三話 変な家族紹介します
初投稿です。
一章が終わるまでは一日二話投稿します。
午前7時と午後7時です。
全十二話です。
よろしくお願いします。
最近はやりのAIでのナレーションを搭載。
ちなみにAIは人工知能ではなく、アホでいい加減って意味なので悪しからず。
AIナレーションは≪≫でくくっています。
特に物語に関係ないので読まなくても大丈夫だと思いますが、ネタバレとか飛んでもないことをぶっこんできますので読まれる方は気を付けてくださいますようお願い申し上げます。
ゼイゼイと息を切らした二つの人影が大地に転がっていた。
「僕の方が上ですね。それでも貴方も小さいのによく頑張って法ですよ。僕にはまだまだ余裕がありますから」
≪何を隠そう男は死線を潜り抜けたのであった≫
「俺こそまだまだやれるギャ。お前も俺ほどじゃないが人間にしては中々やる方だギャ」
≪そうゴブリンも死線を超え大きく成長したのであった≫
死闘を繰り広げた後のようなセリフを吐いている二人だが、現実は拙いチャンバラをしただけであった。
≪駄目っスよ。ナレーションで嘘つけないっスよ。死線っていうより余りにも弱いから冷たい視線って奴っスね。コケコケコケ≫
余りにも酷いチャンバラに興味を失っていた焼き鳥は完全リラックスモードになり、ビーチチェアにデプ~ンと寝そべりトロピカルジュース片手に読書をしていた。
読んでいる本はブックカバーが付いており何を読んでいるかは分からないが気分はもうバケーションな感じである。
もっともこれらの道具は中世ヨーロッパ程度の文明圏しかないここら辺の地域では決して見ることのできないものなのだが。
≪俺っちが今読んでいた本は主が危険視していた禁書っスよ。禁書!本人は気付いてない見たいっスが。コケコケコケコケ。これ伏線って奴っスか?そうっスか。仕方ないから主が気付くまで黙っててやるっスね。俺っちも主思いのいい従魔っスね≫
「グルグルグルグルグルグルグルグルグルグル~」
一種の静寂が支配するこの奇妙な空間に、けたたまし大音響が空気をかき混ぜた。
まだまだ体力を回復している二人だったが魔物の咆哮の様な音を聞いた瞬間は驚いたが、急いで起き上がり臨戦態勢に入るために其々の武器を構えた。
「グルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルグルルルルル~~」
張り詰めた空間に再び空気を切り裂き、鼓膜を引き裂くような爆音がとどろいた。
恐る恐る音のする方へ顔を向ける二人。視界に入ってくるのは、焼き鳥がお腹を空かせて恥ずかしそうにテヘペロとしている姿であった。
「紳士たる俺っちとしたことがお恥ずかしいっスね。おっ! もうお昼も過ぎてるっスし、今日はこれで訓練は終わりっス。ゴブリン君その片手剣は今回の報酬なので受け取ってくだいさっス。ではでは、さらばっス!」
辛うじて首が分かるようなドラム缶ボディーからペンギンのような小さな羽を広げると、ピンクの塊は大地を蹴って大空に飛び立っていったのであった。
無言でピンクのブロック肉を見送るしか出来なかった二人は再び思考を取り戻し現実に戻ってきた。
「今日はここまでにしてやるギャ。次は覚えておくといいギャ」ギャギャと騒ぎながら子ゴブリンは森の奥へと消えていった。
二人を見送りながらため息をついたリオンは昼食を取りに行くため、姉二人を探しながら自宅の洞窟へと帰路に付くのであった。
◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◆◇
森から出てくると、リオンは地面に横たわる九歳ぐらいの幼女が目に入ってきた。
≪そう、この女見た目は美幼女だが睨まれるだけで脱糞ものの……あ、いや、うん、そうっス。リオンのねぇねって奴っスよ。ねぇねっス≫
普通なら、ここは慌てふためくところだがリオンはいつものことだと言わんばかりに落ち着いていた。
見た目は幼女だが歴とした姉のネルだ。リオンが物心付いた頃から、この身長なので二十歳は超えているはずだが実際の年齢は分からない。
≪そりゃあそうっスよ。彼女は主の従者っスよ。主が創造した身体が変わる訳ないっス。俺っちはこっちの世界で生まれた生物だから従者とは違うっスけどね≫
「姉ちゃん。起きてください。お昼ご飯食べに帰りますよ」
「………………」
リオンの声かけに一瞬ビクッと反応した姉だが狸寝入りを貫き通すつもりのようだ。
≪あざとい奴っスね。多分ねぇねと呼ばないと返事しないパターンっスよ。ヒィ!……コケコケコケコケコー。ちょっと脱糞したかもしれないっス。いや嘘っスよ。帝国紳士が脱糞なんてするはずないっス≫
「姉ちゃん。姉ちゃん」と声を掛けながらネルの体を優しく揺らす。
「ねえね。むみゃむにゃ。ねえねと呼んで起こさないと起きないの な。むにゃむにゃ」と寝言のように要求をだしながらも長い白銀色のマツゲの下から薄っすら瞳覗かせて、こちらをうかがっている。
はぁ~と心の中で溜息をついたリオンはネルに優しく懇願するように「ねぇね。起きてよ。僕、ねぇねが起きてくれないと困っちゃうよ」と声をかけた。
とたんにネルは予備動作なしにリオンの目に留まらない速さで起き上がるのだった。
表情はいつも通り眠そうな半眼だが口は嬉しそうに端が吊り上がってヒクついていた。
「む。起きたの な。急いで帰るの な」と言うなり、ネルは跪いてリオンを背中におぶろうとする。
ただ姉は見た目とは違いリオンを片手で簡単に持ち上げられるが、さすがに見た目は幼女。
リオンにも男としての小さなプライドがあるのでねぇねを活用し丁重にお断りいたします。
≪まあ、ネルちゃんならパンチ一発で山が消し飛ぶっスけどね。今は記憶がないから一般人より力が強いくらいっスかね。……もしや……今って……俺っちが上位に立つチャンスじゃ……いやでもっスよ……≫
「ねぇね。小さい姉ちゃんも探さないといけないから今回は自分で歩きます」
「む。リオンも大きくなったの な。仕方ないの な。今回は諦めるの な」
表情は余り変わらないが先程ヒクついていたネルの口角はリオンの返事で若干落ち込んだのか通常モードに落ち着いていた。
「ネル姉ちゃん。スイ姉ちゃんのいる場所分かりますか?」
するとネルは「スイはいつもの場所でいつもの剣の訓練をしているの な」と言いながら、少し開けた場所を指さした。
「じゃスイ姉ちゃんも呼んで来るよ」とネルに声をかけスイがいる場所に向かった。
もちろんネルは自宅の洞窟には向かわず、長い白銀の寝癖直しヘアーを地面に引きずりながらフラフラとリオンについて来た。
◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◆◇
リオン達が少し開けた場所に着くと、ネルが言っていたとおりスイが剣の訓練をしていた。
リオンが剣の訓練をしているのでネルと一緒に行えばいいと思うのだが、できない事情がスイにはあった。
今現在スイは両手剣を正面に構えいる手がプルプルと震えていた。
これはスイに両手剣を構える腕力がないのではなく、剣を装備するとなぜか力が入らなくなるのだ。
≪そらそうっスよ。スイちゃんは純粋な魔法師っスからね。剣が装備できないのは当たり前っスよ≫
そのまま剣を振り下ろすと剣を取り落としたり地面に突き刺さったりとなる。酷いときはスッポ抜けた剣が壁に激突し木端微塵に破壊してしまうのである。
純粋な腕力だけならネル並のスイだが攻撃を標的に全く当てられないのである。剣なしで直に拳で殴った方が効果的なくらいだ。
もっとも破壊力はあるが殴る姿は猫ちゃんパンチを繰り出す子供のようだが。
≪記憶があったら殴り合いですら俺っちも負けるっスからね。完全攻撃魔法特化の魔法師のくせに俺っちと殴り合えるってなんスか。もう言葉も出ないっスね。でも今なら勝てるかも……何でもないっス≫
声をかけようとした時、スイは上段に構えた剣にそのまま引っ張られ大きな木に身体ごと激突した。
ドゴンと大きな音と共に地面を揺らしたが、大木に激突したスイは埃を被っただけで体は無傷だった。
「あいたたたぁ」と言いながらスイはむっくりと起き上がる。
「スイ姉ちゃん。もうお昼過ぎてますよ。迎えに来ましたよ」
「ほいほ~い。ちゃっと待ってるのだ」と明るく答えたスイは地面に転がっていた両手剣を拾い鞘に収めるとニコニコ笑顔でネオン達の元に走ってきた。
まるで犬だなとリオンは思いつつ「訓練はどうですか? スイ姉ちゃん」と軽く聞いてみる。
「まだまだなのだ。でも私はいずれ剣王と呼ばれる存在になるのだ。この大いなる力が封印されし深紅の瞳が最近渦ぎを増しているのだ。あふれる力の開放を待ち望んでいるのだ。フッ。古の契約に基づき……」
「スイ姉ちゃん。そろそろ帰りますよ」
この状態になると長くなると思ったリオンはスイの長々と続くであろうセリフの間に割って入った。
右目を左手で抑えならキリっとしたスイのドヤ顔がみるみるうちにショボンと打ちひしがれていく。
≪記憶失くしたのに中二病は抜けないってどんな設定っスか。ほんと≫
「私の深紅の瞳が……」とボソリと零す。
「いやいや。姉さんの瞳は緑だから」と咄嗟にリオンも呟いてしまい、その声を拾ってしまったスイは瞳に零れんばかりの涙を溜めていく。
これはしまったと思ったリオンはとっさに「スイ姉ちゃん緑の瞳はとても綺麗です」とスイに声をかけると、溜めていた涙はどこに行ったのか思うくらいスイの顔はパッと花が咲いたように明るくなった。
黙って二人を見ていたネルだったが、リオンの言葉を聞いた途端に普段眠そうな目をカッと限界まで見開き「の な! な! な! な!」とリオンに詰め寄った。
幼女が駄々をこねているようにしか見えないが、勝手知ったるリオンはネルに「ネル姉ちゃんの銀色の瞳も綺麗ですよ」と声をかけた。
途端にネルの限界まで見開いた目は通常モードの半眼に移行した。ただ無表情の中にも唇の端は嬉しそうにヒクついている。
非常に弟を愛する姉二人を連れ自宅となっている洞窟へ昼食を取りに戻るのであった。
≪愛するっていうより崇拝っスね。記憶が封印されてるっスから弟愛に目覚めたっスかね≫
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