二十一話 拉致られましたが記憶がありません
今回はちょっとグロいです。
苦手な方はご遠慮ください。
二章完結までは一日一回投稿する予定です。
二章は全部で二十五話程度を予定しています。
更新時間は十九時です。
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朧気な意識が段々と覚醒していき、ミアは重い瞼をゆっくりと上げ周囲の風景を確認していった。
「ここはどこ?私は何で意識を……。私って何してたんだだっけ?」
「やあ目が覚めたかい?精神はちゃんと回復してるかな?ミアちゃん、ちょっと質問してもいいかな?」
目の前にはいつも通りのニコニコ顔のバルトが、優しくミアに微笑みかけながらゆっくりと話しかけていた。
「あ、はい。大丈夫です」
「それではミアちゃん、目覚める前ってどこまで覚えている?」
「う~ん。えっと、確かお腹が空いてメアリと一緒に食堂に向かって行ったような……」
ミアはバルトの言葉で反射的に思い出した事を、特に考えなく無く言葉にしていた。
「そうか食堂の記憶はあるんだね。その先は覚えているかな?」
「えっと、二人で食堂に行ったんですけど、誰もいなくて……。バルト様がお料理を運ばれてくるまでに、私達が何もしないのは申し訳ないってなって。テーブルとかを綺麗にして直ぐに食事が出来る準備をしようってメアリが言い出したから、二人でテーブルの上を拭いたりしてたんです」
バルトの表情は変わらずに笑顔だったが、ミアの視線は記憶を思い出すために彼方に向いており彼の顔を真面に見ていなかった。
「ふむふむ。それで?」
「その後は……そう!食堂を綺麗にしたらバルト様がワゴンを運んで食堂に入って来られたんです」
確かな記憶を思い出したのか、ミアはバルトの笑顔をしっかりと見ながら断言した。
「そうか。そこまで覚えているんだね。その後何があったかは思いだせるかな?」
「……う~ん。何かはっきりしないです。記憶に白いモヤみたいなものがかかっていて」
難しい表情を作って必至でその後の記憶を辿るミアは再び目線を彼方へとやった。
「そうなんだね。無理に思い出す事はないよ。そのうち思い出すと思うから」
「そうなんですか?バルト様が言うならそうなんですね。分かりました」
ミアはバルトの質問が一応終わって安心したが、なぜか心の緊張を緩めることが出来なかった。
「それじゃあ朝食を始めようか?」
「朝食ですか?まだ食べてませんでしたっけ?」
ミアはお腹をさすって減り具合を確認してみたが、食堂に来る前の空腹感は感じず少し疑問に思った。
「そうだね。朝食を食べたのはメアリちゃんだけだよ。ミアちゃんはまだなんだよ」
「え?メアリはもう朝食食べちゃったんですか?一人で食べちゃうなんてヒド~イ」
ミアはメアリの名前を聞き、自分だけ除け者にされたように感じて少しむくれた。
「まあまあ。そんなに怒らないでね。ミアちゃんが気絶してしまったしね」
「そっか。そうなんだ。メアリには悪い事しちゃったね。あ!メアリは今どこですか?」
気絶していたからなのだろうか、ミアがメアリの事を気にしたのが今になってだった事に彼女自身少し不思議に感じた。
「ご飯を食べて眠くなったのか、そっちで休んでるよ。賢い子だけどそこらへんは年相応の子供だね」
「そっかそっか。まだまだメアリもお子ちゃまね。後で揶揄ってやろう」
メアリの様子が知れたのとバルトのいつも以上の優しい笑顔に、ミアは心の中に浮いてきた小さな疑問は再び心の中に沈んでいった。
「あははは。二人は仲がいいね。僕の思っていた通りだよ。あの兄妹みたいだね」
「そうですよ。メアリは私の可愛い妹みたいなもんですからね。いや、むしろ天使かな。うっふふふ」
「いや微笑ましいね。おっと朝食を忘れる所だったね。今準備するからね」
バルトは側に置いていたワゴンに近づくと、中から前菜が盛られている皿を取り出した。
「まずは前菜だよ。肝とアボガトのブルスケッタだよ。どうだい?美味しそうだろ?」
「うわ~。本当に美味しそうですね。これどうしたんですか?」
「これかい?これは肝から僕が調達して料理したんだよ。ひと手間かかってるから美味しいと思うよ。レシピは秘密けどね」
バルトはニコリと柔らかい笑みをミアに向けると、ミアも思わず笑顔になってしまった。
「きゅ~グルグルグル」
ミアは料理のいい匂に誘われるように、お腹で音楽を奏でると同時に顔は赤いトマトの様に染まっていた。
「あはは。僕の小難しい講釈は不要だったね。さあ我慢しないで早く食べてね。遠慮せずにね」
「はい。じゃあ遠慮なく。いただきます」
ミアはブルスケッタの一つにフォークを突き刺すと、そのまま口に入れた。
「もぐもく。うわ~。これ美味しい。本当に美味しいです。バルト様って料理がお上手なんですね」
新鮮な肝がアボガトと和えられており、それが口の中でゆっくりと溶けていくのをミアはじっくりと味わった。
「そこまで褒めるほどじゃないよ。片手間みたいなものだからね」
「そんな事ないですよ。立派な料理人になれますよ。あっ!これって失礼でしたよね?」
「大丈夫だよ。僕を褒めようとしてくれたんだからね」
「バルト様は優しいですね。本当に……もう一個いいですか?」
「どんどん食べてね。次の料理もあるからね」
「はい。メアリも同じモノを食べたんですか?」
「材料がちょっと違うだけで内容的には同じだよ」
「材料が違うんですか?」
「多少ね。貴重な素材だからね」
「そんな貴重な材料の料理を本当に頂いてもよかったんですか?」
「大丈夫だよ。僕もミアちゃんみたいに喜んで食べてくれる方が作り甲斐があるからね」
バルトはミアに安心感を与えるような柔らかい笑顔をしながら、次の料理をワゴンから取り出そうとしていた。
ただその笑顔はいつものように顔面に張り付けたようなものではなく、心からの歓喜が溢れだして思わず口角を上げてしまったような笑顔だった。
「ミアちゃん。次は具沢山の冷製スープだよ。これは本当にいい具材で作った自信作だよ。是非味わって食べてね」
少し深めの皿に入れられたスープは冷気と共に芳しい匂を放っていた。
スープの匂にあがらう事が出来ないミアはバルトの言われるままに深めのスプーンで掬っていた。
野菜を煮込んだスープであろうか、綺麗な緑色をした液体はミアの本能のままに彼女の口に吸い込まれていった。
「はあ。美味しい。本当に美味しいです。これって野菜のスープですか?」
「野菜をメインに煮込んでいるよ。でも隠し味はね……スープを掬ってみて。まだ秘密の具材は形を保ったままだと思うから」
「何でしょうね?秘密の具材って?何かワクワクしてきました。楽しみですね」
ミアは空にしたスプーンを再びスープ皿に戻し、皿の底に沈んでいるであろう具材を探し始めた。
スプーンの先に何か大きめの具材が当たった感触にミアはニヤリとし、丁寧にスプーンで掬い上げた。
「なんの具材かな?え?これって?」
ミアがスープから持ち上げたスプーンに載っていたのは動物の目玉だった。
「ミアちゃん、どうしたんだい?」
「あの、バルト様……秘密の具材って目玉なんですか?」
「そうだよ。ミアちゃんは苦手だったかな?」
「いえ……その、あまり食べた事がなくて驚いただけです。食べられます」
ミアは手に持っていたスプーンを動かすと、乗っていた目玉も一緒に動き瞳がミアの方を向いた。
目玉に見つめられているような気分になったミアは一瞬がゾクっとしたが、目玉の瞳を見て既視感を覚えた。
「あれ?何だろう?何か見たことがあるような……。目玉なんか食べた事なんかないのに」
「やっぱり分かっちゃうんだね。さすが仲良し姉妹だね。凄い凄い」
バルトは唐突に噴き出した。
いつものニコニコしていた笑顔が崩れていき顔を伏せたかと思うと、バルトはくっくっと小刻みに肩を揺らしていた。
「え!バルト様それってどういう事ですか?」
「見たことがあるのは当たり前だよ。それはメアリちゃんの目玉なんだから」
伏せていた顔を上げたバルトは大きな口を耳まで裂いたように笑っていた。
その顔は普段のバルトとはまるで別人であり、喜びから来る笑いである事は間違いないがそれは酷く歪んだ笑いだった。
「え?え?なに?どういうこと?え?」
「う~ん。物分かりが悪いね。そのスープはメアリちゃんの目玉を煮込んだスープだって言ってるんだよ」
興を削がれたのか醜い笑顔のバルトが一瞬だけ無表情となり、ミアが未だ恐怖心を抱いていない事にイライラとした。
「何言ってるんですか?バルト様、趣味の悪い冗談ですよ」
「冗談なんかじゃないよ。さっきのブルスケッタだってメアリちゃんの肝とアボガトを合えたものなんだから」
「はははは。本当に笑えないですよ」
「ミアちゃんは頭が悪いね。あんなに美味しい美味しいって食べてたじゃない。妹同然の子を材料にした料理をね。ふははは」
ミアの徐々に青くなっていく顔を見て、バルトは思い通りの反応がやっと返ってきたことに再度から心から歓喜の感情が溢れ出してきた。
「そんなあああああああ!嘘よ!嘘よ!」
ミアは在らん限りの声で叫び、バルトが発した言葉を何としても否定しようとしていた。
「そんなに叫んでも君が妹を食べた事実は変わらないんだよ。ほら、その目玉も君に食べてもらいたくて見つめているよ」
ミアはメアリの薄茶色の瞳を視界に入れると本能が反応したのか、胃の内容物を盛大に吐いた。
「うげ、おえ~」
「あ~あ。彼女も可哀そうだね。折角、食材になったのにちゃんと食べてもらえずに嘔吐されるなんて。メアリちゃんのお肉はそんなに不味かったのかな?ふははは」
ミアが体を痙攣させながらも嘔吐を繰り返す姿に、バルトはその醜く歪んだ口角をさらに大きく開き高笑いをしていた。
「おえ。おえ。おえ。ゲホゲホゲホ」
ミアはバルトの言葉には答えず、とにかく胃の中身を全て自分の中から必至に吐き出そうとしていた。
「食事中なのに行儀の悪い子だな。そんなに粗相されると料理の続きを楽しめないね。可哀そうだけど少し拘束させてもらうよ」
バルトは涙を浮かべて必死に吐いているミアの両手両足を椅子に縛り付け、椅子自体を食堂のテーブルにロープで固定し動かなくした。
「さあ、これで多少はマシになるだろう。ミアちゃん、安心してね。まだまだ料理は続くからね」
「え?えあ、え?」
「ほら、メアリちゃんはここにいるよ。料理に使ったのは目玉と肝臓だけだからまだ活きがいいよ」
バルトは無造作にワゴンにかかっていた布を取り除くと、そこには手足を拘束されたメアリが横たわっていた。
彼女の腹は肝臓の辺りで切り裂かれており、顔は両目があった部分がえぐられた影響かくぼんでいた。
舌は悲鳴も上げれないようにナイフで串刺しにされており、顔や腹からは止めどなく血が溢れてワゴンの辺りに血の水溜りを作っていた。
「いやあああああああああああああああああああああああああああああ。メアリ。メアリ」
ミアはメアリに近づこうとしたが、椅子に拘束されており僅かに椅子をガタつかせるだけだった。
「解いて。私をメアリの側に……。メアリ!メアリ!嫌だ。死んじゃ嫌だ。メアリ。メアリ」
「あははは。いいね、その反応。僕が見込んだ通りだよ」
ミアは手首に拘束具が食い込むのも構わずに、メアリに必死で近づこうとしたがその距離は今の彼女には絶望的に遠かった。
「ミアちゃん、少しは落ち着きよ。メアリちゃんはまだちゃんと生きてるよ。よく見てごらんよ」
バルトの声を聞いたミアはメアリの様子を観察し、胸のあたりが上下しているのに気が付いた。
「よかった。まだ生きてる。はやく、はやくメアリを治療して」
「彼女は今日の食材だよ。そんな事する訳ないじゃないか。もちろん活きが良い状態を保つための治療はしているよ。あははは」
「何で?バルト様はお優しい方じゃないですか?こんな事をされる方じゃ……」
理性と感情がごちゃ混ぜになっているミアは何とかバルトから否定の言葉を引き出そうと、いつものバルトの優しさを強調しようとしていた。
「君が僕の何を知っているんだい?」
「バルト様が王都のスラム街で死にそうな兄妹を救ってたじゃないですか。そんなお優しい方がこんな酷い事をするなんて」
「あれ?ミアちゃん、そんな事を知ってるんだ。どこで聞いたんだろうね。まあいいか。僕はねこの世の全ての人を幸福にしたいんだよ。ところでミアちゃんに一つ質問だよ。人間はいつ幸福だと感じると思う?」
「それは……家族に愛されたり、友達と一緒に笑ったりとか愛する人と結ばれたりとか色々です」
「そうかもしれないね。でもね、その幸せっていうのはね手にしている時は全く気付かないモノなんだよ。人間はそれを当然と感じてしまったらもう幸福とは感じなくなるんだよ。だからね僕はそれを奪ってあげるんだよ。ある日突然当たり前にあった日常が壊されて初めてそれが幸せだったのだと感じるんだよ。僕は幸せを皆に届ける伝道師ってとこかな。あはははは」
「そんな事ない。そんなはずない」
「そうかな。ミアちゃんは両親を殺されて今までの生活を壊されて初めて、何気ない日常が掛け替えのない大切なものだと感じたでしょう?両親を殺した相手に復讐したいぐらいにね。両親が生きている時に幸福だって感じていたかな?」
「それは……」
「僕はミアちゃんの勘定を否定している訳じゃないんだよ。大切なモノを壊されたら怒るのは当たり前だからね。ただ悲しい事に人間は自分が持っているモノはそれを失うまでは大切なものだと感じないんだよ。これって不幸な事でしょう?だから……ね。僕は皆に今現在ちゃんと幸せの中にいるんだよって実感してもらいたいんだ。心から感じて欲しいんだ。だから幸せの絶頂にある時に殺してあげるんだよ。もちろん殺すのは本人じゃないよ。本人を殺しちゃったら苦しいだけだしね。その人にとって近しい人や愛する人を失ってもらんだよ。そうしらた喪失感を十分に味わう事が出来るでしょう?あの兄妹もそうだよ。スラムで死にかけたのを救って、平凡な日常を与えてあげた。それが当たり前と思えるようにね。その後は簡単だよ。兄が見ている目の前で妹の肉を切り取って兄に食べさせてあげたんだよ。どうだい?僕は優しだろ?ただね、これは失敗だったんだよね。妹は出血死してしまうし、兄の方は精神が壊れっちゃって廃人になってしまったんだよ。本当に困っちゃったよ。あの兄妹に幸せを心の底から感じて欲しかったのに、ただ殺すだけになってしまったんだよ。でもね、神はこんな僕を見捨てなかったんだ。今回の聖櫃の儀で僕は特級位の神聖魔法を覚える事が出来たんだよ。失った部位までも復活させる再生魔法と壊れてしまった精神を回復させる精神回復魔法をね。本当に便利だよ、この魔法は。ミアちゃんも見たよね、ベルティナのなくなった左腕が再生したのを。だから安心してね。僕は君の妹をいくら傷つけても死の事はないからね。もちろん君の体も今はどこも悪い所はないだろう?」
「一体何を言ってるんですか?」
「君が気絶する前はね、今と逆の事をしてたんだよ。つまりミアちゃんが食材でメアリちゃんがお客様になってもらってね。メアリちゃんは本当に凄いよ。スープの目玉を見てミアちゃんはメアリちゃんが食材になっていると気づいたけど、メアリちゃんは前菜を食べる前に食材に気づいちゃったよ。ミアちゃんと違ってっメアリちゃんは勘がいいし頭もいいね。ただ残念な事に少し強情な所があってね、食事の好き嫌いが多いんだよね。まあ無理矢理に前菜やスープを食べてもらったけど、食事は優雅に味わうもんだろ?直ぐに戻しちゃって本当に大変だったよ。でも安心してね。メインディッシュのステーキはしっかりと堪能してもらったからね。生きたままの君の体の美味しい部分を色々と切り取って、君の悲鳴をスパイスにレアで焼いたお肉を食べてもらったよ。メアリちゃんも途中で精神が途中で壊れちゃったけど僕の魔法であら不思議、元通りになっちゃうんだよね。最高だろう?それで何度も何度も繰り返してあげたんだよ。これで皆も幸せをもっともっと感じる事が出来るようになるんだよ。ミアちゃんも死ぬことなく、元通り回復ししているしね。本当に神様には感謝を捧げないとね」
「そんな事に神様に頂いた力を使うなんて……」
「これは僕の神への信仰心の表れだよ。むしろ神より寛大なくらいだよ。人は平等と解いているけど、それは神に許された人族だけだからね。僕は神に平等を許されていない人族も存在そのものを許されていない人族以外の生物も平等に幸福を感じてもらう努力をしているんだよね。だから君達姉妹も平等に扱ってあげてるでしょう?」
「どういう事?私達は普通の人間……」
「ふははは。これはこれは。面白いことを言うね。君たちは人じゃないよ」
「そんなことない。私達は人間よ」
「無知とは恐ろしいものだね。思い込みもここまでくると神も笑えないね。さっきもいったように人は神に許されて初めて人と認められるんだよ。君達は神に認められていない。よって君は人じゃない」
「私達は神の園の住人よ。神に許されてないはずない!」
「あはははは。まだわからないんだね。本当にメアリちゃんに比べると頭の悪い子だね。僕が最後まで言わなくても彼女はちゃんと気付いてくれたよ」
「一体いうゆうこと?」
「つまり神の園っていうのは簡単に言うと神の家畜農場ってことだよ。分かったかい?家畜ちゃん?あははは」
「家畜?違う!違う!私は人間よ」
腕に食い込んだ拘束具を伝って、点滴のようにゆっくりとミアの血を食堂の床に染み込ませていった。
「家畜だよ。しかも質の悪い事に神のために生み出されたのに大した能力もない出来損ない達なんだよ。要は牧場ってゆうよりは失敗作のゴミ捨て場って感じかな」
「私達は人間よ。失敗作でもゴミでもない」
「まあゴミっていうのは言い過ぎかもね。君達みたいな失敗作でも、聖櫃の儀では役に立つしね」
「儀式で役に立つってどういう事?」
「しょうがないな。君にも最高の幸福を感じてもらえるように、聖櫃の儀について教えてあげるよ」
バルトはミアの瞳の中にまだ微かにある死への抵抗をへし折るために、聖櫃の儀について語り始めた。
「聖櫃の儀っていうのは簡単に言うと司祭候補を劇的にレベルアップさせる儀式なんだよ。神に対しての儀式だから当然お供え物は必要だよね?そこで失敗作の君達が神の供物になってもらうんだ。教会の礼拝堂に大きな綺麗な箱があるのに気づいたかな?あの箱にね、供物を入れるとレベルアップするんだよ。素晴らしいよね。僕はこれでと特級位の神聖魔法を手に入れたんだよ」
「そ……んな。それじゃこの村で頻繁に人が殺されたり行方不明になってたのは……」
「儀式の供物に使うために殺したんじゃないの」
バルトは悪びれることもなく、さも当然のようにミアに答えた。
「そんな事のために父さんや母さんを殺したの?ヒドイ!鬼!悪魔!」
「悪魔とは侵害だね。僕は仮にも神の信徒だよ。失敗作に言われたくないんだけどね。まあ君の幸せを成すために必要な痛みと思って耐えるとするよ」
「お父さんを返して!お母さんを返して!」
「断っておくけど君の両親を殺したのは僕じゃないよ。他の誰かじゃない」
「誰が殺したのよ?カールラなの?」
「さあね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。僕が言えるのは君達姉妹を僕の餌にするからそれ以外の村人で供物を調達してって約束したんだけどね。カールラは彼氏を傷つけられてプッツンしちゃって僕の餌に手を出したからね。ブスリと殺したんだ。僕も皆を幸せにしない意味のない殺しはしたくないんだ。僕は殺人狂じゃないしね」
「あんたは殺人狂よ。仲間だった者でも平気で殺して」
「仲間?違うよ。僕らは目的が同じなただの同僚。仲間じゃないよ」
「狂ってる。あんた達は本当に狂ってる」
「そうそう。一つだけいいこと教えてあげるね。ベルティナは君達の両親を殺してないよ。というか家畜を殺した事がないよ」
「狂ったあんた達が何でそんな事が言えるのよ」
「うん?それはね、昨夜ベルティナに儀式について教えていたのは覚えているかな?」
「そうね……まさかベルティナ様も他の村人も殺したの?」
「結論から言うとそうだね。ただ彼女はね、家畜を殺すことに拒否感を持っていたからね。彼女は泣き叫んでいたよ。あの顔を見てると僕の幸福への欲求も随分満たされたよ。あはははは」
バルトは恍惚とした瞳をしながら昨夜の惨劇を思い出していた。