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第一夜 機械仕掛けのジュリエット

形式は夏目漱石の「夢十夜」みたいな……全然雰囲気違いますが。


各話は互いに無関係で独立しています。

こんな夢を見ました。

とある道行きの途中、私はジュリエットに会いました。

まるでプラネタリウムのように、美しい、丸い星空の下でした。

彼女はロミオを待っているのでした。そのためにとびきりお気に入りのシルクのドレスを着ておりました。月長石のような色のドレスを着ながら、ジュリエットはさめざめと泣いておりました。星のようなきらめきの水晶を(ちりば)めた、華奢な小靴を履いた白い足を投げ出して、泣きじゃくっているのでした。

「もう少しでわたくしの螺子が切れてしまうのです」

と彼女は訴えました。

「このままではロミオ様を待つこともできない」

ジュリエットはどうやら発条(ぜんまい)仕掛けで、なるほど、彼女の繊細な背中からは、大きな真鍮の発条が突き出ているのでした。ジュリエットがあまりにも悲しげでしたので、哀れに思われ、私はその発条を巻いてやりました。けれどもジュリエットはさめざめと泣きつづけるのです。

「ロミオ様はいついらっしゃるかしれません。あの方をお待ちしている()に、いつ螺子が切れてしまうかもわかりません。どうか、ロミオ様がいらっしゃるまで、私のそばで螺子を巻いてくださいませ」

ジュリエットはそう言って、私の服の裾を掴んで離しません。

しかしながら、進まねばならぬ身であった私は、断りました。するとジュリエットは存分に手入れのされた黒髪を振り乱し、「ああ、ああ」と声を上げで泣くのでした。真珠やサファイアをあしらった銀の髪留めが彼女の膝元に落ちておりました。

「このままではロミオ様を待つこともできない。螺子の切れたわたくしをご覧になって、あの方はどうおもわれるでしょう。そのような姿をロミオ様にさらすのは嫌です」

私はジュリエットの傷ひとつない腕と発条を見比べ、彼女の腕は発条に届かないのかと尋ねました。ジュリエットは届くと答えました。ならば彼女自身で発条を巻けば良いと思ったのでそう言いました。

「だけれどもわたくしには螺子を回す力が無いのですもの」

そんなはずは無い、と私は思いました。私はジュリエットには発条を回す十分な力があることを知っていました。誰にだって発条は回せるものです。ですので、私はそう言いました。ところが、ジュリエットは頑なに首を振って、

「わたくしには螺子は巻けないのです」

と言い張るのでした。

そのうちに東の空が、私が行かねばならない刻限が迫ってきたことを知らせたので、私はジュリエットを置いて歩き出したのでした。


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