case1.プロローグ
とうとうこの時が来た。
「アメリ・レイクロフト伯爵令嬢! 今日この時をもって、君との婚約を破棄させてもらう!」
それは、貴族学校での卒業パーティーでのことだった。
衆人環視の中、婚約者のウィラード・ジール侯爵令息にそう告げられて、アメリの心臓は今までにないほど早鐘を打っていた。
彼の隣には、可愛らしいピンクブロンドの髪をなびかせた女――キャサリン・ブロンソン子爵令嬢が、まるで勝ち誇ったように、下品にほくそ笑んでいる。
「度重なるキャサリンへの仕打ち! 流石に看過できない!」
婚約者ウィラードに近づくキャサリンに嫉妬し、アメリが彼女を執拗に虐めた。いつの間にか、そんな話になっていた。
アメリが彼女を虐めたことはもちろん一度もなく、全てはキャサリンが仕組んだ自作自演だった。しかし、彼にいくら無実を訴えても、彼は聞く耳を持ってくれなかった。
「それは誤解です! わたくしは何もやっておりません!」
アメリは最後にもう一度無実を訴えた。無駄だとわかっていても、この場で言うことが大事なのだ。
「黙れ、見苦しい! 君の顔は二度と見たくない!」
ウィラードはそう怒鳴ると、キャサリンの肩を抱きこの場を去ろうとした。
「お待ちください、ウィラード様! わたくしは……わたくしはあなたを心から愛しております!!」
アメリは彼の背中に向かって叫んだ。無駄だとわかっていても、やはりこの場で言うことが大事なのだ。
ウィラードはアメリの叫びに立ち止まると、顔だけで振り向く。
「僕の愛は、全てキャサリンに捧げる」
冷たくそう言い放ち、彼は今度こそキャサリンを連れてこの場を去っていった。
残されたのは、卒業生たちに哀れみの視線を向けられたアメリ。
「うっ……ううっ……」
アメリは嗚咽を漏らしながら涙をこぼした。見かねた友人たちが近寄ってきて、優しく背中をさすってくれる。そしてアメリはその場にしゃがみこみ、泣き崩れた。