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ウサギのお茶会


 馬車の扉が開かれる。



 リリアは、意を決して馬車を出た。



 ウォルトル魔法伯の屋敷は要塞を思わせる石造りの質実剛健な屋敷だった。


 王都の一等地に石造の巨大な屋敷を造るのにどれ程の予算が必要なのかを考えるとウォルトル魔法伯家の財力がいかほどのものか思い知らされる。



 シュバルツ・ウォルトルは謎に包まれた人物だ。



 独身である事は知られているが、社交界はおろか一切人目のあるところに出ることのない彼の年齢は不詳だ。



 偏屈な老人だとか、小児性愛者だとか怪しい噂に事欠かない人物だ。


 しかし、超一級の魔術師である彼がこの国の根幹を支えているのも否めない事実だ。



 だからこそ、本来なら体調を理由に今回のお茶会は断るつもりだった。



 しかし、ヴィオレッタ達からの指令を断るわけにもいかなかった。


 婚約者に選ばれないことを願おう。



 ふと、前方に何か強烈に惹き付けられるものを感じた。


 思わず淑女らしからぬ足取りで馬車からまろび出てしまった。


 失敗した。しかし、選ばれる必要はないのだ。


リリアはマナーを気にするのは止めた。




 目の前の出迎えの列、執事らしき片眼鏡の美しい銀の髪を後ろで一つに纏めた紳士の隣にいる人物に惹き付けられる。番がいた。



 リリアにはもう彼しか見えなくなった。



 執事見習いなのかお仕着せを着ている彼は年齢の割にひどく落ち着いて見えた。


 しかし、一瞬リリアの方を見て列から出ようと踵を返そうとした。



 逃げられる、彼は私の番なのに。



 淑女としてのマナーを考えれば、無視すべきだ。


しかし、予言の書を思い出した。


 自分の寿命はあと6年。


あの予言の書にリリアが番と幸せに暮らすルートは一切存在しなかった。



 今、掴まえなければ今生で二度と出逢う事は叶わないのではないか。



 リリアは、淑女にあるまじきスピードで彼に近づき、彼の手を取った。



「信じられないと思いますが、貴方は私の番なのです。好きでしゅ。」



 あ、噛んだ。


どうしよう。


 大事なところなのに。



 かあーっと頬が赤くなったのがわかる。


母譲りのキメの細かい白い肌だけは自慢なのに赤くなったら、嫌われるかも。


 動揺した私は番の顔を見た。



 遠目ではよくわからなかったけど、人形めいた美しさの整った顔をしていた。


 彼も獣人だといいなあ。


彼がリリアの頭の上を見てぎょっとした顔をした。


 興奮して我を忘れたリリアの頭から白い耳が出てきてしまっていた。



「ああ、お耳が…。」



 獣人ってバレた。どうしよう。


しかも、こんな大勢の前で。



 さっきまでの番に逢えた高揚感から一転して絶望が押し寄せた。


 番は人間に違いない。


だって、リリアの耳を見てぎょっとした顔をしていたもの。


 嫌われた。


あんな予言の書を信じたからバチが当たったの?



 番だって告げようが告げまいがやっぱり一生会えなくなるんじゃない。


 出逢ってしまった番にこのまま一生会えないなんて、絶望で耳までへにゃっとなる。




「遮蔽してるから、大丈夫だよ。普段は耳を隠しているの?」



 私の番が優しく聞いてくれた。


落ち着いたトーンのボーイソプラノが絶望に覆われたリリアの心に染み渡る。

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