序章~そして王と成る~
「騒々しいな……」
白昼、一筋の光も届かぬ天守閣。
闇に潜む捕食者達、その王に奉つられし玉座にカーミラは居た。
彼女の膝上で愛でられる花嫁に意識はなく、ぐったりと脱力している。
燭台が発する僅かな灯だけでは美しき二人を照らすには心許ない。
「貴殿に招待状を送った覚えはないのだが……」
暗黒をも見通すカーミラの視線の先に男が一人。
「……返して貰おう……その乙女は私のものだ」
***
カーミラが指を鳴らす。
パチンという乾いた音は暗闇に響き溶け込んでいった。
(……ギチギチギチ……)
(……ヲヲヲヲヲ……ギチギチ……)
地面に横たわり風化していた骸達が起き上がる。
奴らの足元はおぼつかずガクガクと震えている。
腐り溶けた眼球、その孔からは赤い光が漏れ出していた。
「照らせ! イヴリン」
「は、はいぃ! アータ・リ・オ・テーラセ……《発光球》!」
「祓え! マリアベルっ!」
「承知しました、ご主人様。ああ! 主よっ! 迷える死者に安息を……《悪霊退散》っ!」
***
死力を尽くす二人の戦いの余波で、城の石柱は折れ、壁には風穴が開いている。
「見事なモノだな転生者……初めてだよ、貴様程の男を相手にするのは……なっ‼」
カーミラの手首から噴き出す鮮血が辺りを染める。
その血飛沫は空間を焼き尽くす炎の様だ。
「《血の饗宴》‼」
カーミラの血液を触媒に血統魔術が放たれた。
男は呼応する様に雄たけびを上げる。
「おおおおおっっ‼」
***
男の目の前でカーミラは膝を折った。
「それがお前の実力か……その……欲し掴み取る力……怖ろしい奴……欲したのは我が命か……」
頭を垂れるカーミラにもはや王の威厳はない。
「殺せ……守るべき領地も共に生きる家族も……ワシにはもう何もない……それにな……生きるのには飽いているのだ……とうの昔にな……」
カーミラは目を閉じた。
「さぁ、ひと思いにやってくれ……貴様にはその力があるだろう……」
長い人生に終止符がうたれる……やっと……やっとだ。
カーミラはそう感じた。
絶対の強者として生を受け、死ぬ事が許されない呪いが……遂に解けるのだ。
「カーミラ……吸血鬼の王よ」
カーミラを見下ろし、その言葉を静かに聞いていた男が口を開いた。
「私が……いや俺が欲するものはお前の命ではない……」
「なんだと?」
何を今さら……。
カーミラはその様な思いを抱きつつ顔を上げる。
その表情に先ほどまでの異形さは感じられない。
ただの涙かれ果てた美しい少女でしかなかった。
「欲しいのはオマエの全てだカーミラっ!……《支配》!」
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