異世界転生者専用ギフト
恋愛要素は無いので、ハイファンのジャンルで。
この世には、地球を始めとした一定以上の文明が無いと理解されない文化がある。
そして、とある異世界転生には神々からの加護と言う形で、一定年齢以上になると使えるようになる特殊な能力がある。
「ルースピイ=ダブー=アガヘィオ嬢が神々より授かったギフトは【ネットミーム】である!」
…………ざわざわっ!
「聞いたことの無いギフトだ……」
「まさかアレか? 数十年に一度、世に誕生するかどうかと呼ばれる傑物が授かるギフトだとか……?」
「そんな訳は無いだろう。 歴史で教わったそれらのギフト名は、もっと格好いい響きのモノばかりだったのだから」
「いや、聞かない名前なのは間違いないと……」
「しかしこんなギフト名は絶対に……」
なんてギフトの授与式を経て、丁度王太子と年齢が近かったし、公爵令嬢だったこともあり、このルースピィ嬢は王太子の婚約者となった。
それからの令嬢は、不思議なギフトを領地の居城で使いこなして、家族や使用人たちに大事にされたと言う。
なにやら見る者の心と体をぴょんぴょんさせる愛らしいジャンプで和ませる話は有名。
他にもどこからともなく音曲を響かせながら奇妙なカボチャの被り物と全身黒タイツで奇妙な踊りを踊ったり、人知を超えた不可思議な空中回転を見せたと思ったら文字を宙に浮かべて静止してみたり。
それでその動きは令嬢としては失格になる奇行の様で、母親から説教されたなんて微笑ましいエピソードもある。
〜〜〜〜〜〜
そんなある年の新年パーティー。
そのパーティーで、王太子と公爵令嬢の婚姻発表がされると目されていた。
が、始まってみると波乱の香りしかなかった。
公爵令嬢はエスコート役がおらず、単独で入場。
王族の登場時には、王太子がどこぞの貧乏貴族の娘をエスコートしてきた。
こんなの話題にならない筈がない。
ちょっとした騒ぎのあと、パーティーの開催を宣言する直前にそれは起きた。
全ての流れを王太子が止めて、王族とそれに近しい者だけが立てる壇の上から、こう宣った。
「ルースピイ=ダブー=アガヘィオ公爵令嬢との婚約を破棄し、私に真実の愛を教えてくれたネトリード=ソック=チービー男爵令嬢との婚姻を宣言する!」
ここでなぜ婚約破棄したのかの説明で、公爵令嬢が悪逆の限りを尽くしたと明かす。
「その様子を私は見ました!」
「私は街の暗い路地裏で、ならず者達にお金を渡しているルースピイ様の姿を!」
「私は暗殺者が所属する、裏ギルドへ入っていくルースピイ様を!」
「私にはお茶の席で、王太子殿下の新婚約者様の暗殺計画をほのめかしておりましたわ!」
その証人として数人の令嬢が出て来て声を上げる。
それぞれ必死な様子で叫び、その深刻さを如実に表していた。
…………ちなみにこの証人になった令嬢達は、派閥的には全員国王にすり寄る派閥の令嬢達であり、ルースピイ嬢の公爵家は国王派と貴族派の間に入り両者が納得出来るよう擦り合わせる、苦労人達が集まる中立派の盟主である。
婚姻で取り込むと目されていた筈のその盟主を、こうやって攻撃している。
そう推理している場の者達は、国王派の真意を探ろうと注目している。
そして直接狙われている事態をどうするのかと注目されていたルースピイ嬢は、先程の糾弾を意に介して無い様子で、ゆっくり堂々と令嬢達に歩み寄った。
そして……。
ベロン!
令嬢の内のひとりの頬を舐めた。
「ひっ……!?」
舐められた令嬢が小さな悲鳴をあげたが、ルースピイ嬢の声に押しつぶされる。
「この味は! ……嘘をついてる『味』ですわ……」
公爵令嬢は劇画調の凛々しい顔付きとなり、この変化に驚いた見物人達の口が縫い止められた。
これから何が起きるのかと緊張し、息を飲んだと言い換えてもいい。
「あ……あっ、あっ…………」
この言葉で、一気に顔を青ざめさせる舐められた証人の令嬢。
いきなり舐められた恐怖もあるだろうが、それだけではないのが分かる大きさの変化である。
もちろん一緒に証人として出て来た他の令嬢達も、嘘と指摘された瞬間から顔が青くなっている。
目ざとい見物人達は、その変化で糾弾直後に推理した事が当たっていたと確信した。
「何を言っているルースピイ! 証人達は真実を述べている! だからこうして証人になってもらっているのだっ!」
嘘と指摘する王太子だが、それにルースピイ嬢は強く反応しない。
「殿下がそう思うのならばそうなのでしょう。 殿下の中ではね」
「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
それどころか嘲り煽り立てるような返答をして、王太子の正気すら奪うルースピイ嬢。
喚き散らす王太子の堪え性のなさからも、今回の婚約破棄騒動は王家が仕組んで王太子に実行させているモノだと、丸わかりである。
「とにかく!! ルースピイ、お前の有責で婚約破棄だ。 良いなっ!」
王太子が国王の前で少しだけ立ち止まっていた側近の耳打ちで、なんとか正気を取り戻したと思ったら、まとめに入っていた。
これは側近経由での入れ知恵だろう。
王太子の取り乱しようから、どれだけ証拠の品を取り出しても、捏造だとみなされてしまいかねない。
なので強引に幕引きにかかったと予想される。
「そして私は愛しのネトリードと結ばれ、国民を良き方向へ導くのだ」
「殿下……」
一つ前のセリフで去ってしまえば良かったのに、余計な事を言った上でネトリード男爵令嬢を抱きしめてしまう王太子。
それと、何がどうなってそうなったのか、感極まって嬉し泣きしそうになっているネトリード男爵令嬢。
これには場の空気がゲンナリ。
そのゲンナリした空気の中、ルースピイ嬢が国王へゆっくりと視線を向け、国王もそれに気付いて視線を返す。
「陛下」
ルースピイ嬢が、国王へ物言いたげな視線を飛ばす。
その視線の意味をしばらく掴みかねていた国王だが、やがて理解する。
「いや待て! 此奴を再教育しよう! それで手打ちで良いではないかっ!」
理解してしまい、慌てだす国王。 その声に驚いた王太子とネトリード男爵令嬢は正気に戻り、国王へ顔を向ける。
もちろんこの慌てっぷりを見物人達も見ており、先程のセリフと併せて、こちらも理解した。
“こんなお粗末な王太子を将来の国王にするのか? 嫌だし国の恥にしかならないから、処分しようぜ”
とかそんな感じの事を目で言っていたのだろう。
そしてこの国王の慌てっぷりから、そこまで重い罰を考えていなかった様だ。
この理解から、見物人達の視線も呆れ、あるいは冷めた物へと変わる。
「皆も再教育で――――」
貴族達に同意を求めようと首を巡らせた国王だが、自身が受けている視線の種類を感じ取ると、口をつぐんだ。
そして顔を手で隠しながら上を向き、しばらく深呼吸。
やがて手を顔からどけて、頷きをひとつ。
覚悟が出来たようだ。
「父上!? 何を頷いたのですか!!?」
意味を理解できていない様子の王太子とネトリード男爵令嬢は、狼狽えだす。
狼狽えるが、まあ王太子にとって良くない空気や流れであるのは察せた様だ。
「ネトリード、君のギフト【ホームシェルター】を!」
「殿下……っ!」
両手を組んで祈るような動きをしたネトリード男爵令嬢を中心に、平民の一軒家の広さ程度の白く輝く光の結界が展開された。
これはかなり丈夫な結界で、常識外れな手段でない限り結界へ向かって放たれた攻撃を弾ける、強力なモノである。
コレを見た見物人は、数年前にそんなギフトを授かった者を養子として囲った貴族が居る話を思い出し、王太子……引いては王族が公爵令嬢から男爵令嬢へ婚約者の取り替えを望んだのか理解した。
「ルースピイ嬢」
国王が公爵令嬢へ声をかける。
「問題ありませんわ」
それに気負いもせず応える公爵令嬢。
「いや、その……な?」
なんとも言いにくそうに、今から公爵令嬢がしようとする行いを止めたがる国王。
「ルースピイ! この【ホームシェルター】は鉄壁の結界だ! 誰も私達に手を出せん!」
そして安全地帯にいる安心感からか、かなり態度が大きくなった王太子は、失言を追加する。
「私達のラブラブフィールドには、誰も踏み込めないのだ! ふはははははっ!」
「殿下……」
安全地帯に籠って気を大きくする、内弁慶な王太子。
と、こんなのに熱を上げて、目をハートにさせているネトリード男爵令嬢。
こんな呆れた場面で、もう一度国王へ目を向けたルースピイ嬢に、目を伏せて首を横に振る仕草で答える国王。
“もういい。 好きにしろ”
そんな諦めの境地みたいなリアクションだった。
なのでルースピイ嬢は遠慮を捨てて、禁断のトリガーワードを唱えた。
【リア充は爆発しなさい】
これだけ。
これだけだが、効果は覿面だった。
あの【ホームシェルター】の内部から、凄まじい閃光と爆音が迸ったのだ。
『うわーーー!?』
『キャーーー!?』
迸りはしたが、それだけだ。
光と音は爆発によるもののはずだが、爆発の衝撃はどうやら【ホームシェルター】内だけで止まったみたいで、周囲に破壊は撒き散らされていない。
強いて言えば凄まじい光と音が人達の目と耳を襲った影響で、襲われた人達が驚いて悲鳴を上げたのが被害と言えるかも。
悲鳴を上げた人達が落ち着いて周囲を見渡せる様になる頃には、全てが終わっていた。
具体的には、王太子と男爵令嬢が居たはずの場所の床が少し焦げているのが確認できるだけで、その2人はどこにも居なかった。
「やはりこうなったか……」
国王がポツリと呟やいた気もするが、それよりパーティー会場の使用人達がにわかに動き出している様子に気を取られてしまう見物人達。
脇から来た使用人が持って来た国王の身長とほぼ同じ長さの王笏を国王が受け取ると、それで床を叩いて注目を集める。
「すまないが今日のパーティーは中断する。 パーティーは後日改めて行う通知を送る故、大人しく待つように。 では解散」
〜〜〜〜〜〜
後日行われた代替の新年パーティーは、全工程がつつがなく執り行われたと言う。
まあ消えた元王太子と男爵令嬢がやらかした責任は裏で問われ、色々すったもんだが有ったのは想像に難しくないが、そこは察して頂きたい。
蛇足
ルースピイ=ダブー=アガヘィオ公爵令嬢
異世界転生者。
自身が転生者だと自覚した時、自分の名前を確認して「なんでア○顔ダブルピース……」と絶望した。
名前からしてロクな展開にならないと、未来を予測できてしまったから。
なお原作を知らないタイプの転生者。
だがギフトの【ネットミーム】を使いこなせる位にはネットにどっぷり浸かっていた人。
このギフトで人を笑わせたり出来るのが、ささやかな自慢。
ネットにどっぷりな人だから知識チートで暴れる面倒さを知っていて、影響力が小さい知識チートしかしていない。
この断罪(笑)劇の後、なんのお咎めもなく暮らす。
が、元地球人。 ふたりをギフトで爆殺した自覚から、精神がちょっとヤバくなる。
家族に支えられて何とか立ち直るも、やっぱり時々思い出して怪しくなる。
【ネットミーム】
ネットで流行ったアレコレを再現、現出できるギフト。
嘘をついてる味は、舐めた時点で分かる。 嘘をついてない場合は、嘘をついてる味だと指摘しようにも口に出せないので分かる。
ネットミームは多少改変されるのが常なので、セリフをしっかり再現しなくても、大丈夫だ問題ない。
リア充爆発しろで爆殺出来るのを知ったのは、昔に森遊びでナニしてる野生動物を見かけて「リア獣爆発しろ」と言った事があるから。
それはもちろん国王にも伝わっており、土壇場でそれを思い出した。
王太子
爆殺された。 どうやら本気でネトリード=ソック=チービー男爵令嬢に惚れていたようだ。
なおこいつのギフトは【学習能力向上】
倍率が人によって違うが、こいつはおよそ3倍。
たぶらかされて堕落するのも、3倍早かった。
ネトリード=ソック=チービー男爵令嬢
超高性能ギフト【ホームシェルター】の使い手。
もちろんこいつも転生者。
原作が何かは知らないけど、男爵令嬢の養子になったし可愛い見た目だし何かを守るギフトだし、ヒロインよね!
と、名前は気にしない事にして調子に乗った。
ホームシェルターが効かなかった理由
ホームシェルターはあくまでも、外部からのアレコレを守るもの。
シェルター内にいる人へ、直接作用するモノには無力。
なお毒ガスをシェルター内へ流し込む(つまりシェルター内の空気への)攻撃が来た場合は、シェルターには内部の換気・空気清浄機能があるので、それに関してはシェルターは防ぎきれる。
偽証令嬢達
大体が家(当主)からの指示で協力しろって言われたからと供述。
それが事実ならその家ごと降格や爵位取り上げ。
王太子に近い又は積極的に協力していた家はお取り潰しの上で開拓村送り……と言う名の労務役。
そこで全員が暮らして行けず、力尽きる。 脱走しようとした者は、護衛役の監視兵に見つかって処された。
個人の感情から協力した令嬢の場合は、各家とアガヘィオ公爵との協議の上で処罰。
貴族籍剥奪の上で開拓村送りが大体。
権利や金でなんとかなった場合は、令嬢は修道院送りで済まされたらしい。
ギフトの正体
神々からの授かりものではなく、自身の心の底から生まれ出た特殊能力が発現したもの。
つまりそいつの心根、本質。
我は汝、汝は我……。
なので異世界転生者は違う文明文化で育ってきた魂であるため、その前世から引き継がれた価値観等によって、発現する形なんかが違う場合もある。