読切外伝 自殺しそうになったら美人死神と生活する事になった-下
「え〜とカンナさん?」
俺はあえてその前に書いてある二文字は無視した。
いや、それ以前の『魂管理部 魂返還課』ってのも充分すぎる程謎だけど……
「はい。夜分遅くに大変失礼しました。
何分急ぎの要件でしたもので」
そう言うと深々と頭を下げる。
下げた拍子にブラウンカラーで肩に掛かる程度のゆるふわセミロングな髪の毛がふわりと前に垂れうなじがあらわになる。
うっ! ちょっとグッと来た。
少し垂れ目気味の目元とか、左目の泣きぼくろとか、俺の好みにどストライクなんですけど!
服装はイケテないけど、主張し過ぎない胸元とかも超好み。
うん、大きけりゃ良いってもんじゃ無いからね!
いやいや落ち着け俺。
確かに可愛くて美人で正直お付き合いしたいけど、相手はこんなふざけた時間に家まで押しかけて来るような奴だ。
しかも、なんだ? 死神って。
名字か? 名字なのか!?
ここは慎重に……
「立ち話も何ですから中へどうぞ」
バカか俺はー! 部屋に上げてどうする。危ない人だったらどうするつもりだ!
い、いや。時間も時間だ。玄関先で話してたらご近所さんにも迷惑だし!
等と心の中でセルフ突っ込みをかましていると、
「その前に確認させて下さい」
彼女は懐からタブレットを取り出しスイスイタプタプ始める。
「武川ショーゴさん38歳、独身、とあるブラック企業勤務、最近ちょっとだけ死にたいと思った事が有る。
お間違え無いですか?」
「え〜はいはい、間違ってない……ん?
死にたいと?……え?」
まあ確かにちょっとだけ思ったけど、どちらかと言うと言葉の綾ですよ? そして誰にも話した事無いのになんで知ってるの? こわっ!
「お間違え無いようですね。では詳しい話しをしたいので、上がらせて頂いても?」
「あぁ……ハイ」
返事をしたものの正直ちょっとだけ後悔してる。けど、それ以上にそこまで俺の事を知ってる彼女に興味も湧いた。
「失礼します」と言って部屋に上がったカンナさん。
玄関で脱いだ靴をきちんと整えていたのが印象的。さり気なく俺が脱ぎ散らかした靴まで整えてくれて更に好印象。
独り身だと丁度良い8畳一間のワンルームに小さな折り畳みのテーブルを出し向かい合って座る。
この部屋に女性が来るなんて何年振りだ?
ゴメン見栄はった。初めてです。
「えーと、お茶でも入れましょうか……」
「あ、いえ。お構い無く」
立ち上がりかけた所を静止されてしまったが、まあ良く考えたらお茶なんか無かったわ。
「では、改めまして。わたくし死神のカンナと言います。宜しくお願いします」
そう言って再び頭を下げるカンナさん。
何度見てもチラッと見えるうなじが素敵過ぎてドキドキします。
いやそれより、今死神“の”って言いましたよね?
つまり名字って訳じゃ無いんですね?
ハロウィンって時期でも無いし。
……もしかして頭が残念系の人か?
「そ、それでどのようなご用件で?」
なるべく相手を刺激しないように、穏便に話しを進めよう。
「はい、先ず私の現在担当している業務についてご説明させて頂きますね」
…………
……
…
「はぁ、つまりその何ちゃら委員会が発足したおかげで俺が自殺しない様に事前に言いに来たと?」
「『自殺事前抑制委員会』です。そうですね。正確には言うだけでは無く思い止まらせた上で暫く観察させて頂く形になります」
「観察……ですか?」
「はい、ご迷惑とは思いますがそうなっております」
「それってどの程度の期間なんですか?」
「基本的には無期限です。具体的にはショーゴ様が天寿を無事全うされるまでですね」
は? え? 天寿ってつまり俺が死ぬまでって事!?
「ショーゴ様の現在残り寿命は50年程ですのでその間、と言う事になります」
わー自分の寿命聞いちゃったよ……
そっかー90近くまで生きるのか〜長寿じゃん! ってそーじゃねーわ!!
「残り寿命は『何事も無ければ』と言う条件が付きますのでご了承下さい。また生活環境によって多少の誤差も出ますのでお気をつけ下さい」
「はぁ……」
色々説明されたけど、さっぱり頭に入って来ない。
つーかあなたが死神って事すらまだ飲み込めて無いんですが?
一つだけ理解したのは俺が死ぬまで一緒に居るって事位だ。
はっ! もしや新手の結婚詐欺か?
でも俺貯金もそんな無いし、一緒にいて良い事なんか無いよ?
俺的には好みドストライクな女性と一緒なんてラッキーだけど……
「でも最長で50年って長すぎません?」
仕事とは言えそんなに長い事一緒に居るって有りえなくない?
「それについてはご心配無用です。
こちらでは物事の周期を100年1000年単位で管理しますので、50年程でしたらちょっとした出張扱いですので」
そもそも時間の概念が違うのか……
いや何信じちゃってるの!?
「では、説明に納得頂けましたらこちらの書類に直筆でお名前を頂けますか?」
来た! ここで迂闊にサインしようもんならバカ高い浄水器とか、興味も無い絵画とか買わされるに違いない!
俺は出された書類を引ったくり時間をかけ隅々まで漏らす事なく熟読する……
あ〜うん。結論から言うと説明された事しか書いて無かったわ。
どうする? サインしちゃう?
これに署名したら彼女と一つ屋根の下共同生活が始まっちゃうよ? しかも死ぬまで……
あれ? 俺に何一つ不利益無くね?
「しかしなんでこんな無茶苦茶な事がまかり通ったんです?」
「あの世も色々大変なんですよ、特に日和見主義の上司を持つと……ね」
ああ! なんか遠い目してらっしゃる!
地雷踏んだか?
しかし今まで営業スマイルとでも言う様な、笑みを貼り付けていた顔だったが、ちょっとだけ素顔が垣間見えた気がする。
「元はと言えば、突発的中途落伍者が増え、事務手続きとそれに付随する各種業務を軽減させるのが目的なのですが……」
ここで一呼吸置き、
「それにしたって現場職の人員を一人派遣するっておかしく無いですか? おまけに人手不足だと言うのに人員は補充してくれない。残業も多く現場での汚れ仕事が多いので離職率も高い。同じ職場内で何故か下に見られる。折角新人が入って来たと思ったら転生先まで男追いかけた挙句結婚までする始末! そんなの有りですか? 私だって未だなのにー! でもその子には幸せになって貰いたいんです! 解りますか? 私の気持ち!」
俺にグイグイ顔を近付けながら、今まで我慢していた感情が一気に爆発したかの様に一息にまくしたてた後、ふと我に返り顔を逸らす。
「はっ! 失礼しました。つい感情的になって、やだ私ったら……」
顔を赤らめながら照れるカンナさん。
そんな彼女を見て何だかほっとした。
今までは事務的に淡々と仕事を進めるだけだったけど、ちゃんとそんな顔も出来るんじゃん。
俺は書類にサインするとまだ少し赤い顔をしているカンナさんに笑顔で手渡す。
まだ色々納得した訳じゃ無いけどさ!
「これから宜しく! カンナさん!」
こうして俺と死神カンナさんの少し不思議な共同生活が始まったので有った。





