彼は番を拒む
シュバルツ・ウォルトルはハイエルフの母とその番である人間の間に産まれた。
種族が違えど番との間に産まれた子供の能力は親を凌ぐ程高くなることが多く、シュバルツのハイエルフとしての能力は一族最強だった。
しかし、シュバルツの母親は番から契約を拒まれ、シュバルツを産んだあと少しずつ狂っていった。
幼かったシュバルツは母の狂っていく様をみながら、次第に番に出逢うのを恐れるようになってしまった。
長寿を誇るハイエルフは成長も遅い。
しかしながら幼体のまま300年の時を過ごすのは流石に長過ぎたようで、周りがうるさくなったのも事実だ。
シュバルツが幼体のままなのは番がいないからだと周りが騒ぐのは正直うんざりする。
幼体でも一族の誰よりも魔力は高く、当主としてきちんとこなすべき仕事はこなしているし、幼い見た目は仕事にも何かと役に立つ。
困るとしたら子が成せないことくらいか。
一族の中でハイエルフが産まれたのは、シュバルツが最後。
そのシュバルツが番に怯えて積極的に番を探さないのだから、ハイエルフが消えるのも時間の問題だ。
「シュバルツ様、見合いの用意が整いました。」
執事のセバスチャンが知らせた。こいつはエルフらしい銀の髪を嫌みな程きっちり纏めて彫りの深い顔をこれでもかと際立たせる片眼鏡で出来る執事感を出してやがるが、私より年下だ。こいつが赤ん坊の頃オムツにクリーンをかけて綺麗にしてやったのは私だ。
「当主のお姿を見せる訳にはいきませんので、こちらを着てください。」
ん?まさかこの私に執事見習いの格好しろと?
セバスチャンは、私を見下ろしながらにやりと笑った。
「万年幼体であらされる主にはぴったりかと。悔しければ、早く成体におなりください。」
ふん。
番など、幻想にすぎんわ。
番への恐怖心は、三百年の月日を経ても出逢うことがなかったことから、薄れていた。
今回も決して出逢うことなどなかろうと。
遠くから様子を眺めようとしていたシュバルツをセバスチャンが引き留めた。
まさか執事の後ろで一人一人をお出迎えとは。
面倒な事、この上ない。
まだ、子供の癖にこいつら香水臭い。只人より敏感な嗅覚が悲鳴をあげる。
「あと、何人だ?」
うんざりしたようにシュバルツが呟く。
「次のリリア様で最後でございます。」
もう引き上げようとしたシュバルツをセバスチャンが引き留めた。
その時ひときわ地味な馬車の扉が開いた。
早めに到着していたのに、他の馬車に先を譲り続けていたのだ。
暫く後に中から令嬢がまろび出てきた。
ちいさくて可愛らしい少女を見た瞬間、脳天をガツンと殴られたような衝撃が走った。
目の前にいる少女に心臓を鷲掴みされる。




