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そう、聖女の息子は魔王様だったのです。  作者: 奥の脇道
そう、覚醒したのは魔王様だったのです。
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二話 永遠のライバル登場

初投稿です。

一章が終わるまでは一日二話投稿します。

午前7時と午後7時です。

全十二話です。

よろしくお願いします。

 焼き鳥のプリンプリンと左右に動くお尻を眺めながらしばらく後をついて行くと、前方の草むらで気配のようなものを感じた。


 そちらに視線をやると背丈の長い草がガサガサと揺れていた。


 何が起きても対応できるように腰に吊るしていた片手剣を抜いて右手に構え、草の生い茂ったさらに深い部分に意識を注いだ。


 しかし、草は揺れるだけで何も出てくる様子はない。


 視線は動かさずに焼き鳥の気配を探るとピンクの物体は何でもないと言うように音の鳴る方へとプリンプリンと歩いて行く。


 性格は想像の斜め上の隣のビルの壁にめり込むような最悪を地で行く形なのだが、なぜか憎めない、そんなピンクの塊の先導に信頼を置いているのか警戒を若干緩めてリオンはついて行く。


 その行動は少年が何だかんだでピンクの塊に信頼を置いている査証なのだが本人はあまり気付いていないようだ。


≪聞いたっスか?主は俺っちの事を信用してるっスよ。コケコケコーって奴っス≫


 そんな様子を気配で感じている桃色謎物体は、密かに悪戯が成功して嬉しくてたまらない悪ガキが笑いをかみ殺すような表情をしていた。


 もちろん生物上は鳥なので笑いをかみ殺しているのはクチバシでだが。


 焼き鳥は振り替える気配を殺し少年の目の前からこつ然と消えた。


 一瞬呆気に取られたリオンだが次の瞬間、背中に柔らかい感触があったと思ったら草むらへ頭からダイビングさせられていた。


 もちろん犯人は焼き鳥であり、あのデカいお尻でリオンの背中にヒップアタックを食らわしただけなのだが。


≪安心するっス。俺っちの尻は桃尻っス。柔らか仕上げなので怪我なんかしないっスよ≫


 豪快なヘッドスライディングをかましたリオンだが、額に痛み走ると同時に体の移動も何とか止まった。


 リオンは声を上げようとしたが口を何か柔らかいもので塞がれており上手く行えなかった。


 ゆっくりとまぶたを開け確認すると、そこには緑色の顔があり彼の口を塞いでいるのは緑の唇であった。


「グギャ!」と変な声を出したリオンはアワアワと慌てて、転がりながらドタバタとその場から離れた。


「アギャ? グギグギ」と呻き声を上げていたが、先程の衝撃で脳震盪でも起こしたのか大地に転がったままだった。


≪あれ?不幸な事故が起きちゃったっス。俺っちは知らないっスよ。全ては地球の重力が悪いっスよ。安全のために少しナレーションをお休みするっス。じゃあコケコケコー≫


 リオンもある程度は落ち着いたのか、冷静に大地に寝そべる緑の物体を観察した。


 その物体は人間のように二本の足があり、腰のあたりに汚い布を巻いている。上半身も人型をしているが顔は若干つぶれ、口には小さな牙があった。


 リオンの観察から導き出した答えはゴブリンだった。


 ゴブリンとは、この世界では全身緑色で身長一メートル前後の人族のような姿形をしている。


 また戦闘力は非常に弱く一般的な兵士が一人で楽に一匹を倒せる程度であるが、繁殖力が非常に強く数を集めさせると非常に厄介となるゴキブリのような魔物でもある。


 よくよく観察しているとゴブリンはまだ成体となっておらず全長は七十センチほどの子供と思われた。


「焼き鳥! これはどういうことですか?」


 リオンは目線をゴブリンから外さず、状況を知っているであろう焼き鳥に声をかけた。


「コケコケコケコ」(どうもこうも訓練の相手を連れて来ただけっス)


「先程言っていたことですか?状況はわかりました。このゴブリンで訓練すればいいってことですね」


「コケコケ! コッコ! コッコッコ!」(そういう事っス! もっともリオンは剣の訓練じゃなくキスの訓練しっちゃったっスね! コケコケコケ)


「絶対に殺して羽を抜いて焼き鳥にしてやる。ぬぐぐ」


「コケコッコ。コケ。コケケッケ。コッコッコ!」(やれるもんならやってみろっス、坊や。おっと、もう大人の階段登っちゃったから坊やじゃないっス。もう『坊やだからさ』とは言えないっス。コケコケコケ)


「絶対に殺す。それと鳴き声と訳の長さに乖離があるよう気がするのだが……」とリオンは焼き鳥にジト目を向けた。


「コケ」(これには大人の事情があるっス。あっ! 坊やは大人になっちゃったっス。この言い訳は使えないっス。違うっス。世界の真理というか見えざる力が働いているっス。禁忌ってやつっス)


「はぁ~! さらに比率が崩壊してるし。言い訳とか口走っているし」


「コケケ!」(俺っちの【クチバシ】が素晴らしいからって【口走る】と掛けるとかリオンのギャグセンスは最低っス。スケートの大会で金メダルを獲得できるくらいの滑りぷりっス)


「スケート? 金メダル? 何のこと?」


「コッココココココココココココココココココココココココッ!」(……………………………………)とピンクの塊は焦ったように口走り、目線をシュパと逸らした。


≪ちょっと様子見に来たっス。ナレーション再開っス。さすがの俺っちも本篇では失言なんてしないっスね≫


「まあいいですよ。そこは突っ込まないことにします。ところで、あのゴブリンは何ですか?」


「コケコケ。コケ」(そうっス。訓練に連れて来たっス。話を脱線させるのは止めて欲しいっス。これだか坊やは……)


 額に青筋を浮かべながらリオンは再び視線を子ゴブリンに戻した。


 子ゴブリンは回復したのか周囲を見回し、こちらに顔が向くとそこで首を止め、こちらを激しく睨んで「グギャグギャ」と叫んできた。


「グギャ! グギャ!」叫んでいるが、もちろんリオンに分かるはずもなく分かりそうな焼き鳥へ何を言っているのかを訊ねてみた。


「コケコケコッコ!」(俺っちが騙して奴を連れて来たって騒いでいるっス。っていうか翻訳するのが邪魔くさいので魔法を使うっス)


 焼き鳥は小さな翼を広げ、デッフリとでたお腹を二回揺らし「コケッコッコー」と叫んだ。


 すると左右の翼から光り輝く魔法陣が現れ、それぞれレオンとゴブリンに魔法陣が吸い込まれていった。


「今のは何の魔法ですか?」とリオンは目を輝かせて焼き鳥に聞いてみた。


「モンスタートランスレーターと言って知性のない魔物とある程度の会話が出来るようになる魔法っス。知性のある魔物は普通に話が出来るし知性のない魔物は翻訳しても会話が成り立たないので使いどころが微妙な魔法っスね」


「それでも凄いですよ! 焼き鳥ちゃんが魔法を使っているところを初めて見ました。僕には魔力がないから魔法が使えないですし」とリオンは若干見直したと焼き鳥をみつめるのであった。


≪聞いたっスか。主が俺っちの事を尊敬の眼差しで見てるっスよ。困ったのもっスね≫


 そんな視線に天狗になった豚鳥は、ゴブリンに声をかけるのであった。


「ゴブリン君。待たせて、すまないっス。坊やとの訓練に付き合ってくれたら約束通り片手剣をあげるっス。剣を手に入れてコブリン君の妹を守れる強い兄になるっス」


「分かったギャ。俺を騙したんでないなら約束通り戦ってやるギャ」


≪そう!このゴブリン、群れからはぐれた野良だが数日遅れで生まれた妹をとても大切にしてるっス、所謂シスコンゴブリン略してシスゴブって奴っス≫


 それを聞いて満足した焼き鳥は、にっこりとクチバシでほほ笑みながら、どこから出したのか分からない片手剣を子ゴブリンに手渡した。


 子ゴブリンは片手剣を受け取り嬉しそうに素振りを始めた。もっとも素振りする剣先にハエが休憩に留まっていたが。


「妹ちゃんにはさっきのリオンとの接吻は黙ってやるっス。思いやりって奴っス。コケッケ」


 焼き鳥はニヤニヤしながらやる気を出していた子ゴブリンにチクリと一言とのたまうのだった。


 安定した休憩所をハエに提供していた子ゴブリンだが、その一言で片手剣を取り落としワナワナ震えだした。


「俺の人生は終わりギャ。こんな奴に。こんな奴に。ギャ。ビャ」と身体を大地に埋め、泣きわめいた。


「僕だってこんなこと忘れたいわ!」とリオンも自分を馬鹿にしてきた子ゴブリンに向かって叫んだ。


「そうだギャ。あいつの頭をこの片手剣で叩き潰して、なかった事にするギャ。これから訓練ギャ。これは千載一遇のチャンスだギャ。これでお兄ちゃんとしての威厳は保てるギャ」


 おいおい声が駄々洩れだぞとリオンは思いながら、拳を握りしめて強く立ち上がる子ゴブリンをかわいそうな者でも見るように苦笑いした。


≪そう!このシスゴブ、妹の事を考えるあまりリオンがいなくなっても、現場を焼き鳥に見られている事を忘れていた≫


「そろそろお笑いネタはいいっスか? 時間も押してるんで訓練開始するっスよ」と短い翼をパンパンと叩いて、リオンと子ゴブリンの注意を引いた。


 お前が言うなと思ったリオンと子ゴブリンだったが口に出すと余計に時間がかかると思ったので、お互いに顔を見て頷きあうのであった。


 焼き鳥に従い、十メートル程度を開けて向かい合った場所でリオンと子ゴブリンはお互いに気合の籠った視線を飛ばし始めた。


 子ゴブリンは剣先を地面に向けて構えており、防具らしいものは装備していない。というか服すら着てない。身に着けているのは鼻筋をツンとさせる汚い腰巻だけだ。


 両者の準備が終わったのを確認した焼き鳥は高らかにお腹を揺らしながら試合開始の合図を出した。


 掛け声と同時にリオンと子ゴブリンはそれぞれ片手剣を抜き、自分の間合いにするため駆け出した。


 間合いに入ると同時にリオンは上段から剣を振り下ろした。振り下ろした斬撃は殻に閉じ籠っていたカタツムリが大地にじわりと姿を現すような速さだ。


 それに対し子ゴブリンは下段から剣を突き上げる。その様は地べたを這いずるナメクジが天に向かって突き出す角のようなスピードだ。


 要は途方もなく遅い剣速であるのだ。焼き鳥がお茶を入れて優雅に味わうくらいには……。


≪遅いっス。ナレーションしてる俺っちも眠ってしまうくらい遅い剣速っスよ。デンデンムシムシカタツムリ♪お前の頭はどこにある♪ヤリだせ♪ツノだせ♪目玉だせ♪ああ!しまったっス。俺っちとしたことが下ネタを言ってしまったっス。え?どこが下ネタだって……カタツムリのヤリってのは生殖行為で刺激するときに相手にブスッと刺す奴っスよ。なろう運営に何か言われるかもしれないっス。聞かなかったことにするっス。これで解決っスね。ふっ!これだから出来るナレーターってやつは現場での対応力がありまくりで罪作りっスね。ふっ!コケコケコケって奴っス≫


 焼き鳥がお茶を存分に味わい終わった頃、お互いの剣が激しく激突しリオンの剣は天高く飛んで行く。ことはなく後方にボテッと落ちた。


 逆に子ゴブリンの剣も大地にめり込むこともなくカランと乾いた音と共に地面に落ちた。


 それを目の当たりにした焼き鳥は声を出すことも出来ず、スゥーと目を閉じた。


 リオンと子ゴブリンは恥ずかしいのかお互い顔を赤くしながら剣を拾ろい元の試合開始線に戻って行った。


 そんなこんなで子供のチャンバラ以下の激しい訓練が昼過ぎまで繰り返されるのであった。


≪何スか。これ。何スか。戦闘力五か。ふっ!ゴミめって奴じゃないっすか。愛する息子が強くなって母親を守るんじゃないっスか。あっ!物語の始めは弱くて徐々に強くしようって魂胆っスか?もう仕方ないっスね≫


感想があればぜひお願いします。

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