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彼は逃亡する



 馬車からまろび出てきた少女を見た瞬間、脳天をガツンと殴られたような衝撃が走った。


 目の前にいる少女に心臓を鷲掴みされる。



 番だ、早く捕まえろ。


 歓喜に満ちた本能の狂ったような指令を理性でねじ伏せ、その叫びに必死で耳を塞いだ。


 まさか、番に出会うなんて。


この場は危険だ、退避しよう。


 今ならギリギリ逃げ切れるはずだ。


 これ以上ここにいれば彼女を捕らえて離せなくなる。彼女に嫌われるくらいなら、一生逢えない方がましだ。



 だが、彼女を少しでも目に灼き付けたいとシュバルツの瞳が馬車の方角を追う。


 いざ番を前にした自分の本能の未練がましさに泣きたくなった。


 シュバルツの番は、透き通るような透明感のある真っ白な肌に波打つような艶やかな栗色の髪が美しい少女だった。


 意図しなくても脳裏にその愛らしい姿が強烈に灼き付けられる。


 自分の番の愛らしい姿に喜び隠せない本能と彼女が人間だということに絶望を覚える理性に引き裂かれそうだ。



 母の苦悩を思い出す。


人間には番がわからない。


 どうして、よりによって私の番も人間なのか。


同じエルフや獣人だったならどれ程良かったか。



 番と出逢うことなどないと高を括っていた数分前の自分が恨めしくてならなかった。


 くそーっ、この場に留まっていなければ…。



 彼女の存在を知らなければ、私は平穏に暮らせたのに。


 愛らしいその姿から、意思を総動員して視線を断つ。


重い踵を返して、その場から立ち去ろうとした。



 その時不意に手が温かい何かに包まれた。


心臓が跳ね上がる。



 目の前に番がいた。


シュバルツの手をそのちいさな両手で包みこむように握った彼女の満面の笑顔が愛らしい。



「信じられないと思いますが、貴方は私の番なのです。好きでしゅ。」



 あ、噛んだ。あわあわしてる。


可愛い。可愛い。可愛い。


 なんだこの可愛すぎる生き物は。


照れて真っ赤になった番の頭から白いふわふわな耳が出てきた。



 まさか獣人か?



 シュバルツは抑えきれない歓喜に支配されながら、可愛すぎる番を隠すべく番の周りに遮蔽の術式を発動した。


 ついでに遮蔽の外の時間をきっかり3分巻き戻して切り取った。


 これで、シュバルツと番の出逢いの記憶はすべて自分のものだ。


 ついでに、水晶球を空間に飛ばす。


ここから先の彼女の全てを記録する為だ。


 まあ、魔力はかなり使ったがそれ以上の成果に満足する。



「ああ、お耳が…。」



 番が絶望したように呟いた。


耳がへにゃっとなる。


 ぺたんとした耳は、これはこれで可愛い。


私の番は、凶悪な程可愛いすぎてヤバいな…。



「遮蔽してるから、大丈夫だよ。普段は耳を隠しているの?」



「お父様とお母様から、他の人にバレたら大変だからって。」



 確かにこんなに可愛かったら、拐われる可能性は高い。


 獣人は、ただでさえ希少だ。


ウサギ獣人は貴族令嬢として表立って需要はないだろうが、裏では根強い人気がある。


 知られればどんな手を使っても手に入れようとする輩は多いだろう。



「お父上やお母上の言う通りだよ。今まで良く頑張ったね。私も隠すのを手伝ってあげよう。」



「ほんとう?」



 首をかしげる番が可愛すぎる。うさ耳がふるふるしてる。こんな愛らしい生き物、他人に見せてたまるものか。



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