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  第六話 とんでもない大事件じゃないの!


  



「疾走ゾンビ4匹と戦うつもりで用意しておけよ」


 ナツコにそう声をかけた俺に、ジュンがケロリとした顔で言ってのける。


「何言うとん? 疾走ゾンビ化しとるに決まっとるやん。せやから2人を誘ったんやんか……あだだだ!」


 当然という顔をしているジュンの頬っぺたを、俺は両手で捻りあげた。

 疾走ゾンビ4匹が相手なら、それこそゾンビSwATの出番だろ!

 まったくとんでもないヤツだ。


「ギブ、ギブ、ギブ! カズトはんギブや、ウチが悪うございました! ギブアップ、手を放して~~」


 少し憂さ晴らしができたから、俺はジュンを解放してやる。


「うう~~、頬っぺた千切れるかと思うたわぁ、カズトはんの力は並みの力やないんやから手加減してぇや。はあ、このまま頬っぺたが腫れ上がってオタフクになってもうたら嫁に行かれへんわ、その時は責任とってや」

「まったくもう」


 ケロリとした顔で減らず口を叩くジュンの尻を、ナツコがパッシーン! と引っ叩いた。


「アイタぁ! ナっちゃん、ナッチャンも並みの人間ちゃうんやから、もっと手加減してぇなァ」

「明日も仕事なんだから、さっさと終わらせてね」

「……はい」


 全力で笑みを浮かべたナツコの背後から放たれる凄まじいプレッシャーに、ジュンが冷や汗を流しながら返事をしてる。

 本当に仲がいいな、コイツ等。


「ほなら気を取り直していくで。こっちや」


 ジュンが情報ディスプレイからの映像を確認しながら、松江城の裏手の斜面へと俺達を連れていく。


「ここの下、約30メートルの位置に4人共おるで。用意はエエか?」


 対物ライフルを構えるジュンに、俺もナツコも無言でマグナムリボルバーを腰から引き抜く。


「行くで」


 小さく呟いてジュンが飛び出そうとした、その時。


 ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!


 いきなり先制攻撃を浴びてしまった。


 この凄まじい発射音は対物ライフルだな。

 じゃなくて、何でゾンビが対物ライフルで攻撃してくるんだ!?

 ゾンビに武器を扱うような知能が、残っている訳ないだろ!


「おいジュン! ゾンビ化してるんじゃなかったのか!?」


 慌てて地面に伏せながら小声で尋ねる俺に、ジュンが囁き返す。


「間違いなくゾンビ化しとるで! 情報ディスプレイの表示によると、ヤツ等の体温は気温と変わらへんし、脈拍は0や! 呼吸もしとらんし、何よりも心臓を抉り取られとる!」


 という事は武器を使いこなすゾンビが発生したという事か。


「とんでもない大事件じゃないの!」

「言うたうやろ、だからカズトはんとナっちゃんを誘ったんや!」


 こんな時だというのに、ナツコとジュンを怒鳴り合っている。


「もう! 後で本気で引っ叩くからね!」

「本気はカンベンしてぇな!」


 ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!


 ほら、そんな大声出すと絶好の的だぞ。 


 しかし今の銃声は、ほぼ同時に4発が発射されていた。

 という事は、4人全員が対物ライフルで狙撃してきたのだろう。

 こりゃ本当にゾンビ化したSwAT隊員全員が武器を使いこなしてしるようだ。

 しかし……。


「ジュン、アイツ等ランドウォーリア・システムも使いこなしているのか?」

「いや、そこまでは無理みたいやで。ランドウォーリア・システムにアクセスしとる形跡あらへん」

「不幸中の幸いだな」


 どうやら暗視ゴーグルや情報ディスプレイを活用しての正確な射撃ではなく、月明かりが頼りの目視射撃のようだ。

 まあ、そうでなければ2815メートルという狙撃の世界記録をもつバレットⅯ82が、こんな近距離で的を外す訳がない。


「でもこんな事になるなら、情報ディスプレイと暗視ゴーグルをジュンから借りれば良かったわね、カズト」


 囁くナツコにジュンが首を横に振る。


「あ、そら無理や。認証システムがあるさかい、登録されたゾンビSwAT隊員以外、装備しても起動せえへんで」


 パッシィン!


「あだ――!!」


 それを聞くなり、ナツコが可愛らしい眉間に青スジを浮かべてジュンの尻を引っ叩いた。


「だから本気は止めてぇなナっちゃん、お尻が壊れてまうがな」


 ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!


 またもや対物ライフルによる一斉射撃を受けてしまった。

 だから大声出すなって。


「遊んでいる場合じゃなさそうだ。松江城に被害が出る前に片付けるぞ」


 マグナムリボルバーを構え直す俺に。


「別に遊んどるワケやあらへんのやけど……」


 ブツブツ言ながらも、ジュンは斜面ギリギリの位置へと素早く移動し。


「どれどれ」


 一瞬だけ首を出して、暗視ゴーグルで元ゾンビSwAT達の様子を探る。

 

 ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!

 

 ジュンが首を引っ込めると同時に対物ライフルの弾丸が、さっきまでジュンのいた空間を貫く。

 それを見たナツコが同じく一瞬だけ顔を出すと。

 

 ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!


 やはり元ゾンビSwAT達は一斉射撃してきた。


「思ったより遥かに正確な狙撃だけど、元ゾンビSwATの割には単調だし、連携もとれてないわ。でもこれで全員5発撃ったわよね?」


 なるほど。

 今ジュンが手にしている対物ライフルの正式採用名はバレットⅯ107。

 全長1447・8ミリ、重量12900グラムで装弾数は10。


 それに対して、普通のゾンビSwAT隊員が使用する対物ライフルはⅯ95.

 弾こそ同じモノを使用しているが、扱いやすいように小型軽量化されたモノだ。

 そしてこのライフルの装弾数は5発しかない。

 つまり5発発射した今、ヤツ等の銃は弾切れの筈。


 しかし。

 予め薬室に装填しておいたかもしれない。

 その場合、発射できる弾数は弾倉に装填されている5発に加えて薬室に入っている1発の計6発。

 つまり、もう1発発射できるかもしれない。


 だから俺はナツコとジュンに視線を送ってから斜面を覗き込んだ。


 ドゴン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!


 即座に引っ込めた俺の頭の上スレスレを斬り裂く対物ライフルの銃弾。

 ゾンビ化しても、さすがは元ゾンビSwAT。

 ちゃんと薬室に装填して発射できる弾数を増やしていやがった。


 良かったぜ、念の為に確認して。

 しかし今度こそ、ヤツ等の対物ライフルは弾切れだ。弾倉を交換する前に倒す!


 迷いなく斜面を跳び下りた俺に、ナツコも続く。

 そんな俺達を援護すべくジュンが斜面の上でバレットⅯ107を構える。


 いた! 


 案の定、対物ライフルの弾倉を交換しようと手元を見てやがる。


「左!」


 ドゴォン!


 俺の一言で何を言いたいか悟ったナツコが、1番左のゾンビを撃ち倒した。

 同時に俺も、その右隣のゾンビにマグナムリボルバーを発射する。

 

 ドゴォン! 


 びしゃっ!


 マグナムリボルバーの装弾は600NE弾。


 12・7×99ミリNATO弾には劣るものの、拳銃弾の20倍を超える威力を誇る。

 その600NE弾が、ゾンビの頭を消失させた。


 その一瞬後。


 ドゴン!


 ブチャ!


 ジュンのバレットⅯ107が、1番右のゾンビの頭を粉々に粉砕した。 

 これで残りは後1匹だ!


 しかし残ったゾンビは、即座に移動しやがった。

 ゾンビ化してるくせに、今の状況が自分に不利な事もちゃんと理解してやがる。

 しかも。


「今の動き、レベル5やで! 気ぃ付けてや!」


 ジュンが叫んだ通り、移動スピードから考えて、姿を隠したゾンビのレベルは5以上。

 確か全滅したゾンビSwATの隊員のレベルは3。

 隊長でさえレベル4だった筈。


 こりゃあ……ゾンビ化する事によりリミッターが外れてスピードアップしやがったか。

 厄介な事になったぜ。


 チラリと視線を送ると。

 ナツコもジュンもゾンビを見失ったらしく、キョロキョロと辺りを見まわしていた。


 俺も周囲を素早く見回す。


 逃げ去る気配はなかった。

 という事は、どこかに姿を隠して、反撃の機会を伺っているに違いない。


「アカン! 近くに隠れとる事は分かるんやけど、このオンボロ、正確な位置までは表示せえへんのや!」


 ジュンが情報ディスプレイを装着したヘルメットを投げ捨てた。

 確かにこの状況ではヘルメットなど動きの邪魔にしかならない。

 対物ライフルに狙撃されればヘルメットなど無きに等しいのだから。 


 さて、どうするか。

 ん、そういえばゾンビSwATの装備は確か……。


「2人共動くな!」


 俺の声に、迷う事なく言われた通りに動きを止めるナツコとジュン。

 いつどこから疾走ゾンビが襲ってくるかも分からない。

 そんな状況下で俺の指示通りにした2人の信頼に応える為にも、絶対に失敗できない。

 さあ、どこにいるんだ、疾走ゾンビ!


 激しい銃撃音により虫も鳥も鳴くのを止めているこの場を、シンとした静寂だけが支配している。

 そんな中。


 チャリ。


 風に揺れる木の葉よりも微かな金属音。


「そこか!」


 俺は金属音の反響から敵の位置を割り出すと同時に、マグナムリボルバーをぶっ放す。

 暗闇の中。

 マグナムリボルバーの発射炎が600NE弾を胸に受けて頭と腕が千切れ飛ぶゾンビを照らし出した。


 ゾンビは小さな音に対しては、殆ど反応しない。

 だからゾンビSwATは、予備の弾丸を無造作に持ち歩く。

 俺の耳は、その予備の弾丸がポケットの中でぶつかり合った音を聞き逃さなかったという訳だ。


「ふう」


 俺は大きく息を吐くと。


「厄介な相手だったぜ」


 マグナムリボルバーに弾丸を装填しなおしてから、腰のホルスターに戻したのだった。








2020 オオネ サクヤⒸ

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