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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

今日は月が見えない

作者: 33番

生きる意味が死んだ。

あぁ、君は何に生まれ変わるのだろうか。


君の尾びれは虹色に光り、水に光と輝きをもたらすだろうか、それとも濁りなく白い繊細な羽で、空の紺碧を一層美しくし、天に命を与えるのだろうか。

君はきっと、生まれ変わった後にも私の元に戻ってくるなどと、そんな奇跡を起こしはしないだろう。


私は君が死ぬ前に望んだことをふと思い出した。

私は君のからだを掬いあげる。


腐敗した君の肉体は、指の間からだらだらと零れてしまった。

寂しくて切なくて、私は酷く泣きながら、それを何度も口に運ぼうとした。

君の一部が手に纒わりつき、醜く、厄介な程に深かった君の執着心を思い出す。

死んでしまいたくなるほど、愛おしく思った。

やっとのことで君を口の中に入れたものの、悪臭と口内の酷い不快感で、反射的に嘔吐してしまう。


私は、生前に言った君の言葉を覚えている。

君は、「食すことが最高の愛情表現だ」と言っていたね。

忘れてはいない。


私は君を愛している。


君が星になろうと、魚や、鳥になろうと、腐れた肉塊になろうと、君を愛す気持ちは変わらない。


私は君の魂を愛しているのだ。


そう、君と初めて話したあの時も、生々しい夜と憎らしい朝を超えた日も、「食べておくれ」と泣き、懇願した君の声も、君の首にかけた私の手を掴む白く細い指も、遠のく意識も、生を望む光のない瞳も、紫陽花が咲くように、薄紫色に染まってゆく小さな唇も、全て。


全てを私は愛しているのだ。



君を飲み込んだ。


君の執念が、私の細胞に染み込んでくる。

美しいよ、もっと君をおくれ。

そう声をかけると、君が少し微笑んだような気がして、私は無我夢中で君を求め続けた。



最後に残した君の唇に、あの、初めての日と同じ口付けをした。

少し触れるだけの、短いのを。

そしてもう一度、今までで一番長く口付けた。

君の唇を噛んだのは初めてだ。

初恋の、甘酸っぱい檸檬の味がする。


あとはこの小さくなった君を飲み込んでしまえば、君は永遠に私のもの、いや、私は永遠に君のものになれるのだ。


最後の愛を飲み込み、この場には澄み切った夜気と、私と、掘り返された土と、君の魂だけが残った。



さぁ、一緒に帰ろう。

家にはあたたかい布団が待っている。

今日も二人で抱き合いながら眠ろう。


あぁ、美しい夜だ。



今日は月が見えない。

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