表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

その5

新宿、歌舞伎町なんて恐い印象しかないよ。悪い人たちがいっぱいいるところ、夜遅くまでいちゃいけない街。

でも、映画館がある広場を抜けたあたりから、ポツポツ見かけ始めたんだ…パンク・ロッカーたち!

うちも、周りからは“あの中の一人”って思われてるのかな?

そう考えたら、ちょっとドキドキしてきちゃった。

ロフトは、角っこの飲み屋ビルの地下にある。なーんて、ネットで見たから知ってるだけ。飲み屋とかキャバクラとか、そんな場所にあるんだな。何だか変な感じ。

階段を下の方まで降りると、いきなり別世界になった!ここはもう、ライヴハウス。パンクな人たちが入場で行列してて、でも以外にフツーの人も来るんだなー。ちょっと、ホッとした。

受付でぎこちなくお金を払って、うちは遂にライヴハウスに足を踏み入れたんだ!


「…うわ。」

…いきなり、いたよ!

思ったよりも広いフロアにいっぱいいる恐い人たちを避けて、バー・エリアに行ってみたら。

物販のところに、彼女が当たり前みたいに座っていた。椅子を後ろ向きに腰かけて、紙に何かを書きつけている。

赤い髪。赤いライダース。

テレビで観たままの、彼女。

うち、思わず固まっちゃった。

だって、テレビに出てた憧れの人だよ?

こんな簡単に会えちゃって、いいの?

どっちつかずの気持ちで、それでも足が勝手に彼女の方へ向かう。吸い寄せられるみたい!

声、かけていいのかな?

ライヴ前だから邪魔しない方がいいかな?

うちなんかお呼びじゃないかな?

いっぱい考えているけど、要は、こわい。

リアルが苦手なんだよー。

「あっ。」

パーマを当てた赤い髪がふわりと揺れて、うちのウジウジな思いを切り裂く、声と表情。

彼女がうちを見て、笑顔で手招きしてくれた!

「来てくれたねー!」

立ち上がった彼女、うちと同じタータンのスカート!選んできて良かったー!

こういう時、おじぎ、握手?他にやり方、何かあるの?

迷ってる暇もなく、うちは文字通り彼女に包まれちゃった!

ギューッ!

「ページやってくれて、ありがとねー!やっと会えたねー!」

「…はい。」

彼女の腕の中で、うち、言葉になんない。

突然すぎて、感情がわけわかんない。きっと後で思い出して泣いちゃうんだろうな。

「ライヴ、初めてなんでしょ?楽しんでってね!」

「…はい。」

「一人で来たの?」

「…はい、でも、後で…。」

「ああ、いつも書き込んでくれてる、えっと…トモ君!」

そう言って、彼女はやっとうちを解放した。

息が止まるような瞬間。

「もう会えた?」

「…まだです。」

「会ったら、呼んできてね。一緒に写真撮ろう!」

神か。

神なのか。

なに、そのファンサービス。

足先から身体が浮き上がるような気分だよ。

「嬉しいなー。こうやって会えるの、ホント嬉しいよね。」

いや、違うんだな。

彼女、本心なんだよ。

ファンだからとか客だからとか、関係ない。

ただ会えたことを、ホントに喜んでくれてるんだ。

「バチっと決めてきたね!」

彼女は、うちのカッコを褒めてくれた。プロのパンク(なんて、あるの?)から見たら、うちなんか「にわか」にも程があるはずなのに。

「…ありがとうございます。」

「そのスカート、いいじゃん。」

「…はい。」

「アタシのやつ、だいぶ擦り切れちゃってるから。新品いいなー、交換しない?」

冗談めかして、彼女が舌を出した。

そんなそんな、そんなキュートな顔しないで。

本気にしちゃうよ、この場でスカート脱いじゃうよ。

うわおー!みたいな声のかたまりが、フロアの方から聞こえてきた。うちが知ってるどんな音よりもワクワクの詰まった歓声。

「ライヴ、観に行こうよ。今日はアタシらのバンドまで観ていくんでしょ?」

「は、はい。」

「楽しませるからね…さあ、行こう!」

そう言って、彼女はうちの肩を抱いて、フロアの方に歩き出した。お、おおう。

…ホントは、彼女の出番まではバーの方で大人しくしてようと思ってたんだけどな。

いいや!今夜は神の教えに従うんだ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ