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第1話「良い転生を!」

「あまりにゲスすぎます」

 真っ白い地面の先には地平線が見える。

 室内でははさそうだ……だとすれば、野外なのだろうか。

 見上げても青空はなく宇宙もなく、ただ何もない空間だけが無限に広がっている。


「なんでですか⁉ 必要でしょう⁉ 美少女ボール!」

 時計もないので、議論を始めて何時間立ったのか解らない。

 体感で1時間くらい過ぎた辺りだろうか、長くなりそうだから座って話しましょう。

 そう言って転生の女神様は椅子を用意してくれた。

 熱くなった俺は一度も腰を下ろす事はなかったが。


「ハーレムって事は沢山の人数を抱える訳ですから! 僕一人だと相手をしきれない訳です! 部屋だって足りないかも、食費だって生活費だって大変なんですよっ? わかりますよねっ? だーかーらー、この能力があれば……」

「お気に入りの女の子だけ出しておいて、他の女の子は必要になるまでボールにしまって置く⁉ 正気ですか⁉ 女の子を何だと思ってるんです⁉」

「いや! ちゃんと偏らない様にローテーションを組みますよ! 選りすぐりの美少女にするつもりですから、全ての美少女を平等に愛し決して偏らせない、全てがお気に入りであって!」

「そーいう話ではないですぅぅぅ‼」

「えっ⁉ あくまでも同時に相手しろって事……ですか? うーん……だったらやはり必要じゃないですかね?どう思います。さっき提案した《チートスキル:九尾のペニ……》」

「だから違いますぅぅぅぅうう‼ ってぇぇぇ‼」

 先ほどからずっとこうなのだが、いまいち女神様に思いが伝わらない。

 何故こんなに否定的なのだろうか?

 異世界に転生を行うにあたってチートスキルを選択して欲しい。

 そう言ったのは女神様の方なのだが。


 転生者がより輝く為に。

 異世界に変革と刺激を与える為に、チートスキルを授けますと。

 そう言ってくれた筈なのに……。

 おかしな話だ。


 《チートスキル:無詠唱魔術(キャストレス)

 《チートスキル:霊魂吸収(ソウルイーター)

 エトセトラ……エトセトラ…。

 好きなチートスキルを選んでくださいと、なんだか色々提示はされてはいたのだが、どれもこれも俺にはピンとこなかった。


 最強の魔術、最強の剣技が何だと言うのだ?

 そんなものがあった所で他人にコキ使われるだけだろう?

 人生を生贄にサラリーを召喚していた転生前と何が違うのだ。

 異世界を救うに役立つかもしれないが、そんな事に興味はないし……俺の望みはもっとデカく崇高だ。

 そんな事を考えながら、いっこうに決断できない俺。

 女神様はその事に痺れを切らしたのかもしれないが……。


 「チートスキルを自分好みにカスタムもできますよ?」

 転生の女神様はそう言ったんだ。

 なんというサービス満点仕様。

 すばらしい!

 だから俺は提案した、俺の夢、俺の願いを叶えるに必要な(チートスキル)を……な……。

 だけども……あれもダメ、これもダメ……挙句の果てには叱られた。

 だったら何が正解なのかと聞いてみりゃ、それは自分で考えろと言われちまう。

 ああもう典型的なダブルバインドじゃあないかと……。

 女神様との問答は続いてる。

 一体なんなの本当に??


 「……良いですか、転生者。先ほどから何度も何度も…ほんんっとに何度も言っている通りぃ! 求めるスペックが高すぎるんですよっ、あと考えがロクでもないんです」

 「だってチートスキルですよね? 強くていいんですよね?」

 「限度があります……えっと、最初に提案されたのなんでしたっけ…全ての女の子が…」

 「《チートスキル:全ての美少女が俺に惚れるそれは抵抗できない》ですね」

 「強いというか雑なんですよ! なんか発動条件とかないんですか⁉」

 「……えっ……だって、美少女に惚れられたいし……条件って? 要ります?」

 「うーん、なんていうか。結果だけ求めすぎではないですか⁉ 情緒……そう! 情緒なんです!!」

 「情緒?」

 「そうです、物語といってもいいでしょうね。例えば……女性があなたに惚れるのは、あなたに助けられ、心揺さぶられ、勇気を貰い……そういった過程の先にある"結果"だとは思いませんか? そういった物語をサポートする為の能力、それがチートスキルだと考えられません?」

 「うーん、ちょっと訳がわからないですね」

 「なんでわからないんだよっ! ばか‼」

 

 この一通りの流れの後に、転生の女神様はコホンと咳払いを一つした。

 「……もう一度説明しますから聞いてくださいね? チートスキルをカスタムできると言っても制約はあります。 効果が強すぎる場合は……所持者本人にとって有利な効果ーーつまりメリットですね。これが強すぎる場合は転生の女神(コーディネーター)であるわたくしがバランス調整をします。所有者本人にとって不利益な効果、デメリットを加えさせて頂きます」

 「えっ⁉ 何故ですか?」

 「……あなたみたいな方がいるからです、自覚してください……はぁ……続けますね」

 女神はため息まじりに俺を諭すと言葉を続ける。


 「要するに一つ目の巨人(サイクロプス)の筋力を欲するなら、大亀の鈍足さを合わせ持つ。メリットに応じたデメリットを与えます。それがバランス……というものですからね」

 「……うーん……」

 「不服そうですね……でも、必要な制約なんです。転生者は只でさえ強力な存在です。チートスキルを抜きにしても基本ステータスが高い、そういう人達ですからね」

 「人達?……って事は、俺の他にも転生者がいるんですか?」

 「はい、当然でしょう。先に転生した方が不利になるので、その方達の情報を明かす事はできませんが。これまでもそうですし、これからも転生者は生まれていくでしょう」

 「そうか……他にも転生者が……」

 少し考えを改めないといけないな……。

 俺はその様に考えた。

 その姿を見た女神の表情は少し和らいだ。

 

 「うふふ。やっとご理解頂けてきた様子ですね!」

 「他の転生者が味方とは限らない……そういう事ですよね?」

 女神様の表情が更に和らぐ。

 嬉しそうに人差指をピンと立て、言葉を続ける。

 「そうです、そうです! 自分以外の転生者がいるのだから、それを踏まえてのメタゲームも必要だと思いません? 《チートスキル:耐転生者(レジストチーター)》などもおすすめですが……」

 

 提案されたチートスキルに関しては相変わらず興味がわかないが……。

 俺は女神様の話を受け入れ再考した。

 「《チートスキル:支配の声(エンペラーボイス)》ってのはどうです? 効果としては全ての美少女が俺の言う事に従う、もちろん、それが転生者であってもガード不能っ!」

 「話を聞いてました⁉」

 「聞いてますよっ! デメリットがいるんですよね? デメリットとして無理矢理従わせる事はできるけど、心までは無理なんですよ! 俺に絶対服従、何でも言う事を聞くけど、ずっと嫌な表情(かお)で罵倒してくるんです!」

 「おまえの性癖じゃねーか! デメリットになってないっ!」

 女神様がまた声を荒げた。

 あれ程、柔和な表情(かお)してたのに、また怒る。

 ホントに何が気に入らないのだろうか?


 「あと、デメリットはわたくしが決めるって言いましたよね⁉ ホントに話を聞いてないなこいつっ‼」

 女神様は、はぁはぁと息を付きながらこちらを睨みつけてくる。

 よくよくみると……いや、改めて確認するまでもなく。

 転生の女神様がシュンと青白い光と共に現れた時から感じでいたが。

 ……非の打ち所のない美しさだ。

 ここまで美しいと……完璧過ぎて逆に性欲が沸きそうにない。

 強すぎる光が故に、俺の股間の闇を萎えさせてしまうのだろうか?


 俺がそんな事を考えていたが、息を整えた女神は言った。

「参考までに、一応そのクソみたいな《チートスキル:支配の声(エンペラーボイス)》に調整を入れてあげますが……そうですね、一度使用したら、口が腐って舌が抜けるってどうですか?」

「厳しすぎませんか⁉」

 この女神様はバランス感覚が狂っている。

 俺は素直にそう感じた。

 流石に顔と体は完璧だが、何もできないんじゃ意味も無いしな……。

 女神ガチャ失敗だな……。


「厳しすぎるとか、そんな事はありません。先程も言いましたが、あなたの考えるチートスキルは強すぎるし、制約も弱点も無さすぎるんです。仮に他の転生者が同じようなチートスキルを持っていた場合はどう思います? その事に関してほんの少しでも想像できていますか?」

 なるほど!

 こいつはしてやられたぜ……と、俺は膝をうった。

 ……そして……泣いた。

「どうすれば……どうすればいいんだ……あれもだめ、これもだめ…夢も希望もありゃしない……くううううううっ‼」


 これじゃ転生前と変わりはしない。

 どういう経緯でここに呼ばれたのか、どうやってここに来たの、覚えていないが……。


 美少女と付き合う事が出来ずに三十余年……。

 ただの一度の交われず……その生涯で契りなし……。

 勘違いはしないで欲しい。

 自慢じゃないが、生前?の俺の容姿はそこそこ良かった。

 女と喋るのが苦手とか、そんな事も無かった。

 異性に好意を示された事も一度や二度ではないと自負している。

 ただ、その相手が俺の求める美少女(りそう)では無かっただけである。

 二十歳(はたち)を超えた辺りで、それじゃダメだと気づきはした。

 人生経験とばかりに非美少女(ふつう)を受け入れようともした。

 しかしだっ!しかし!

 ……好きだと言ってくれたのに仲良くなると離れていく……。

 それが何故だか解からないんだ。

 解らないんだよっ!

 こんな事を言うと高望みだと思われるかもしれない。

 俺の願いはたった一つだけなんだ。

 たった一つだけ。

 ホントに一つ。


 め……。


 めっ……。


 めめ、め……。


「メイドハーレムがほしぃぃぃぃっぃいいいいいいいデスッ‼」

 俺は哭いた。

「なんなの急に⁉ もうやだ、この人間! 女神の精神力をもってしても耐えられません! こいつきもいんですけどぉおおお‼」

 俺の慟哭に呼応する様に女神様も叫んだ。

 同時に手にした杖をかざした!


 ピカッッッッ


 俺の足元に青白い光を放つ魔法陣が現れた。

 地面が吹き上げる風は衣服を巻き上げ、息もできない。

 形容もできない香りが鼻をつくが、これは魔力の匂いなのか?


「……うわっわわわわ……!」

 急な出来事に俺の口から情けない声が漏れる。

 その声は直ぐさま風に搔き消されていく。


「いいですか⁉ 時間がないから良く聞いてください‼ これ以上は貴方に付き合いきれないんで転生の儀を開始しました! まもなく貴方は異世界に転生しますっ、新しい人生が始まるのです! 使命も目的もあなたを縛るものは何もなし、故に全てはあなた次第! 何か質問は⁉」

「……えっ⁉ちょっ……まっ!」

「質問ないですね! はいっ転生の儀は終わり! 良い転生をっ! 順番がおかしくなりましたが、ここで貴方のチートスキルをお伝えします! ホントに嫌だったけど、ある程度は貴方の希望に沿っていると思います! 拒否はできません、させません!」

「……えーーーーー……そんな……勝手……なぁぁあ‼」

話が違うじゃないかと、俺は悲鳴にも似た叫びをあげた。


「あなたの、あなただけの能力は……《チートスキル:支配の邪眼(ハーレムマスター)》!」

「……ハ……ハーレムマス…ター⁉」

「支配したい相手の心を折りなさいっ! 屈服させるのです! そして目を合わせ唱えなさい《支配(ハーレム)》と! さすれば貴方に絶対服従しますっ!」

「……な、なんだってっ!」

 十分だ。

 俺はそう考えた。

 待っていろ、まだ見ぬ、美少女(メイド)達よ。

 お前たちの唯一絶対のご主人様(マスター)が迎えに行く。

 あんな事こんな事! ベッドが壊れる程の酒池!肉林!


 我が名はタナカ!

 メイドハーレムを作りし者!

 邪眼持つ、選ばれし転生者(チーター)


「うぉおおおおおおおおお‼ ヤってやるぜぇえええええ‼」


 バシューーーーー……。


 ――――……。


 ――……。


 ……。


 転生の間に静けさが戻る。

 一切の雑音もない、真の静寂である。


「ふぅ…」

 その静寂は転生の女神の溜息で破られた。

「いっけない、急ぎすぎてデメリットを伝えるの忘れちゃった。 でもまぁいっか、その説明はあの子にまかせましょ……」


 《チートスキル:支配の邪眼(ハーレムマスター)》。

 タナカに与えられた、永久支配の転生能力(チートスキル)

 あらゆる存在を屈服させうる、その力は余りにも強大だ……。


 しかして大きな力には大きな制約が伴うものだ……この力を持つものは……。


 女と性交(まぐわう)と死ぬ。


お気に召しましたら、評価いただけると励みとなります。


目標は週一更新です、誤字脱字は気づき次第修正します。

暫くは加筆修正多めになりそうです、ご容赦ください。


暇のお供になれば幸いです。

よろしくお願いします!

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