆の暴走か、それとも――。


「でもね、お姉さま。エイデンがオーウェンズ病院に通い始めたくらいから、彼の様子がおかしくなったらしいの」


「様子がおかしい?」


「ええ。常に何かに怯えているような、そんな感じらしいわ。一目惚れして好きな人ができたのにビクビクするなんて、おかしいと思わない?」


 エイデンの性格や過去のエピソードを聞く限り、想い人ができたなら舞い上がって周囲に言いふらしそうなものだ。


 セレーナに振り向いてもらえなかったらどうしよう、などと不安になるようなタマではないだろう。もしそうなら、無理やり婚約を迫ることなどしない。


 釈然としないでいると、ミカエルが追加の情報を口にする。


「おかしな点はそれだけじゃないんです。ティンダル伯爵邸は、ここロゼクではなく、首都のアマンにあるんです」


「確かにそれは妙だな」


 エイデンは腕の骨折を理由にオーウェンズ病院に通っていた。自宅がアマンにあるのなら、アマンの病院に行くのが普通だろう。


 首都アマンには、この国最大の病院――ルイス記念病院があり、医療に困ることはまずない。加えて、アマンからここロゼクへは、馬車で一時間はかかる。わざわざ遠い病院に通う理由がわからない。


 やはり、エイデンが何らかの目的を持ってオーウェンズ病院に通っていたという可能性は捨てきれない。


「ありがとう、二人とも。クソ野郎に怒りを覚えるのはもっともだが、くれぐれも冷静にな。エイデンがオーウェンズ病院に通うようになった理由を、明日にでもセレーナに聞いてくるよ」


 それに、ジョンの顧客リストの中にセレーナの知る人物がいないかも、併せて確認しておきたい。幸い明日は休日で、外来は休診日だ。仕事の合間に会う時間を作ってもらえるだろう。


「そう言えば、姉さまは何をお調べになっているのですか?」


「わたくしも気になっていたわ! ウィリス様に何を聞いてきたの?」


 双子にそう尋ねられ、エレノアは二人に一連の説明をした。


 何者かがオーウェンズ病院を狙っていて、セレーナの婚約騒動もその一環なのではないかと疑っていること。

 ウィリスに会ってきたのは、アンナ・スミスやジョン・ラッセルに関する情報を教えてもらうためだったこと。

 今日の一番の収穫は、ジョンの顧客リストを見せてもらえたこと。


 説明を聞き終えた二人は、真剣な表情で考え込んだ。


「なるほど……もしお姉さまの仮説が正しいのなら、黒幕はまだ捕まっていない、つまり、顧客リストには載っていないってことになるわね。顧客リストに載っている人たちは、みんな捕まっているはずだけど、捕まっていたらセレーナの婚約騒動は起こせないもの。でも、リストの中に黒幕と繋がる人物がいる可能性は高いわね」


 エレノアもマリアと同意見だった。だがその推理は、全ての事件が繋がっているという前提の元に成り立っている。


 やはりエイデンの真意を確かめなければ、これ以上先に進めなさそうだ。


「姉さま、僕たちも何か調べましょうか?」


「いや、こちらは私一人で調べるよ。あくまでまだ仮説の段階だからな。二人は引き続きエイデンの調査を頼む」


「わかりました」


 その後エレノアは、二人にジョンの顧客リストにあった名をすべて伝え、その日の情報交換は終了したのだった。


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