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第8話「おおばかやろうなのだ!」

■登場人物

「タナーカ」

転生者、チートスキル~支配の邪眼~を持つ、所持品ブリーフ一枚。


「ナビ子」

タナーカのナビゲーター、インプ。紫色のロリ。


「リシャ」

十字剣を携える神官騎士。美少女。

「くそ! くそ! どうすりゃいいんだ!」

 タナーカは焦っていた。

 気持ちばかりが先ばしって、頑丈な鉄格子を揺ったり、体当たりしても、どうにもなりはしない。そんな簡単な事がわからない。

「ちくしょう! ぶん殴ってでも止めろよ俺!」

 短剣を突きつけられていたとしても、抵抗を続けるべきであった。いまはそう強く後悔している。

 おそらく、百度繰り返されても、百度動けなくなるだろう。それが死の恐怖というものだが、彼は喉元過ぎた恐怖を忘れ後悔を続けている。

(あの娘を……リシャをどうするつもりなんだ? くそ! くそ!)


 ガシャン! ガシャン!


「出せ! ここから出せよ!」

 タナーカは鉄格子を握りしめ激しく揺さぶるが、鉄が鳴る音と、彼の絶叫は、洞窟の奥へと虚しく響いて行くだけだった。

「くそ! ばかやろう!」

 石畳の床に両手を叩きつけ、彼はひざまずく。己れの無力さを噛み締めて、声を張り上げる事しかできなかった。


「タナーカ様、大丈夫なのだ?」

 彼の耳に聞き覚えのある声が届いた。

「ナビ子!」

 牢獄の外側、タナーカの居る内側から鉄格子を挟んで向かい合わせの場所に突然ナビ子が現れる。

 彼は助かったとばかりに、鉄格子にすがりつきナビ子に言う。

「助かった! この扉を開けてくれ! 鍵はあそこにあるから早く!」

 タナーカはそういって牢獄の鍵が保管された柱を指差した。不審者達は警戒心が緩いのだろうか。彼を脅威とはみなしていないのだろうか。理由は解らないが、近場の柱の鍵掛けに鍵を掛けて、牢のある区画を後にしていた。

 ナビ子は指し示された鍵の在りかを一瞥したが、首を横に振った。

「できませんのだ」

「なんでだよ!」

 タナーカは鉄格子を揺すり激昂した。

「何度も言ってるのだ……直接的な手助けはできないのだ……そういう制約(ルール)なのだ」

 ナビ子は申し訳なさそうな顔をタナーカに向けるが、彼はそんな事に構ってられないと続ける。

「ばっ……! なんでだよ! 今はそんな事言ってる場合じゃない! 状況わかってんのかっ!」

「タナーカ様の行動は全て見ているから状況はわかっているのだ……でも、すみません……のだ」

「くっっっ……くっそおお!」

 タナーカは頭の血管が破裂しそうになる感覚を覚えるが、それすらも今はどうでもいい。とにかく何とかしなければ、それだけで彼の頭はいっぱいだった。

「だったら、どうすりゃいいんだ? 何もできないのか? お前は何もしてくれないのかっ?」

 ナビ子は先ほどと変わらぬ表情で応える。

「タナーカ様の生死に係わるようなピンチでもない限り手助けは無理なのだ! ごめんなのだ!」

「今日だけでも何回かあったけどな! そんなピンチ!」

 タナーカはさらにヒートアップし、「死にかけでも助けてくれなかったじゃあねぇか!」と、ナビ子に詰め寄ろうとしたが、とある考えが頭に浮かびやめた。

「まてよ」

 彼は鉄格子を握りしめたまま、少しの時間考えた。

 考えた後に、本当にソレやるべきかどうか、についても更に迷い考えた。

「……おい、ナビ子」

 その迷いを直ぐに払拭する事はできないようだが、考えている暇がないという事実を受け入れざる負えなかった。

「はいなのだ?」

「生死に係わるピンチなら助けてくれるんだよな?」

 ナビ子は一寸迷ったが、コクりとうなづいた。

 異世界にとって転生者(チーター)というのは刺激だ。退屈な世界に波紋を起こす、変革者といっていい。

 導きの精霊(ナビゲーター)が安易に手助けする事で、彼ら彼女らの物語(ストーリー)が濁る事を良しとはされていない。だがそれ以上に、安易に死なれても困るのだ。

 しょうもない不運、くだらない敵、そんなものでいちいち死なれちゃあ、つまらないだろ?

 だから、絶対絶命のピンチの時は助けてOK。それが転生の女神(ナビゲーター)や、その上位存在が示す指針(オーダー)だ。

 導きの精霊(ナビゲーター)であるナビ子はその指針(オーダー)を厳守する。


 ガシャン! ガシャン! ガシャン!


「ちょ……何やってるのだ?」

「いってぇ……」

 タナーカは鉄格子に頭を打ち付け出血している。

「……足りねぇか?」

「タ、タナーカ様?」


 ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!


「あぁ! いてぇ! いてなぁ! ナビ子! 助けてくれよ!」

 タナーカの額から染み出す鮮血が滴り、眼球を赤く染める。

「タナーカ様やめるのだ! 気が狂ったのだ?」

「狂ってねぇよ!」


 ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン! ガシャン!


「ああっ、こんなんじゃ死ねねーよなぁ!」

 タナーカは血にまみれた頭を左右に振って辺りを見回す、髪すらも紅に染まり、血飛沫が舞う。

「イイ物があるじゃねーか……」

 彼は視線の先に何かを見つけてニヤリと笑った。

「タナーカ様……何するつもりなのだ?」

「あー? 何するって……決まってんだろ、死ぬんだよ!」

 タナーカはそういうと狭い獄中を駆け出した。部屋の隅に置かれた大きな水瓶に向かって。

「タナーカ様っ?」

「おらぁ!……ガボッ!ガボボボボボ!」

 彼は汚水が波打っていた水瓶に頭から突っ込んだ。水瓶は彼の腰の高さ程はあり、幅も大きい。牢獄に閉じ込められたもの達の飲み水なのだろうか? 汗を拭き身体を洗うものなのだろうか? はたまた汚物を流すものなのか? 用途はわからないが、人ひとりが陸で溺れるに足る量の水が張られていた。

「タナーカ様が狂ってしまったのだー! 大変なのだー!」

「ガボボボボボ!」

 ナビ子は慌てた。

 彼女は導きの精霊(ナビゲーター)としてそれなりのキャリアだが、このようなケースは初めてであった。

 タナーカの自傷行為をピンチとして捉えるべきなのかと、判断に迷うのも仕方がなかった。

「ガボッ! ……ガボッ!」

「タナーカさまー!」

 タナーカも必死だった。リシャを助けたい。あんな奴らに汚されてなるものか、その美少女(おんな)は俺のモノだ。欲望(リビドー)が大量のアドレナリンを分泌させ、死の恐怖を克服していた。

「ガボ! ガボガボガボガボ…………ガボ……………コポ……」

 頭から水瓶に突っ込み、綺麗に倒立していたタナーカの腰や背が折れ曲がる。バタつかせていた両脚も活力を失い脱力を始めた。

「…………」


 ガシャーーーン!


「……ガボッ……げほげほげほ……ごええええ!」

 水瓶が砕かれると、陶器の鳴る音と共に大量の水が四散した。その流れに乗ったタナーカも滑るように地面に転がる。

 しこたま胃袋に流れ込んだ水を吐き出しながらタナーカは言った。

「げほげほげほ……げほげほ……死ぬかと思った……」

 ナビ子は目に薄っすらと涙を浮かべながら叫ぶ。

「おおばかやろうなのだ!」

 彼女の涙はタナーカを心配してのものではない。導きの精霊(ナビゲーター)の感傷は人のそれとは違っているから、タナーカが死にかけたくらいで泣くような人格(タマ)ではない。しかし、ビックリはしたのだろう。

 タナーカの突飛な行動で死なれでもしたら転生の女神(コーディネーター)に叱られる。そういった保身の涙ではある。

「へっ……へへへへへ、褒めてやる。ナビ子」

 タナーカは血と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を持ち上げる。その台詞は彼にとっては精一杯の恰好つけのつもりだったが、変な笑い声が出ていた。

 目線の先には開きっぱなしとなった牢獄の扉がある。タナーカを助ける為に、ナビ子は急ぎ鍵を拾い、錠を破り、牢獄の中に侵入したのだ。水瓶もその時にナビ子が割っていた。

 彼女は文句のひとつでも言ってやろうと言葉を選んでいたが、それを口に出す間もなく、タナーカが立ち上がる。

「……タナーカ様?」

 彼はナビ子の呼びかけを無視し、牢獄の外に向かってヨロヨロと歩きだした。

「どこに行くつもりなのだ?」

 彼は振り向きもせずに応えた。

「俺の美少女(おんな)を取り返す……きまってんだろ?」

 タナーカはそういいながらゲホゲホと咳き込み、腹の内から上がってくる吐しゃ物をぶちまけながら部屋を後にした。


「タナーカ様……」

 ナビ子は彼の気迫とこの場の雰囲気に飲まれてしまっていた。そのせいだろうか?

「あの人はあなたの女じゃないのだ」

 彼にこの正論をぶつける事ができなかった。

目標は週一更新です、誤字脱字は気づき次第修正します。

暫くは加筆修正多めになりそうです、ご容赦ください。


暇のお供になれば幸いです。

よろしくお願いします!

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