彼の給仕
王族専用の応接室にお茶を用意したセバスチャンには悪いが、リリアを私室に案内する。
セバスチャン以外は足を踏み入れない場所だ。
自分のテリトリーに番を入れる喜びに心が躍る。
「狭いけど、どうぞ。」
リリアが、少し落ち着きを取り戻したようだ。
「どうぞ。」
私は、リリアに部屋に一つだけしかない小さめのソファーを勧めた。もう一つあったソファーはさっき魔法で物置に転送した。この小さめのソファーならば、良い具合にリリアの体温を感じられるにちがいない。私はほくそえんだ。
戸惑っているリリアの手を引く。
「リリア、一緒に座ろうね。」
小さめのソファーにリリアとふたりで座る。
リリアの体温どころか鼓動まで感じる距離に幸せを感じる。偉いぞ私、地味に良い仕事をした。
近くで見るリリアは、透明感のある真っ白な肌に赤みが差してより愛らしさが際立った。
緊張してるのか。リリアの緊張をほぐすべく笑顔で話しかける。
「紅茶とコーヒーはどちらが好き?」
リリアの緊張がうつったのか、私。セバスチャンは、紅茶しか用意していないぞ、どうする私。
「紅茶で…」
リリアの答えにほっとする。
パチン
指を鳴らして、王族専用応接室から、お茶のセットを転送する。
目の前のローテーブルに色とりどりのスイーツとティーセットが現れた。
さすがセバスチャン、良い仕事をするな。
リリアが目を輝かせている。
砂時計の最後の一粒が落ちきったのを確認して銀のティーポットから紅茶をサーブする。
馥郁たる紅茶の良い薫りが辺りに満ちた。
三段になったアフタヌーンセットには、人参のスコーンに人参ケーキ、人参を、食わず嫌いしている私への当て付けか?
他のスイーツとの彩りを合わせるためなのか?
前者なら覚えてろよ、セバスチャン。私は人参など食わんからな。
しかし、美しい盛り付けにうリリアがうっとりしているから許す。可愛いな。
「どれが食べたい?」
可愛いリリアの目が人参ケーキに吸い寄せられている。リリア、まさか人参が好きなのか?
リリアが迷うように他のスイーツを見るが、やはり人参ケーキに視線が釘付けだ。
リリアが可愛い。不味かったら可哀想だからな、私は大きな人参ケーキを、ナイフで小さく切った。
「少しずつ食べようか。」
リリアの口許に小さめの人参ケーキを差し出す。
迷っているが、嫌いではないらしい。マナーを、気にしてるのか?
私を見つめるリリアが可愛い。給餌行動が止まらない。フォークをさらにリリアの口許に差し出した。
リリアが意を決したようには人参ケーキを頬張った。
ケーキの味にリリアの表情がぱぁーっと、明るくなる。
美味しいのか、リリア。そんなに美味しいのか。
リリアの笑顔を見ているだけで幸せな気分になる。
他も食べさせたくなる。
「次は、タルトにしようね。」
赤い果実がふんだんに載ったタルトをナイフで切り分ける。
「はい、あーん。リリア美味しい?」
番の美味しい顔を見れるティータイムなんて素晴らしい時間なんだ。
こんなに幸せな時間があったなんて。
自分の淹れた紅茶も飲んで貰いたくてリリアに紅茶を差し出す。
私は、リリアに対する給餌行動を思う存分楽しんだのだった。




