八話 魔王様テンプレに会う
初投稿です。
一章が終わるまでは一日二話投稿します。
午前7時と午後7時です。
一章は全十二話です。
よろしくお願いします。
色々あったので仕方なく自宅であった洞窟に泊まった翌日、リオンは自宅の整理をしていた。
≪えっちぃ本でも処分してるんスかね。コケコケコケ≫
母であったシューリンの荷物も整理しようと思っていたが、衣類などはあったが彼女の普段書いていた日記は忽然と消えていた。
≪あれっスよ。大好きな息子のあれやこれを書いた秘密の日記っスよ。主に見られたら多分恥ずかしくて悶絶死するんじゃないんスかね≫
遺体と一緒に燃やしてやりたかったなと思ったが、現状ないのでどこかで彼女が処分したのだろうと思い諦めた。
≪消えた日記帳……事件の臭いっスね。え?話したら駄目っスか?ネタバレになるっスか?そうっスか。じゃあ諦めるっス……………犯人はヒィィィィ。冗談っス。俺っちが言う訳ないっス。俺っちの口はクチバシのように固いんスよ。軟弱な鳥の糞みたいな事はしないっスよ。信じて欲しいっス≫
そんなリオンのふと一つの考えが浮かんだ。そうだ自分日記でもつけようと。
なぜなら、現状のリオンは滅多な事は言えない状況であり、口を滑らすと間違って死んでしまうかもしれないからだ。
≪そうっスよ。今の主は記憶が蘇っても弱いっスよ。まあ仕方ないんで俺っちが守ってやるっスよ。感謝するっスよ≫
そう決めたリオンは早速日記を書くのであった。
リオンの日記
天国の母様へ
天国で元気にお過ごしでしょうか? あっ、母様はお亡くなりになったので元気ということはありませんね。でも母様なら間違いなく天国にいることでしょう。母様は私にとても優しく、時には厳しく接してくれていました。まるで聖母のようでした。遺体は丁重に埋葬し教会関係者が手出できないように本国で厳重に監視します。母様の望みである≪貴女の呪縛からの解放≫は必ず叶えます。聖浄教会とマグノーグメル教国からの呪縛はしつこいですからね。奴らは必ず根絶やしにしますよ。この大陸に蔓延っている人族平等の考えも皆の心の中から消滅させます。
話は変わるのですが、私は現在、戦闘力五! ゴミめと言われる状態です。スイから漏れた殺気で危うく、脱糞しそうになりました。もちろんお漏らしの粗相は既にやってしまっています。このままでは下着がいくらあってもたりません。これから度に出かけようと思って自分の着替えをまとめていたのですが、下着が少なくなっていました。古くなって母様が捨てしまったんでしょうか? 仕方ないので王都に付くまでは何とか気力をふり絞って頑張ってみようと思います。ユゲムにオムツを貸してもらう訳にもいきませんしね。今回護衛としてくる従者に獣人がいなかった事にホッしています。なぜかって? もちろん獣人であればどんな種族であっても程度の差こそあれ私の粗相には絶対気付いてしまうためです。最悪粗相してしまった場合は、焼き鳥を犠牲にしようと考えています。ビビりの奴なら私が粗相した時は一緒に脱糞しているはずです。鳥系なので若干色が違うかもしれませんがまあ大丈夫でしょう。
もう一つ書きたい事があるのです。それは早急に本国に皇帝として帰還するのではなく、身体を慣らすために大陸を旅するといったことです。身体を慣らすのは間違ってないのですが、魂を身体にならすのではなく、従者の威圧に身体を慣らすのが正直な私の考えです。従者の中には見た目からして威圧的な奴がいるし、多分私はこれだけで粗相ものでしょう。そんな姿はできれば皆には見せたくはありませんので。まあ、もう一つ目的はあるのですがこれは母様宛にすることでありませんね。どこか別の機会に別の日記にかきましょう。ではまた。
―― フフフ、意外に書くことはストレス発散になるな。これは続けるしかない。
リオンはニヤリと笑い、日記帳を閉じたのであった。
◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◆◇
現在リオン達はユゲムに聞いていた村に向かっていた。
護衛としてスイとネルがリオンの側を歩いているが、そこに緊張感はない。
≪俺っちを忘れてないっスか。俺っちを。主の一番の眷属っスよ≫
ネルは白銀の髪を寝癖の無造作ヘアーできめ、長い髪の先を地面に引きずっている。
もちろん武器など一切装備などしておらず、常にふらふらして歩いている。
スイの方は魔法少女から通常モードの胡桃色の髪に戻っており、背中に両手剣を背負って中二病行動を起こしながら護衛をしていた。
背負っている剣は鉄検から漆黒に染まった剣へといつの間にか変わっていた。
≪本当っすね。剣が変わってるっスよ。これってあれじゃないっスか。あれっス。あれ。覚えてるっスよ。俺っちを見くびらないで欲しいっス。俺っちの頭はスーパーな鳥の頭をしてるっスよ。略して超鳥頭っス。どうっスか。ビビったっスか。脱糞しても知らないっスよ。全くっスよ≫
スイは魔法を使わなくてもレベル三十程度の上位古龍と拳だけで語り合えるのだが、剣などの武器を装備したり、中二病的な行動をすると、物理に対しての著しい弱体化が起こるので現状の彼女は非常に弱い。この状態で戦闘になるとレベル三十の魔物にタコ殴りにされると殺されるかもしれない状況だ。
もっともレベル三十の化け物がその辺をうろついている訳がない。
伝説級のS級冒険者と呼ばれる人間でもレベル十に届くかどうかというところだ。
スイにとってはどんなにポンコツな振る舞いと取っていてもリオンの護衛には十分過ぎる。
≪もっとも剣を装備してるとふらつくっスから主にスイが体当たりかまして殺しちゃうかもしれないっスけどね≫
もちろん物理一辺倒のネルは魔法には非常に弱いが、拳の一撃で上位古龍を殺すことが可能なのは蛇足だろう。
≪そうっすよ。卑怯っス。俺っちも何度殺されたっスよ。思い出したら俺っちのプリプリお尻が緩くなってきたっス。お腹に力を入れて我慢っス。ふん。………ブリブリブリ≫
先頭を歩くリオンだったが急に頭が重くなった。
頭上をうかがうとピンクの肉の塊が、そこに鎮座していた。
≪やっとキュートな癒しキャラの登場っス。存分にその可愛さを味わうっスよ≫
完全リラックスモードなのか右の短い羽にはトロピカルジュースのグラスが揺らされていた。
「おい! デプ鳥! 人の頭の上で何やってんだ!」
「おお! 主よ、記憶を取り戻したっスね。お祝いに自宅で祝杯を挙げているところっス。一緒に乾杯するっスか?」
≪そうっス。俺っちの自宅は雲の向こうと主の頭の上にあるっス。俺っちの謎を一つ解いてしまったっスね。もう惚れても知らないっスよ≫
「ふざけんな。俺の頭はお前の自宅じゃねえよ」
「おかしいっスね。主の記憶はまだ不完全っスね。一緒に恐怖で脱糞した仲じゃないっスか」
「それはお前だけだ! 昔はよくスイ達の殺気にビビッて俺の頭の上で震えながら脱糞していたよな」
今はリオンもすぐに脱糞友の会に入会する可能性があることは表情に出さずに、『お前だけ』を強調して言い放った。
「酷いっス! ここはトイレじゃないっス。自宅っス。俺っちの自宅を蔑むのは止めて欲しいっス」
「論点はそこじゃねえよ。俺の頭は巣箱じゃねえ」
ピンク塊が駄々をこねる子供を見るようにリオンを見ながら、ヤレヤレ分かってないなと短い翼を広げる仕草をした。
ピンクの塊こと焼き鳥がリオン達についていくのは、聞かれる以前の決定事項のようだ。
そもそもこのピンクの謎物体はプリプリしたお尻に存在意義がある訳でもなく、焼き鳥の材料として活きの良いまま保存されている訳でもない。
≪俺ッちのお尻は存在するだけで罪作りっスけど≫
彼は火山地帯で生まれる生と死を司る炎の神獣フェニックスであり、その存在はこの世界では伝説級である。
≪そこ、聞いたっスか。そう、その生物はただの可愛いだけの存在ではなく……キリ……泣く子も黙る……キリ……伝説級……キリ…キリキリ≫
その伝説級の神獣ではあるが、もともとリオンの従者ではなくこの世界で出会い彼から魔力を貰うことで彼の眷属となったのである。
現在も封印されている彼の身体から魔力供給を受けているが、魔力節約のためか省エネ状態のピンクの肉塊になってリオンにまとわりついている。
リオンの記憶が封印されている際は、彼の教育のためにネルやスイの記憶も同時に封印していたため、俺っちが守らなければと陰ながらリオンを守っている気になっている焼き鳥だった。
ちなみに彼の正式の名前は≪ほんぽこ≫であるが、記憶喪失の間にリオンがほんぽこを見るとなぜか焼き鳥が思い浮かべてしまうため、焼き鳥と呼ばれるようになってしまった。
◇◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◆◇
洞窟から一日歩いた場所で三人と一匹に異変が襲い掛かるのを待ちわびるように森がざわついていた。
ざわついた森に一瞬静寂が広がったと思った瞬間、絹を切り裂くような女性の悲鳴が森の奥から聞こえてきた。
≪テンプレっスか?もう少し捻る事も出来ないっスかね。本当にこの、ヒィィィィ。ブリブリブリ。何でもないっスよ。テンプレも大切っスよね≫
視線を声の方に向けるとそこには十四歳ぐらいのだろうか、まだ大人になりきっていない膨らみをもった金髪の少女が地面に倒れていた。
≪膨らみて胸っスか。胸っスね。一番に胸の描写ってどうっスかね。作者はエロでしか読者をひきつけられないんスか?コケコケコケ≫
すぐ側にはゴブリンが少女に襲い掛かろうと右手のバトルアックスを振り上げていた。
目に映ったゴブリンはリオンが剣の訓練で相手した子供のゴブリンのような半端な者ではなく、成体であり最上位種への進化も遂げている個体であった。
背丈は三m程度あり、腕の太さもリオンの胴体よりも太いぐらいだ。
≪美少女にゴブリンはテンプレっスけどゴブリンカイザーに勝てる奴っているっスか?≫
その巨体から振り下ろされるバトルアックスはさらに巨体であり、今まさに少女へと振り下ろされようとしてた。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアア」
少女特有の甲高い一度聞けば忘れられない音色の悲鳴が森の木の葉を揺らしていた。
少女をチラッと見た後に緑色の巨体が視界に入ったリオンは一瞬固まったが、何もなかったように彼女等のすぐ側をテクテクと通り過ぎていった。
一瞬何事が起ったか理解できず、少女は呆けた顔をしたが気を取り戻し再び悲鳴を上げた。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアア、助けてください!」
精一杯の美少女の悲鳴であったがリオンの耳には届かず、振り向きもせずさらにスタスタと歩いて行った。
従者であるネルやスイはリオンの命令がない限り特に手を貸すこともなくリオンの後をついていった。
ガン無視された少女であったが、なぜかゴブリンの巨大なバトルアックスは彼女の体に振り下ろされずに空中で停止していた。
十分後再びリオンの前方で絹を切り裂くような悲鳴が森の木々を揺らした。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアア」
リオンが前方に視線をやると、うつ伏せになる少女に覆いかぶさるように巨大なゴブリンが襲い掛かろうとしていた。
「助けてください。助けていただければ、私の体を自由にしていただいてもかまいません。性奴隷でもメイドでもなんでもなります。ですから助けてください」
ふむふむと聞いていたリオンであった。
だが断ると言わんばかりに、彼は少女の言葉を無視しさらに先へと進んでいった。
さらに十分後、リオンの前方で声色を変えて少女は小鳥の悲鳴のような叫びを上げていた。
だかしかし、リオンはさらに無視を続けていた。
「ひどいです。ひどいです。私を無視ですか。ガン無視ですか? 私はあなたをそんな子に育てた覚えはありませんよ」
少女は悲鳴を上げることを止めて、リオンをキイキイと非難し始めた。
少女を襲っていた巨体のゴブリンはすでに少女を襲うのを止めており、困った顔で少女の側に佇んでいた。
無視ができないとあきらめたリオンは溜息を付き、少女ではなくなぜか凶悪顔の巨体のゴブリン向き合った。
「ゴブ君、こんなところで何やってるんだ?」と知り合いのように語り掛けたリオンだが、ちょっぴりチビッたのは当然秘密である。
「申し訳ありません、創造主。彼女がどうしてもテンプレだからゴブリンから創造主に助られないとだめだと主張するもんで」と緑の巨体が情けないほどゴブ君は身体を小さくしていた。
そう彼はリオンの従者の一人であり種族名はゴブリンカイザーでありゴブリン種の最上位種であり、こんな所で少女を襲っているような存在ではない。
本国では軍隊の教官を務め、皆に鬼軍曹と恐れられる存在である。
≪駄目っスよ。企画倒れっス。俺っちがプロデュースすれば子供ゴブリンを適役にして主といい感じに争わせることが出来たっスよ。本当に遺憾っス≫
「リンちゃんもこの事は知ってるの?」と溜息まじりにリオンが質問すると
「ええ。母ちゃんも彼女の申し出なら仕方ないなと納得はしております」と申し訳なさそうにゴブ君も返答してきた。
リンちゃんとは、ゴブ君の妻であり肝っ玉母ちゃんでもあるゴブリンクイーンのリオンの従者である。
彼女は国で孤児院を運営しており、孤児達にとっては強くて優しい母親である。
「はあ~。分かった。分かった。ところで、そこのキャーキャー詐欺のお姉ちゃんは何?」
≪キャーキャー詐欺っスよ。コケコケコケ。おかしいっスよ。コケコケ……ヒィィィィ。何でもないっス≫
「むき―。キャーキャー詐欺とはなんですか! 酷い言いがかりです」
碧眼の少女が頬を膨らませ、腰まで伸びた金髪を振り乱してプリプリしている。
少女の服装は袖のない白いレオタードのようなもを着用し、その上に丈が短いが袖の長い白い上着を着用している。上着の正面からは前掛けのような布が彼女の恥じらうべき部分を絶妙に隠している。
下は臀部を隠すだけのスカートのようなもがお尻の途中で引っかかるように穿かれている。臀部を隠す布はイロハモミジの葉のようであり、裂片からはニーハイを穿いた長くキレイな足が可愛いお尻の付け根に続いているのが覗いていた。
簡単にいうと破廉恥な神官服だろうか。
≪破廉恥神官の登場っすね。この時代ではこの服装は破廉恥っスね。まあ主の国だと普通なんスけどね≫
「いやいや。お前なんかキャー詐欺で十分じゃね―か。というか俺、お前なんな知らないし」
「酷い。私の初めてを奪って子供を産ませたくせに、お前なんか知らないなんて酷い男です」
≪これは主の方が酷いっスね。ヤリ捨てって奴っすね。外道っス。ゲ・ド・ウ≫
少女は瞳に涙を一杯ため、オヨオヨと泣き始めた。
焦ったリオンは周りを見回したが、ネルとスイは非難するような目でリオンを見つめていた。
もちろん頭の上に乗っていた焼き鳥も。
「それに私はあなたをそんな情のない子に育てた覚えはありません」
「いやいや。俺はあんたになんか育てられてないし」と思わずリオンは呟くと、少女はいよいよ周りを憚らず鼻水を垂らしながら不細工になった顔も顧みずにワンワンと泣いた。
「創造主。今のはさすがに酷いと思います」とゴブ君がリオンに避難の眼差しを向けてきた。
「ひどいの な」「ひどいですね」とネルとスイもジト目でリオンを非難している。
「カリスマホストと呼ばれた俺っちも、こんな鬼畜なことはしないっス。女性には優しくっス」
≪どうっスか?俺っちのキリリとした発言は。上司にも意見を言える優秀な眷属って奴っス≫
焼き鳥の一言にカチンときたリオンだったが、ここは言い返すのは不利だと判断し様子見を決め込んだ。
謎の少女はリオンの一言にショックを受けたのか余計にギャアギャアと泣き出し、口からもヨダレを垂らし、もう美少女の欠片も見当たらない顔に成り果てた。
そんな彼女に焦るリオンだが、無い頭をフル回転させても正しい答えは出てこない。
自分の人生を思い出してみても前世でも、こちらの世界でもリオンはれっきとした童貞だった。新品である。決して新古品ではない。……多分……そうだと…… 思う。でも最近は新品よりも中古品に骨董的な価値を見出しており、自信を無くしつつあるリオンだった。リオンの価値観はさて置き、童貞だとはっきいりと断言できる。彼の前にも後ろにも道はない。この遠い童貞のため、皆には恥ずかしくて言う事は出来ないが断言できる。
―― 子供を腹まされたって何? 新手の美人局か? でも従者が三人とも俺を非難じみた目で見てくるし、事実なのか? 記憶が封印された十四年の人生で既に喪失したのか? なんて糞な体なんだ。いや待て、転生後の記憶は覚醒後も全て覚えている。喪失したはずはない。しかし、少女の泣き方も赤の他人にしては異常だし……う~ん、わからん。でも今できる事が二つだけあることが分かった。一つは見なかった事にして逃げだすこと。もう一つは彼女の事を彼女に聞くこと。
「申し訳ありません。記憶の方が少し混乱しておりまして。貴女のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
リオンは申し訳なさそうに彼女に伺ったが、それを聞いた途端に彼女は服が汚れるのも顧みず大地を転がり駄々をこねる子供の様にさらに泣いてしまった。
三人と一匹からはさらに非難がましい視線が突き刺さる。
もう逃げたいと思うリオンだったが、全力で走って逃げても一瞬で追いつかれてしまうと思うと泣きそうになるが涙は出てこない。
「ごめん。ゴブ君。彼女の名前を教えて。お願い」とリオンは祈るようにゴブ君に祈るように聞いた。
「彼女の名前はシューリン様ですよ。創造主の【勅命】で従者が動き、新たな命を与えられたました。創造主自ら【勅命】の指示でしたからご存知のはずでは?」
―― えっ、彼女がシューリン? 俺の勅命スピリトで蘇った? えっ? 俺って命令したっけ? 彼女の望みって何? 彼女の呪縛からの解放って教会関係者を潰すことじゃないの? さっき日記で母様に誓いを立てたけど恥ずかしくなってきたな。えっ? えっ? わからな。本当にわからない。この分だと俺の従者は皆知っているみたいだよな。態度からすると俺の命に係わるようなことではないと思うけど今更聞けない。カッコ悪くてきけない。ついさっきユゲムにドヤ顔で進捗状況報告させていたし……。これはダメ上司が発生する分岐点になるんだろうなぁとサラリーマン時代を思い出しつつ。ここは封印が解けて記憶が混乱してて、シューリンの生き返った姿が出てこなかったで乗り切るしかない。
泣いて地面でバタバタしている少女にリオンは近づき「母様、ごめんなさい。封印が解けて記憶が若干混乱していて、蘇った母様と生前の母様を脳内で一致させる事が出来ませんでした。本当にごめんなさい」
それを聞いた少女……シューリンはバタバタするのを止め、こちらに顔を向けたが鼻水はそよ風にゆれ、太陽の光を吸ってキラキラときらめいているダイヤのようだ。
≪鼻水垂らしてもうヒロインの座は無くなり、ヒィィィィィぃィぃっ。ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ。ごめんなさい。もう言いません。ヒィィィィ。殺気を。どうか殺気をお納めください。ブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリブリ≫
「シューリ」と、彼女は小さく呟いた。
「えっ?」と何を意図しているか理解できないリオンは思わす声に出してしまった。
「シューリって呼んでくれなきぃいやあああああぁぁぁぁぁぁ!」
少女の顔の前にリオンの胸があり、彼女が叫ぶと同時に光り輝くダイヤモンドがすごい勢いでリオンの服に飛んで行き、襲い掛かった。
汚いと思ったリオンだったが、ここを逃げると人生が詰むと思い何とか避けることを我慢した。決して特殊な趣味のために避けなかったのではない。
「シューリ。シューリ。泣き止んで。綺麗な顔が台無しだよ」と言いながら、彼女を抱き寄せ頭を軽くポンポンと叩いた。
すると途端にシューリンは泣き止み「ぐふふふふふ。リオンが私をキレイって。げへへへへへ」とリオンの胸元でグヘグヘやりだした。
気味の悪い声を聴いて引きつりそうになった顔を何とか正常に維持し、今のは聞かなかったことにしようと心に決めた。
≪危なかったっス。危うく俺っちもう少しで死ぬとこだったっス。もうコケコケっすよ。コケコケ≫
一分ほどリオンをグヘグヘしたシューリンは満足したのか顔は化粧水要らずのように艶々になっていたが、リオンの服は彼女の鼻水とヨダレでテカテカになっていた。
やっと問題が解決したと思いホッとしたリオンだったが、森の中を高速で近づいてくる気配にゴブ君とリンとスイは一瞬警戒を強めた。
だがリオンはこれには気付いていない。シューリンは気付いていたが、今の天国モードを終わらせるのを勿体なく感じたので気付かない振りを決め込んだ。
≪一難さってまた一難っスよ。どうせまた変なのが来るんスよね?もしかしてモンスターっスか?俺っちの実力を見せるしかないっスね≫
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