六話 謎の男報いを受ける
初投稿です。
一章が終わるまでは一日二話投稿します。
午前7時と午後7時です。
一章は全十二話です。
よろしくお願いします。
「勅命である。かの者を誅殺せよ」
歓喜に震える表情のスイとさっきまで泣いていたのが嘘のように無表情だが嬉しさで口元はヒクついているネルが立ち上がり男の元へとゆっくりと歩み寄っていった。
ネルは男の背後に回り、上半身を起こして活を入れて男の目を強制的に覚まさせた。
再度意識を取り戻した男は転がるように飛び起き、周囲を見渡した。
「また意識が微妙に飛んでいますね。何かの精神攻撃を受けているのですか? まさか、この僕が? そんなはずは……」
自分の状態に確信が持てない男は必至で状況分析の為に周囲を確認していた。
「殺してもいいの な?」
「先手はネルちゃんに譲りますけど殺しちゃダメなのだ」
ボーッとしているように見えるネルの質問に、両手剣を持ってプルプル震えているスイが答えていた。
それを聞いたネルは膝を屈めつつ、空間の黒い歪から愛刀【四死刀一ノ刀】を取り出し、抜刀術の構えをして一呼吸をおいた。
「スピリト発動【四九八苦】」
呟きと共に刀が淡く輝くと一気に鞘から刀身を引き抜き、一閃で男の首を切り離した。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ! 痛い。痛い。痛い」
先程の首の切断と異なり、今回首は床には転がらず胴体と共に切断された空間に固定されていた。
もう一つ異なるのは男には意識があり、痛覚もしっかりと感じていることだ。
「どういう? い、いだ、痛い。どう……い。いだ、いだ」
「スピリト【四九八苦】使ったの な。四百九十八回切るまで死なないの な。むふ~」
ネルは男には目もくれず、リオンの前まで駆け寄り無表情なのにドヤ顔で言い放った。
その仕草は今回上手くやったよ早く褒めてと言っているようだ。
そんな視線を向けられたリオンは、反対に四百九十八回切りつけるまで生き続け、苦痛を味わい続ける拷問のようなスピリトにまたしてもビビッてしまうのであるが、顔を若干引きつるだけで何とかチビることは我慢した。
多少チビリ耐性を付け、成長したリオンである。
ネルに代わって両手剣を振るうスイだが、剣は目標に届かず周りの床や壁を激突するのみである。
能力が戻っているスイにとって激突自体はダメージを受けることではないのだが、激突の衝撃で壁や床が破壊され穴だらけになっている。
あまりにも剣が当たらないスイは自分の鉄剣を放り投げ、怪しげな拳法のまねをし、掌を相手に向けウネウネと腕を動かし始めた。
「そう私は拳法家なのだ。今こそ伝説の秘拳を見せる時なのだ」
スイは変なポーズのまま右手の一指指を男の右肘に軽く当てると右肘が内部から盛り上がり爆散した。
「いぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ふふふふふ。これぞ暗殺拳。私は一子相伝の暗殺」
「だあああああああああああああああああああ。これ以上はダメ。色々だめ。ストップ」
リオンは慌ててスイの危ない言動を途中で止めた。
ちなみにスイは拳法などこれっぽっちも使っておらず、人差指で相手の体に触れた際に指先から極小の爆裂魔法を無詠唱で相手の体内で発生させ身体を内部から爆発させただけである。
もっとも普通の魔法師であれば肌に触れようとも相手の体内で魔法陣を生成し発動することは不可能である。
しかしレベル百で魔法職を専門とし魔力制御がⅩまでカンストしているスイであれば低レベルの人間の体内に自身の魔力を流すことは可能なのである。
≪まあ主が決めた設定っスから文句はないっスが、頭おかしいっスよね。最強の魔法師が近接戦闘好きって。まあ魔法がなくてものレッサードラゴンと殴り合えるんっスけどね。本当に怖いっスね≫
右肘から先はネルのスピリト影響下になく地面に転がるが、男は痛みはしっかりと感じており気絶もできず、口からはヨダレを垂れ流し目が虚ろになっていた。
「ネルよくやった。しかし私もあの男に関わっているほど暇ではない。早々に始末してくれ」
拷問趣味があるわけでもないリオンはこれ以上続くとリバースすると考え、しかし平静を装いながら声をかけた。
ネルはコクリと頷き、自らの刀を正面に構えなおした。陰でスイもキラリンと顔を輝かせて変なポーズを取っていた。
ネルの刀が一瞬揺れると柔らかい風が起こり男を包み込んだ。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
風は悲鳴と共に身体の肉を無残に剥ぎ取っていき、途中で声も消えたが、最後に残った脳髄とそこから伸びた目玉と全身の神経が空中に固定されていた。
スピリトの効果は消えておらず、しかし男の発声器官はなく叫ぶこともできず脳に埋まっている目玉をピクピクと痙攣させているだけだった。
そこへ時を移さず床に魔法陣浮かび上がり、洞窟にいた全員が外へと強制転移させられた。
気が付くとそこは自宅の洞窟の近所ではあるが、何もない開けた平原のみ広がっていた。
「一体何をするつもりだ?」と呟きながらリオンは原因の人物に目線をやった。
そこには桃色髪のツインテールを風に揺らし、少女らしく膨らんだ胸にはリボンがあり、その羽根は彼女の上着を可愛く飾り立てて脚は風にユラユラと揺れている。
色違いのシマシマニーハイをはく足元は羽の生えた靴を履き、太腿の根元を軽く隠す位の短いスカートが風に激しく揺らめいていた。揺らめくピンクの布の奥には秘宝と呼ぶべき絶景があるのだが、魔法少女モード時に常時発動するスピリト≪絶対領域≫によって青白ストライプのパンティは他人覗かれることなく無傷を保っている。もっともリオンは特殊条件をクリアすればいくらでも覗く事が可能であった。もちろん今のリオンはスイに間違って殺されるのが怖いので絶対にしないが。
≪今はっスよ。転移する前はやってたみたいっスね。コケコケコケコー≫
どこからどう見ても魔法少女と思しき人物が可愛らしいお尻を突き出し、キメポーズでステッキの先端を男の肉片に向けていた。
「スイ、こんなところに転移してどうするつもりだ!」とリオンは魔法少女に叫んだ。
そう、この魔法少女はスイが完全魔法職【魔法少女】が発現させた姿である。
スイの変身前状態では四系統魔法を第七階梯までしか使えないが、魔法少女状態になると全系統魔法を第十階梯まで使える魔導師となる。
ちなみに人族では上級位魔法が最高であるが、リオンが属していた世界では第十階梯まで存在した。
また彼女はスピリト【中二病】を持っており、これを発現させると魔法威力が二.五倍、消費魔力七十五%減、反対に物理耐性・物理攻撃十分の一まで減退する完全攻撃魔法特化型の従者となる。
ただ【中二病】の中にペナルティースピリトとして【魔法少女嫌い】があり、創造主からの勅命でもない限り普段は魔法の使用を嫌がるという状態が続く。
なので普段は職業のペナルティーとして剣などの物理装備は一切装備できず、中二病行動で物理的にさらに弱体化している。にも拘わらず剣士のように振舞おうとするのでかなりのポンコツ野郎となってしまう。
もっともレベル百はあるので、どんなにポンコツな振る舞いをしてもレベル三十の魔物ぐらいでないと彼女を殺すことはできないのだが。
「任せてほしいのだ、創造主。創造主を侮蔑したアイツに地獄を見せてやるのだ」
スイが親指をグイッと立て、ウインクしてきた。
「召喚魔術【地獄門】」
スイが右手に握っているマジカルステッキを地面に叩きつけると魔法陣が地面に広がっていき地面に吸い込まれた。
しばらくすると地面が揺れ始め、その揺れ幅は震度六程度だろうか、揺れが最高潮に達した時に地割れが起こり底の見えない巨大な穴が出来た。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
地の底で不気味さを持ちながら少しずつ発生した音源が、次第に大きくなり地上で轟くと同時に地面を揺らしながら底なし穴から巨大な門が浮き上がってきた。
その門は見上げる程に大きく、幅も人百人が横並びで同時に侵入できるほどだ。
所々にサビがある重厚な門の扉は若干大地に対して傾いており、巨大な扉が開くのを拒否するように巨大な鎖でグルグル巻きにされていた。
その扉を封印している鎖の大きさを確認したスイは、うむと頷き満足したような笑みを浮かべながらステッキをバトンのようにクルクルとまわした後にバッチとキメポーズを取りながらステッキを扉に向かって掲げた。
「出でよ! 地獄の審判者! かの者が背負いし業を審判し、相応しい地獄の責苦を見せよ!」
スイの詠唱が終わると封印の鎖が震えだし、亀裂が入りボロボロと崩れ始めた。
鎖の素子の一つ一つは人間の子供ぐらいあり、地面に轟音を轟かせながら落ち始めた。
封印を施していた鎖が外れるとサビた扉はゆっくりと鈍い音と共に開きはじめ、扉の隙間から光は漏れてこず、暗い、ただただ暗い闇のみが覗いていた。
扉が開き切ると完全なる闇に亀裂が入り、そこには白い空間が現れた。
白い空間に暫くすると黒い円が現れたかと思うと、黒い円は意思を持ったように上下左右に動き出した。
それは扉からこちらをうかがうように覗いている巨大な瞳だった。
≪これはあれっスよ。最上級悪魔 デーモンハイロードっスよ。確かレベル九十位っすかね。もう脱糞モノっスね≫
巨大な瞳は動き回るのを止め、驚いたように瞳孔を広げ一点を見つめていた。
その視線の先にはリオンの姿があったが、当の本人はヤバいこれ死んだと思いつつ恐怖するが選択できる手は二つだけ残されていた。
こっそりと粗相をするか、気絶して盛大に粗相をするかのだ。
リオンは全気力をふり絞り、まだ生乾きの下着を再びチビッと濡らしてしまうことを選択した。
≪主は未熟っスね。俺っちはパンツを濡らすことはないっスよ。帝国紳士っスからね≫
しばらくリオンを眺めていた瞳はやるべき事を思い出したように、リオンに目配せしたかと思うと脳と神経だけになった男を睨み始めた。
男を睨み続ける瞳は一度ゆっくりと瞼を閉じると直ぐに大きく開き直し涙を流し始めた。
その涙は真っ赤であり血の涙のようだった。
巨大な目は徐々に涙の量を増やしていき、小さな川になりつつある血の涙は脳髄と神経だけになった男に向かって伸びていった。
ドロリとした血の涙は意思をもった生物のように、その体を男の神経と脳髄にまとわりついた。
神経に接触されて激痛を感じているであろう男だが、苦痛訴える手段はなく、ただただ目玉と脳をビクンビクンさせるだけっだった。
標的に血の涙の目印を付けた目玉は門の隙間から離れていき、代わりに扉と同じくらいの巨大な黒い一本のモヤが男に伸びたかと思うと一本の巨大な指へと変化した。
変化した指先の爪が男を串刺しにしたが、男の躯は指先を汚した羽虫の様に扱われ、地面に擦り付けられ哀れなミンチとなった。
巨大な指はミンチが擦り込こまれた土をツメですくい上げ、そのままゆっくりと門の奥へ消えていった。
指が消えると巨大な扉はゆっくりと向こう側への景色を遮るように鈍い音と共に閉じていった。
門の扉が完全に閉じると、サビ落ちたはずの鎖が逆再生したかのように蘇り、再び開くことを拒否するように門に巻き付いていた。
しっかりと拘束された門は役目を終えたとばかりに、大きな地響きと共に大地へと飲み込まれていった。
轟音の後には四人と静寂だけが、そこにあった。
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