八話 主人公久しぶりに出番をもらう
二章完結までは一日一回投稿する予定です。
二章は全部で二十五話程度を予定しています。
更新時間は十九時です。
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教会に着いた二人は村長の執務室側の建物の方に歩を進めていた。
「何でこっちの方に向かってるの?」
「お姉ちゃん、いきなり宿泊棟に行って教会のお兄さん達と鉢合わせしたらどうするのです?まず、誰もいなさそうな村長の執務室の様子をうかがって、そっちに忍びこむのですよ」
「そうなんだ。分かったよ」
納得したミアはメアリの腕を取って、ズンズン教会の建物へと近づき物陰にヒョイと隠れた。
「じゃあ頼りになるお姉ちゃん、頑張ってなのですよ」
「私、可愛いメアリのために頑張る」
ミアは鼻息荒くして気合を入れたが、メアリは言葉一つでコロッと騙されるミアが結婚詐欺しに騙されないか心配になってきた。
≪ああ、刻薄天使っス。外側が天使なのに心が非情っス。今時の若者はクール過ぎっス≫
魔力を耳に集中させたミアは村長の執務室の音を拾い始めた。
「あれ?何も音がしない。誰もいないみたいね」
「そうなのです?それじゃあ次は私が窓から部屋の中を覗くからお姉ちゃんは周りの警戒お願いなのですよ」
「わかったよメアリ」
メアリが目に魔力を集中するのを見て、ミアも自分の耳に魔力を集中し周囲の音を拾いだした。
ミアの耳には特に人が近づいてくる気配は感じ取れなかった。
それはメアリも同じようで、村長の執務室をうかがったが特に荒らされている様子はなかった。
ただ、村長の部屋のような不自然な綺麗さもなく、雑然としており他人が侵入したような感じはなかった。
「駄目なのですよ。特に変わった所はなにもないのですよ。不自然に綺麗な所もないのですよ」
目への魔力を解いたメアリはミアに残念そうな顔を向けた。
「そっか。やっぱ駄目かぁ~。じゃあ次は宿泊棟に行くよ」
ミアも一瞬残念そうな顔をしたが、年上の功で直ぐに表情を引き締めて次に行う事を決めた。
「お姉ちゃん分かったのですよ。お姉ちゃんはここから宿泊棟側の音を拾うのですよ。大丈夫そうならそのまま近づいて行くのですよ」
「そうね。それが一番見つかりにくい」
雰囲気を変えるのはミアの仕事だったが、細かい方針を決定するのは告白天使メアリちゃんだった。
特に文句のないミアは耳に魔力を集中させ、宿泊棟の周辺の音を拾ったが人のいる音は拾えなかった。
「メアリ、宿泊棟の周りに人はいないみたいね。棟の中までは近づかないとハッキリとは分からないけど……多分いるような気がする」
「そうなのですよ。じゃあ一端ここから離れて宿泊棟の窓の高さと同じ場所まで移動するのですよ。私の目で様子をうかがってから宿泊棟に近づいて行くのですよ」
「ちょっと慎重すぎる気もするけど。実際、村長も行方不明だし身長過ぎる事もないか」
一瞬難しい顔をしたミアだったが、すぐにニコッと笑いメアリの意見に同意した。
「あそこらへんの丘はどう?メアリ、ちょうどよくない?」
ミアは教会の敷地から少し離れた丘を指さして、メアリの反応をうかがった。
「そうのですよ。距離も大丈夫なのですよ、お姉ちゃん」
「じゃあ、早速行こう。レッツ覗き!」
「むぅ!の・ぞ・きじゃないので~すよ!」
「あはは。分かってるよ。私の天使のメアリちゃん」
「そんなんで誤魔化されないのですよ」
ほっぺたをぷく―と膨らませて拗ねているメアリは正しく天使のような可愛らしさがあり、ミアとしては眼福としか言いようがなかった。
≪こうやってモテない男が落とされていくっス≫
◇◆コケ◇◆コケ◇◆◇コケ◆◇コケ◆◇
メアリの膨らませていた頬を可愛いと心で悶えながらも、ミアは表面上メアリのご機嫌取りをしながら、二人で丘を目指した。
「着いたよ、メアリ。もう機嫌直してよ。もう覗きなんて言わないから」
「本当に言わないのです?絶対なのですよ。ぜっ・た・い・の・で・す・よ!」
「はい。分かりまっした。絶対もう覗きなんていいません。メアリ様許してください」
≪そうっス。誰にでも禁句ってのはあるもんスよ。デキる人は空気を読むっス≫
「よろしい。今回は許して進ぜるのですよ」
二人は向かい合って一瞬無言になったが、堪らず二人一緒に笑いを吹き出した。
存分に笑い合った後に、メアリの視線は村の外にある森の一点で止まって暫くそのまま固まっていた。
彼女は視線を教会ではなく、村のすぐ近くの森に固定したまま魔力を目に集中させていった。
「メアリどうしたの?固まっちゃって」
「えっ?ああ。お姉ちゃん、村のすぐ近くの森に人がいるのですよ。それも四人もなのですよ」
≪お待たせしたっス。主人公の登場っス。え?もっとカッコよくバシッと登場するんスか?無理っスよ。コケコケコケ≫
「四人?村の人?」
「違うみたいなのですよ。全員女の子なのですよ。私ぐらいの背格好の娘が一人とお姉ちゃん位のが三人なのですよ」
「ええ!!全員女の子?女の子だけで、この村にやって来たの?」「
≪コケコケコケ。聞いたっスか?四人の女の子っスよ。主が女の子に間違われてるっス。コケコケコケ。どこにカッコよく登場する要素があるっスか。コケコケコケ。尻で茶が湧くっスよ≫
「多分そうだと思う。女の子の周囲に他の人はいなみたいだし……」
「何だろうね。村長さんの失踪と関係あるのかな?」
「う~ん。関係ないような気がするけど……。何か小さい女の子が大きな女の子をオンブしてるのですよ。可笑しいのですよ」
メアリはプスと笑いを吐き出し、笑顔で女の子達の様子を見ていた。
≪本当っスよ。スイさんにおんぶされてる主ってのはシュールっスね。幼子に笑われても仕方ないっス≫
「おお。メアリと同じくらいの子が私ぐらいの子をオンブしてるの?力持ちだね。というか大きい女の子貧弱だね」
「なのですよ。黒いショートヘアの女の子が病弱みたいなのですよ。その子を銀髪の小さい子が担いでる感じなのですよ」
≪コケコケコケ。題名を変更っス。貧弱主人公、異世界で幼女にオンブされる。どうっスか?え?『幼女』を『ねぇね』に変更っスか?ちょっとそれは厳しいかもっス≫
「足とか引きずってないの?」
「うん。上手く担いでるのですよ。あの銀髪の子は見かけによらず相当力があるのですよ」
「へ~。凄い。メアリにも私を担いでもらおうかな……」
「お子様な私は担げないのですよ!それに後頭部に硬いモノが当たると痛いのですよ……」
「硬いモノ?………ムッ!私の胸は開拓中。柔らかくなってる最中で―す」
ミアは胸を耕すジェスチャ―で自分の胸が硬くないと言い張った。
≪うまい事言うっスね。硬い荒野でも耕すことによって柔らかくなるっスね。覚えておくっス。持たざる者に希望を与える言葉っス≫
「それと他の金髪の子と胡桃色の髪の子は普通そうなのですよ。あっ、胡桃色の髪の子は剣を持っているのですよ。剣士なのです?金髪の子は教会の人?のようなちょっと違うかもなのですよ。少し派手な神官服なのですよ」
「剣士と神官か。私はこれからあの子達の音を拾うね。教会の宿泊棟が後になってしまうと思うけど」
≪主、カッコよく決めるっスよ。音を拾われてるっスよ≫
「あっちは焦らなくても逃げないのですよ。こっちの見知らぬ四人組の方が気になるのですよ。私もお姉ちゃんに賛成なのですよ」
ミアはメアリの返答を聞くと直ぐに魔力を耳に集め、周囲の音は遮断して女の子達の音を拾った。
『私はねぇねなぁ~のな♪のな♪のな♪』
『ネムちゃんはご機嫌ですね』
『そりゃあそうなのだ。リオン君をおんぶしてるからなのだ』
『私もリオンちゃんが小さい頃はよく抱っこしたものです。もう可愛くて可愛くて』
『私も!私も!抱っこもオンブもしてたのだ』
『うう~!もうやめてくれ。悶えるくらい恥ずかしい。体力のない自分が恥ずかしい……』
『大丈夫の な!ねぇねは力持ちの な。遠慮はいらないの な!』
『そうなのだ。ネムは物理攻撃完全特化だから従者の中でも攻撃では強い方なのだ』
『そうなの?じゃあネムちゃんの防御は弱いのですか?」
『魔法はどんな弱いモノでもダメージを負うのだ。物理攻撃だと物理防御特化のコナーノの攻撃ぐらいならネムがノーガードだとダメージを食らうと思うのだ。もちろんネムちゃんも攻撃を避けたり受け流したするから中々当たらないのだ』
『ええ!!そんなに。コナーノさんって機械の体した人だよね?』
『そうなのだ。機械仕掛けのガーディアンのコナードなのだ。彼は物理防御特化だから攻撃力は弱いのだ。その代わりに防御力はピカイチなのだ。ネムでも彼が要塞化したらダメージを与えるは難しいのだ』
『むっ!!の な。ねぇねはいつかあいつの防御を突破してやるの な。弟のためなの な。にへらの な』
『頑張てください、ネムちゃん。私も頑張ります。いつかこの拳をゴブ君に叩き込みます』
『わ~。皆やる気なのだ。じゃあ私も闇の殺人剣をマスターするのだ』
四人の会話を聞いていたミラは顔面を引きつらせていた。
≪身内の話は駄目っスよ。何でこうカッコよくできないっスかね≫
「お姉ちゃん、どうしたのです?何かあったのです?」
「うんとね。物理攻撃とかなんとか言ってるから冒険者かな?でも一人、背中に剣を持った人だと思うけど殺人剣とか言っていたから危ない人達かもしれない……」
「そうなのです?見る限りでは、ほのぼのと会話しているように見えるのですよ。何か黒髪の人が顔を真っ赤にして一人悶えている感じなのですよ」
「どうしようかな?直接話してみた方がいいかな?」
「う~ん。そんなに焦らなくてもなのですよ。もう少し様子を見るのですよ。声をかけるのはそれからでもいいと思うのですよ」
「そうね。じゃあもう少し音を拾ってみる。メアリは四人の様子を目で見張っておいて」
「はいなのですよ。お姉ちゃんも無理だけはしないのですよ」
「分かってる」
ミアは返事をするなり耳に魔力を集め、再び四人の音を拾い始めた。
『スイ、もうそろそろ降ろして』
『…………の な?』
『あのスイさん?』
『…………の な?』
『多分スイちゃんはねぇねと呼ばないと反応しないのだ』
『あら、スイちゃんはもう立派なお姉ちゃんですね』
『そうなの な。スイは立派なねぇねなの な』
『はぁ~。分かりました。ねぇね、悪いけどそろそろ降ろしてほしいな』
『むう。仕方ないの な。ねぇねはお姉ちゃんだからの な』
『ありがとう、ねぇね』
『ふっ!!ねぇねに不可能はないの な。いつでもオンブするの な。肩車でも余裕なの な』
『え―!!次は私の番です、ネルちゃん。お母さんにも譲って欲しいです。ね!お願い!!』
『……仕方ないの な。ねぇねはお母さんにも優しいの な。次回は譲ってあげるの な』
『わー。ありがとう、ネルちゃん。大好きです』
『じゃあ私はリオン君とこの漆黒の魔剣について語るのだ』
『お~い。俺の意思はそこにないんだが。希望は聞いてくれない感じかな』
『諦めるっス、主。こうなったら主の声なんて聞こえないっス。聴いてもらうには主があの三人にキスとかしたら直ぐ聞いてくれるっスよ』
≪姿は見えないっスが俺っちの登場っス。凛々しい声っス。メスたちが堪らす卵を産むくらい渋い声っス。目を瞑るとピンクの猛々しい姿が見えるっス≫
『いやいやいや。人としてそれはダメだろ』
『主なら何やっても許されるっスよ』
『………後が怖い』
『主、返事までに間があったっスね』
≪これだから非モテ男は。チャンスを生かせない奴っス≫
『聞かないでくれ。後、今の事しゃべったら焼き鳥にするからな』
『大丈夫っス。しゃべった時点で俺っちが真っ先に殺されるっス』
≪コレはフリって奴っスね。喋れって事っスか?笑いを取るために俺っちは死ななければいけないっス。コケ―≫
「うん?最後にしゃべっていたのは誰?一人は黒髪の女の子だと思うけど……。三下みたいな男の声だったし……。あれ?女の子四人だけだよね?」
≪三下ってどういう事っスか?俺っちの主を三下扱いするなんてヒドイっス。苦情を入れるっスよ≫
「どうしたのです?お姉ちゃん」
「何か男の人の声が聞こえたの。いないよね?四人だけだよね」
「そうなのですよ。四人だけだなのですよ。あっ、何な鳥みたいなのが黒髪の女の子の頭でバサバサしてるのですよ」
「え?鳥?焼き鳥にするとか言っていたけど……。鳥?まさか鳥がしゃべるの?ほんとに?」
「あれは鳥というよりはピンクの豚のようなのですよ」
≪コケ―!ピンクの豚って何スか?俺っちは脱糞のできる鶏っス。見くびらないで欲しいっス≫
「何かその鳥がしゃべるみたいなの。黒髪の子としゃべってってた。黒髪の子を主とか言っていたし」
「しゃべる鳥なんているのです?黒髪の人が従魔師だとしても話をする鳥なんて聞いた事ないのですよ」
≪違うっス。俺っちはペットじゃないっス。俺っちはモテモテ団の団長っス。主は団員Aっス。団の規律は厳しいっスよ。誰でも団員になれる訳じゃないっス≫
「だよね。ここが田舎だから聞いた事がない訳じゃないよね?」
「だと思うのですよ……」
「謎は深まるばかりだね。でも四人は家族だって事が分かったよ。ちっちゃい子が黒髪の子のお姉ちゃんみたい」
「え?逆じゃないのです?」
「本当だよ。ちっちゃい子が自分の事を『ねぇね』と呼ばしていたし。で金髪の子がお母さんみたいだよ」
「嘘なのですよ。私を騙そうとしても駄目なのですよ。どう見ても金髪の子はミアお姉ちゃんと同い年なのですよ。仮に子供を産んでいたとしてもあんなに大きな子はいないのですよ」
「もしかしたら見た目はあれでも歳は三十歳超えているとか」
≪シューリンちゃんの魂は三十路っスよ。熟女っスけど人妻じゃないっスね≫
「それこそまさかなのですよ。あっ、もしかしてエルフとかなのです?でも耳は長くないのですよ」
「考えられるのな孤児なんかで彼女が母親役をやっていたとか」
「服装を見る限り孤児には見えないのですよ。本当の母親じゃなくて母親役をやっているという可能性はあるのですよ」
「どうしようか?直接接触してみる?危ない人達には見えないし」
「そう……なのですよ。様子を見ながら近づいてみるのですよ」
≪ここは攻撃あるのみっス。注意事項は従者を怒らせない事っス。主っスか?主なんて余裕っス≫
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