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第10話「行くのだっ! タナーカ様!」

■登場人物

「タナーカ」

転生者、チートスキル~支配の邪眼~を持つ、所持品ブリーフ一枚。


「ナビ子」

タナーカのナビゲーター、インプ。紫色のロリ。


「リシャ」

十字剣を携える神官騎士。美少女。

「この部屋には居ないみたいだな」

 その部屋は黒ずんだテーブルがひとつ。卓上には空になったジョッキがいくつもあり、木皿も折り重なって放置されていた。脇にはカビの生えたチーズ、腐敗した食べかけのパン、肉片がこびりついたチキンの骨、そんなものが散乱している。

おそらくダイニングルームのような場所だろうが、洞窟の岩肌をくり抜いて作られた空間でしかないから、衛生面は最悪な印象をうける。

 タナーカはその部屋を後にすると、再びリシャを捜す為に歩き始めた。薄暗くうねうねと蛇行し、時折、横穴が現れる通路を当てもなく進んでいる。

「なぁ、ナビ子。この洞窟の案内とかできないのか? 案内(ナビゲーション)は得意なんだろ」

 彼は自分の少し後ろを追従するナビ子に向かって言った。

「主要な町とか村とかへの案内(ナビゲーション)はできるけど、こういった洞窟の中まではわからないのだ」

 この場所は数百年前に掘られた洞窟で、兵の駐留場のような場所であった。時代が進み山賊の住処や、獣の家など、幾度となく家主が変わってきたが、現在は悪魔崇拝者(カルト)達が持つ隠れ家の一つになっている。

「……そうか……とにかく進むしかないな……」

 タナーカは焦ってはいたが、同時に一つの懸念も抱えていた。リシャやカルトを見つけたとしても、その後、どうすればいいのだ、と考えている。

 策もなしに飛び込んだ所で多勢に無勢、いや……例え相手が一人だったとしても武器を持っている相手だ。喧嘩のひとつもした事がないタナーカにどうにかできるとは思えなかった。

「ナビ子、おまえは悪魔崇拝者(カルト)と戦って勝つ自信あるか?」

「え? あたしに戦わせようとしてるのだっ?」

「また手助けできないって言うつもりか?」

「そうなのだ! それにさっきみたいな真似も辞めてほしいのだ!」

 ナビ子の言う「さっきみたいな」というのはタナーカが水瓶に突っ込んで溺れかけた事を指している。導きの精霊(ナビゲーター)制約(ルール)によって直接的な手助けができないというナビ子。その彼女を無理矢理働かせる為に、タナーカは自らの意志で死にかけた。同じ真似を二度とやりたくはないと、彼も考えてはいるが、リシャを助ける為に必要なら何度でもやってやろうとも思っている。

 その覚悟もナビ子の次の言葉で水泡とかす事になるが……。

悪魔崇拝者(カルト)三人組の個々のレベルはあたしを上回っているのだ。だからあたしに頼っても無駄なのだ」

「えっ、まじかよ」

「ちなみにタナーカ様はあたしよりレベルが低いのだ。そんな転生者(チーター)様は初めてなのだ!」

 ナビ子はケラケラと笑った。

「うるせー! 言われなくても、わかってるわ」

タナーカは薄々感じていた。転生者(チーター)だとか、転生技能(チートスキル)だとか、言われて浮かれていたが、自身が何も変わっちゃいない事に。

 走れば疲れる、殴られれば痛い、武器だって持っちゃいない……持っていたとしても満足に扱えやしないだろうが。

 彼が持ち合わせているのはあの娘への……リシャへの熱い想いだけだ。

「まぁ……俺が弱いってのはわかりきった事だが……そもそもが転生者(チーター)だからってそこまでの強くはないって事だろ? みんなこうなんだろう?」

 彼の問いに、首を横に振りながらナビ子は応えた。

「そんな事ないのだ、大抵の人はステータスにボーナスを盛られるし、転生技能(チートスキル)で無双するのだ。タナーカ様は別格に弱すぎるのだ!」

「なんでだよ!」

 タナーカは思わずナビ子の(ほほ)をつねって引っ張る。

「しらないのだぁー!」

 ナビ子は手をバタバタと動かして抵抗したが、その時であった。


 パリーン!


 延々と続く通路の先から、ガラスの割れる音が響いた。

「なんだ?」

「タナーカ様……この先の右側の部屋なのだ……」

 ナビ子は声を潜めながらも、タナーカを音の発生源まで的確に導く。

 彼の人生(ストーリー)を盛り上げる為に、(イベント)とのエンカウントを誘導する、これは導きの精霊(ナビゲーター)としての大事な仕事である。

 タナーカも事態を察し、(うなづ)く。

 二人はゆっくりとゆっくりと通路を進んで行く。ここまで散々お喋りをしていた事も忘れて静かに……ゆっくりと。

 そして、ナビ子が示した部屋の目の前、部屋に入るための扉は半開きになっており、中の様子が伺える状態であった。

 タナーカが頭だけ出して中を覗くと、三人の不審者と、縛り上げられたリシャを見つける。

「……リシャっ」

「どれどれなのだ」

「……おいこら……邪魔だ」

 タナーカはのぞきこむ頭のすぐ上、ナビ子も同じようなに頭だけ、ひょっこりと出してのぞきこむ。

「リシャは無事か?」

「少なくとも怪我をしてる様には見えないのだ」

「……そうか、良かった」

 タナーカは安堵(あんど)の声を出したものの、悪魔崇拝者(カルト)達が何もしてないとは限らない、そうも考えていた。

 俺の女のおっぱいを()んだかもしれない、女を縛りあげるってそういう事だろ? とタナーカは思った。

「そんな事を考えるのはタナーカ様だけなのだ……あとあの人はタナーカ様の女じゃないのだ……」

 どうやら、タナーカは考えるだけではなく、口に出してしまっていた様でナビ子に諭される。

「さて、どうする……どう助ける……」

 タナーカはナビ子の指摘をスルーするとひとり事を(つぶや)いた。ナビ子はあてにできない、かと言って裸の自分が飛び込んだ所で……何もできやしないだろう……何も行動に移せない。

 リシャを今すぐ助けたいという気持ちをいただきつつも、事の成り行きを見守るしかなかった。


 悪魔崇拝者(カルト)達がいる部屋はちょっとした大部屋くらいには広く、その割には何もなかった。

 あるものとすれば小さなテーブル、椅子、破損した木箱、(たる)そんな程度だ。壁には等間隔に鎖を掛ける為の杭が打ち付けられている。

 タナーカにはこの部屋がどのような役割を持つ部屋なのか、皆目見当はつかない。ただ、窓もなく密閉されているせいか、中に居る人間達の声ははっきりと聞こえてくる。

 ここまでの流れは解からないが、今まさに悪魔崇拝者(カルト)達がリシャに対して非合法ポーションを与えようとしている、そんな状況のようだ。

「あいつら……俺のリシャをヤク中にしようっていうのか? ……ふざけるなよ……」

 タナーカは腹の底から沸き上がる怒りに身を震わせるが、いまだ打開策が見当たらず何もできていない。その怒りは悪魔崇拝者(カルト)に向けられているが、同時に不甲斐(ふがい)ない自分への怒りでもあるだろう。

 あと、役立たずのナビ子にたいしても少々向けられている。その心の内を言葉にしたのなら「さっき手助けしたのだ!」とでもナビ子は言うだろうが、導きの精霊(ナビゲーター)と言えども流石に心までは読めないようだ。

 彼女はタナーカの心の内など知るすべもなく、まったく別の事に気を回していた。

(タナーカ様……怒ってるのだ……展開としてドラマチックなのだ!……でも、この人はよわっちいからここで死亡(ゲームオーバー)の可能性が高いのだ……)


 タナーカが異世界に転生(スポーン)してから半日も経過していない。早すぎる死亡(ゲームオーバー)導きの精霊(ナビゲーター)としての手腕を疑われる。だから、ナビ子はタナーカが死なぬ方法はないかと考えてみたものの、戦力差から鑑みるにどうにも出来そうになかった。

 ……とはいえだ、転生の女神(コーディネーター)に怒られるのも嫌だし、簡単にあきらめる訳にもいかず、ナビ子はさらに「うーん」と唸って思考を巡らす。やがて、ひとつの考えが浮かんで来た。

「そうなのだ! タナーカ様は勝てないから逃げ……」

「あいつらっ!」

 ナビ子はあんな女放って置いて逃げましょう、女なんて星の数ほどいるのだ。そう、言おうとした瞬間に、タナーカが声を荒げた。

 モルテガがリシャを押さえつけ悲鳴をあげさせたことに対しての怒りだ。

 彼の声量は悪魔崇拝者(カルト)達にギリギリ届かないくらいのボリュームであったが、ナビ子の身体を揺らし押し退けるような圧が籠っていた。これは比喩表情ではなく明確な物理現象としての圧力を有していたのだ。実態を伴った殺気、そう表現するのが適しているかもしれない。

「タ、タナーカ様……今のは何なのだ?」

 ナビ子の呼び掛けに彼は応えない。ナビ子の声など、今は彼の耳に入っていなかった。

(……タナーカ様の邪眼が光ってるのだ……)

 この異世界においての魔力(マナ)と呼ばれるエネルギーは、高次元存在であり、意志を持ったエネルギーの化身である《ケイオース》がもたらす。彼、もしくは彼女、が発するエネルギーの余波が、高次元界からタナーカ達のいる下位次元界へと(にじ)みだす。それが魔力(マナ)と名を変え、空間を満たしている。その魔力(マナ)を収集、変質、拡散させる技術が魔術(スペル)と呼ばれる。

 この事は一部の学者や魔術師(ウィザード)導きの精霊(ナビゲーター)達にとっては常識だが、そんな事をタナーカが知るよしもない。

 魔術(スペル)において術式や理論などのロジックは必要だが、これらは小手先のテクニックにしか過ぎない。魔術(スペル)の出力を決定するにあたって最も重要なのは、現実をねじ曲げてでも何かを成し遂げようとする意思力であり、それをもっと解りやすく言い換えるならば、欲望(リビドー)だ。


「許さない!」

 タナーカは声を抑えることもなく叫んだ。打算も計画も、もはや何もない。何もないが立ち上がるしかなかった。リシャの涙を見たからだ。彼女の全てを手に入れたいからだ、他人に触れられるなど我慢ができなかった。

 あまりにも身勝手な欲望(リビドー)、恋と呼ばれるその感情。だが、それは時として力となりえるだろう。

「行くのだっ! タナーカ様!」

 ナビ子も彼を()き付ける。思えば彼はリシャを助けたいが為に、水瓶に飛び込むような男であった、今さら逃げる訳がない。

 腐っても転生者(チーター)、何か面白い事が起こるかもしれない。ナビ子はそんな風に考えなおしていた。だから、火に油を注ぐために言った。

「このままじゃあの女は犯されるのだ!」

「うぉおおおお!」


 バカーン!


 タナーカは半開きになっていた扉を勢いよく蹴飛ばした。

目標は週一更新です、誤字脱字は気づき次第修正します。

暫くは加筆修正多めになりそうです、ご容赦ください。


暇のお供になれば幸いです。

よろしくお願いします!

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