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彼の囲い込み

楽しすぎる時間の終わりを告げるように夕陽が差し込む。


リリアの瞳から、ほろりと一粒の涙がこぼれた。


ヤバい、引き留めすぎたか。里心ついたのか。不本意だが、家族の元に帰さなければ、心を閉ざしてしまうかもしれない。

セバスチャンに弱腰とののしられようが母の二の舞はごめんだ。囲い込むのはゆっくりでいい。最後に心を手に入れる為にはここで潔く退こう。


「リリア、どうしたの。泣かないで。もう帰る時間だね。遅くまで引き留めてごめんね…」


なんとか慰めて家に帰そうとする私の耳にリリアの呟きが耳に入った。


「帰りたくない…」


え?


「リリア。」


私の願望からの幻聴か?

困った。

ふつふつと沸き上がる喜びを押さえつけてリリアの顔を覗き込んだ。


リリアは、はっと我に還ったようにわたわたしている。

やはり幻聴ではないのか。

後でゆっくり水晶球の記録を確認しよう。


「シュバルツ、長居してしまってごめんなさい。帰ります…」


立ち上がろうとしたリリアの肩に手を置く。いかん、優しく触れたつもりなのに、彼女の動きを完全に封じてしまっている。急に立ち上がれなくなったリリアが不思議そうな顔をした。

まあいい。リリアに警戒されないように微笑みかける。

「リリアが良ければ、今日から行儀見習いとしてこの屋敷に住まないか。今、君のご両親が屋敷に来ている。一緒に話そう。」


詳しくは将来の魔法伯夫人としての行儀見習いだが、そういったら頷いてくれない気がする。ただの行儀見習いならハードルが低いのかリリアがこくこくと頷く。

可愛い。頷くたびに私にしか見えないうさ耳がぴょこぴょこと揺れる。

なんて可愛い生き物なんだ、我が番は。萌え殺されそうだ。あ、また少し背が伸びた。いかん。早く両親に挨拶にいこう。

セバスチャンのことだ。うまく言いくるめているだろう。




心なしか青ざめた表情のリリアの両親が立ち上がる。


「リリア。」



私はリリアの両親に向き直り、出来るだけ優雅に見えるように一礼した。国王相手でもここまではしないぞ。


「初めまして。シュバルツ・ウォルトルです。どうぞおかけになってください。」


リリアが逃げないように手を引いて一緒にソファーに腰かける。私の幼い姿に明らかにほっとしたらしいリリアの両親が微笑ましそうにこちらを見つめる。顔色もよくなっている。

私の幼い容姿使い勝手が良すぎるな。ふふふ。さて、さくっと本題を切り出すか。


「セバスチャンから聞いていただいているとは思いますが、リリアと私は番なのです。よって、将来を見据えて行儀見習いとしてこちらで教育を行っていこうと考えています。」


将来、ウォルトル魔法伯夫人となる事を確約するという意味だ。


「お初にお目にかかります。ユリウス・ラシーヌ、リリアの父です。」


「急なお話で驚かせてしまったのではないでしょうか。」


「はい。お恥ずかしい限りです。ウォルトル卿がずいぶんお若いのにも驚きました。」


してやったりだな。


「両親を早くに亡くしましてね。そのショックと当主としての仕事に忙殺されて若干成長が遅れてしまいました。リリアが側に居てくれたら心の傷が癒えると思います。彼女を側に置きたい。」


実年齢は言えないがな。


「しかしウォルトル卿、リリアには秘密が…。」


さすがリリアの父、誠実な人柄だな。不利な事を今打ち明けるとは。


「存じています。そして、私ならば彼女の秘密を隠す事も可能です。その為にも側で定期的に魔術をかける必要があります。」


「ウォルトル卿、それは…。」

リリアの両親が感極まったようにこちらを見る。


「私の魔術を持ってすれば、一定期間リリアの耳は完全に隠せます。ただ、ウォルトル魔法伯は表に姿を見せない存在。私は外に出る事は出来るだけ避けたいですし、リリアが頻繁に我が屋敷に顔を出せば、ウォルトルの名を利用したい人間に狙われる危険性がある。ならば、リリアを側に置く事が最善かと。」


「わかりました。ウォルトル卿、リリアをよろしくお願いします。」


ほっとした表情の両親はリリアを本当に慈しんで育ててくれたのだろう。番の両親に対する感謝の気持ちがこみ上げてくる。

セバスチャンを見る。

奴が頷いた。

お人好しで誠実な彼らがこの先困ることのないよう、我が派閥に加えて保護することとしよう。

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