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婚約破棄の代行はこちらまで 〜店主エレノアは、恋の謎を解き明かす〜  作者: 雨野 雫
case5.利用された男

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case5ー4.アジト制圧(1)


 エレノアが連れて行かれたのは、ロゼクの街外れにある一軒の廃屋だった。


 元はどこぞの貴族の邸宅だったようで、それなりに広そうだ。馬車に揺られていたのは一時間ほどだったので、店からもそこまで遠くはない。


 屋根裏部屋の一室に運ばれ、横向きに転がされたエレノアは、かすかに目を開いた。


「もう起きたのか?」


 目の前には、不思議そうに覗き込んでくるジョンの顔があった。エレノアは反射的に顔を顰め、体を後ろに引きつつ起き上がろうとする。


「ああ、動くな動くな。お前に飲ませた痺れ薬は二十四時間は抜けねえ。じっとしてろ」


 彼の言う通り、飲まされた薬は催眠効果はそれほど強くないが、痺れ薬としてはかなり強力な部類だ。今動けば不自然に映るだろう。


 しかし、アジトがわかった以上、大人しくする理由もなかった。


(さて、いつまで演技を続けようか)


 この部屋にはジョン以外に五人の手下がいる。先ほど店で負傷させた手下とは違う男たちだ。恐らくエレノアの見張り役だろう。


 後ろ手に手首を縛られた状態で彼らの相手をするのは少々面倒だが、やれないことはない。


(とは言え、今は私に注意が向きすぎている。ジョンが部屋を出ていくタイミングを狙うか)


 しばらく静観を貫くことに決めたエレノアは、動かずにその場でじっと息を潜める。まだ動けることを悟らせてはならない。


 すると、目の前にいたジョンがスッと手を伸ばしてきて、エレノアの頬に触れた。


「お前、本当に美人だな。今すぐ抱きたいくらいだ」


 ジョンはそう言いながら、エレノアの頬をスリスリと優しくさすってくる。


 あまりに不快な状況に、エレノアはジョンを鋭く睨みつけた。すると彼は、まるで喜んでいるかのように口角を上げる。


「いいねえ。俺はな、エレノア。お前みたいな気の強い女を虐めて鳴かせるのが大好きなんだよ」


(…………っ!)


 その言葉を聞いた途端、エレノアは急激な頭痛と吐き気に襲われた。彼の言葉が脳内に反響し、ガンガンと頭が痛む。


 頬を撫でる手の感触が気持ち悪い。こちらの体を品定めするようなその視線が気持ち悪い。


 これ以上は我慢できなくなり、反撃に転じようとしたその時、慌てた様子の手下が部屋に飛び込んできた。


「ボス! 大変ですっ!!」


「ああ? 何だよ急ぎか?」


 ジョンは興が削がれたとばかりに不機嫌になり、気だるそうに立ち上がると、手下の元へと近づいていった。


「はい。実は……」


 ジョンと手下は部屋の隅でしばらくコソコソと話し込んでいたが、程なくしてジョンが大きく舌打ちをした。どうやら何か問題が起きているらしい。


 ひとしきり話し込んだ後、ジョンは深い溜息をつくと、再びエレノアの近くに戻ってきてしゃがんだ。


「エレノア。帰ったら嫌になるほど抱いてやるから、大人しく待っていてくれな」


 そして彼はエレノアの銀の髪を一房すくい、そこに軽く口づけをしてきた。その瞬間、再び激しい吐き気に見舞われたが、ぐっと堪える。


 その後ジョンは部屋を去っていったが、エレノアは激しい頭痛と吐き気、それと動悸に苛まれていた。意識しなければ正常な呼吸すらままならず、耳鳴りも酷い。


(クソッ。よりにもよってこんな時に……)


 この発作が起きるのは随分と久しぶりだった。ジョンを捕らえるつもりだったのに、情けない限りだ。


 彼は恐らくこの廃屋を出ていってしまっただろう。発生した問題を片付けに向かったはずだ。


 ジョンが戻る前にアジトを制圧するか、帰ってきてから制圧するかは難しい問題だ。戻る前に制圧すればその分楽だが、先に制圧してしまうと異変に気づかれジョンに逃げられる可能性がある。


 エレノアはどうするか決める前に、まずは発作を鎮めることに集中した。自分が動けるようになるのが先決だ。


 その場に寝そべったまま深呼吸を繰り返すうちに、吐き気などの症状が随分と落ち着いてくる。このままもう少し休んでいれば、完全に治まるだろう。


 対する手下たちは、特にエレノアに注意を向けることもなく、談笑に花を咲かせている。


 しばらくそんな時間が続いたが、話題が尽きたのか、手下たちの興味がエレノアに移った。


「この女、本当に美人だよな」


「ああ。今まで見たことねえくらいだ」


「でも、なんで男装なんかしてるんだ?」


「おい女、ちょっと喋ろうや。痺れてて無理か?」


 エレノアは内心大きく舌打ちをした。この後の展開は大体想像できる。


 喋れないフリをして無視を貫いていたが、案の定、すぐにそうも言ってられない事態に陥った。見張りの手下のうちの一人が、エレノアに手を出そうとしてきたのだ。


「おい、それは流石にやめとけって」


「ちょっとくらいいいだろ?」


「ボスに殺されるぞ?」


「バレなきゃ大丈夫だって。こんなにイイ女、滅多に拝めるもんじゃねえだろ?」


 そう言って男はエレノアの胸元に手を伸ばしてくる。


(……よし。ジョンをどうするかは、一旦こいつらをブチのめしてから考えよう)


 エレノアはそう決めるやいなや、後方に転がり距離を取りながら素早く立ち上がると、そのままの勢いで胸を触ろうとした男に回し蹴りを食らわせた。


 かかとが側頭部に直撃した男は、声を上げることもなくそのまま床に倒れていく。


 残りの四人の手下たちは、動けないと思っていたエレノアが急に動き出したので、一瞬呆気にとられ目を丸くしていた。しかしすぐに我に返り、各々腰にぶら下げた拳銃を取り出そうとする。


(遅い)


 その時既に手首の縄を解いていたエレノアは、一番近くにいた男の懐に素早く潜り込むと、右手で拳銃を押さえ、左肘で男の顎を下から思いっきり叩いた。


 「がっ」と短い声を上げて倒れそうになる男を、左手で掴み支える。そしてその男を盾にしながら、エレノアは残り三人の手を、奪った拳銃で素早く正確に撃ち抜いた。


「があっ!!」


「くっ!」


「ってえ!!」


 三人は揃って撃ち抜かれた箇所を痛そうに押さえて俯いた。


 隙だらけの相手を制圧するのは実に簡単だ。手際よく急所を叩いて回れば、気絶した男三人の出来上がりである。


 手下五人の制圧を完了したエレノアは、その場で小さく息を吐いた。


(まずはこの屋敷を制圧して、ジョンを待ち伏せするか。帰ってきてくれるといいんだが)


 扉の外からは、ドタバタと数名の足音が聞こえてきている。今の騒ぎで屋敷にいる他の手下たちが駆けつけてきたのだろう。増援の襲来に備え、エレノアは武器を調達するために手下の一人に近づこうとした。


 しかしその時、視界がぐらりと大きく揺れた。思わずその場にしゃがみ込み、手で額を抑える。


 どうやら今の戦闘で毒が回ったらしい。


(……全く、どれだけ飲ませたんだ、あいつ)


 手足が痺れて動かしにくい上、強い睡魔まで襲ってきた。これはあまり時間をかけてはいられなさそうだ。


 急いで手下たちの懐を漁り、武器を調達する。十分な量の弾倉とナイフ数本をフロックコートの中に仕舞い、両手に拳銃を持つ。


「おい! なんで銃声が聞こえたんだ!」


「何があった!?」


 足音とともに手下たちの声が扉の前まで迫ってきていたので、エレノアはタイミングを見計らって、外開きの扉を思いっきり開け放ってやった。すると、扉が見事「バンッ」と手下の顔面にヒットし、一人の男が倒れていく。


 他にも数名の手下が来ていたが、皆が驚いて呆気に取られているわずかな隙に、一人ひとり的確に射撃して動けなくしていった。


 エレノアはそのまま階下に下り、騒ぎを聞きつけ集まってきた手下たちを片付けていく。屋根裏部屋を下りたここは二階で、思った以上に部屋の数が多い。かなり大きな拠点のひとつなのかもしれない。


 一階への階段を探しながら、各部屋からぞろぞろと湧いて出てくる手下たちを容赦なく倒し続ける。


 しかし、廊下の角を曲がったその時、エレノアは驚いてピタリと攻撃の手を止めた。曲がり角でばったり出くわしたその人物が、よく見知った男だったからだ。


 相手も相当驚いたようで、赤い髪のその青年は、夕焼けのようなオレンジの瞳を大きく見開いていた。


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